ケータイ小説、出版化されれば7割が購入

2008年04月10日 12:00

モバイルイメージ「公募ガイド」の出版などを行う公募ガイド社は4月9日、携帯電話上で読まれることを前提に執筆された小説「ケータイ小説」に関する調査結果を発表した。それによるとケータイ小説をよく読む人に対し「自分が面白いと思ったケータイ小説が出版された場合、改めて買うか」という問いに、8割近くが「買う」と答えていることが明らかになった。昨今の書籍販売状況においても「ケータイ小説」の冊子化された作品が多数上位を占めているが、その傾向を裏付ける調査結果となっている(発表リリース)。

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今調査は携帯電話サイトの「公募懸賞ガイド」上で2007年11月1日から2008年1月15日まで行われたもので、サンプル数は6272。設問ごとに多少有効数が異なる。男女比、年齢階層比などの属性は非公開。なお携帯電話上からの調査なので、携帯電話上の小説に関する今回の各種設問には、世間一般と比べると多少有利に数字が働く可能性を考慮する必要がある。逆に「携帯電話利用者の範ちゅうで」と考えれば精度の高い結果といえるだろう。

よく読む人は「面白さ」を、たまに読む人は「ヒマつぶし」を求める

今調査結果は「ケータイ小説」という新しい分野に関して、非常に興味深い内容がいくつか見受けられる。この設問と回答もその一つ。ケータイ小説をよく読む人・たまに読む人それぞれに対し「ケータイ小説を読む理由」についてたずねたところ、際立った違いが見られた。

■ケータイ小説をよく読む人(754人)
1.作品が面白い……511人
2.気軽に読める……171人
3.ケータイの方が読みやすい……16人
4.その他……56人

■ケータイ小説をたまに読む人(754人)
1.気軽に読める……563人
2.作品が面白い……99人
3.その他……73人
4.ケータイの方が読みやすい……27人


熟読派は「面白さ」
気まま派は「手軽さ」

ケータイ小説をたまに読む人は他の携帯電話のコンテンツ同様に「気軽さ」「お手軽さ」を求め、暇つぶしのためにアクセスする傾向が強い。一方でよく読む階層では「作品の面白さ」に重点を置き、内容をしっかりと把握し注力するようすがうかがえる。

「携帯電話のサービスなど、すべてが皆時間つぶしのための『ポテチコンテンツ』(ポテトチップスを食べるかのようなお気軽さで楽しめるシンプルなコンテンツ)だろう」という印象が強い。しかしケータイ小説をじっくりと読む、少なからぬ層にとっては単なる時間つぶし以上の重きをおき、通常の小説同様に「面白さ」「内容の充実度」を求めていることが分かる。

「熟読派」「気まま派」の違いは好きなジャンルにも現れている。「熟読派」は圧倒的に「恋愛小説」が多く78.5%。一方で「気まま派」もトップは「恋愛小説」だが割合は42.3%に落ち、ついで「ミステリー」が19.3%・「エッセイ・ノンフィクション」が17.8%を占めている。少なくとも「ケータイ小説」の濃いファンともいえる「熟読派」は「恋愛小説」にお熱なようである。

よく読む層の8割近くが「面白いなら出版されても買う」・ただし元々は……

最近出版界でも話題になっているのが、「ケータイ小説」の冊子版が好調な売れ行きを示していること。それを裏付けるのが次のデータ。「面白いと思ったケータイ小説が出版された場合、改めて買いますか」という問いに対し、「よく読む派」の77.1%が、「たまに読む派」でも34.9%が「買う」と答えている。

■ケータイ小説をよく読む人(754人)
買う……581人(77.1%)
買わない……49人
その時による……124人

■ケータイ小説をたまに読む人(754人)
買う……266人(34.9%)
買わない……106人
その時による……390人


「ケータイ小説」を読む人たちのうち、その作品が面白ければ少なくとも3割以上が「出版されても買う」と答えている。しかも熟読層ならその割合は8割近くに跳ね上がる。読者のニーズに応えるという観点からも、「ヒットセールスになる可能性が高い」という点でも出版社が続々と人気「ケータイ小説」を先を争うがごとく出版し、ベストセラーを生み出しているのが理解できよう。

では「ケータイ小説」を読む層、そしてその中の少なからぬ数の「出版された(紙媒体としての)ケータイ小説も買う」という人たちは、元々本好きなのだろうか。意外にも「熟読派」、つまり「ケータイ小説をよく読む人」ほど普通の紙媒体の本は読まないという結果が出た。

1年間で購入した本、借りた本あわせて小説は何冊くらい読みますか?(「ケータイ小説」(出版化されたもの)以外で)
1年間で購入した本、借りた本あわせて小説は何冊くらい読みますか?(「ケータイ小説」(出版化されたもの)以外で)

要は「ケータイ小説をよく読む人たちは、元々紙媒体の小説などをよく読む読書好きではなく、あくまでもケータイ小説'だけ'が大好き」な人たちであることが分かる。

元々「ケータイ小説」を読まない傾向が強いほど、一般紙媒体の小説も読まない人の割合が増えるのは容易に理解できる。「小説のような文章を読むのに抵抗感がある」からだ。しかし「ケータイ小説」をよく読み、出版されたら買う人が7割強を占める層でも「普通の小説はまったく読まない」人が大多数を占めるという現実には驚かざるを得ない。てっきり「元々本を読むのが好き。文章が好き。だからケータイ小説も好き」と安易に考えがちだが、現実はまったく正反対だったということになる。


「ケータイ小説」は閲覧する環境の特異性(携帯電話の画面という限られた表示面積内で、特殊な操作系による「ページめくり」が行われる)や、読者の大部分が若年層であることから、表現や構成が通常の日本語とは異にする部分が多い。「スイーツ(笑)」という表現に代表されるように、「ケータイ小説」そのものやそれを愛読する層を忌み嫌う人たちも少なくない。また、出版され売れ行き好調な「ケータイ小説」の冊子版に対し、日本語の乱れを懸念する向きも多い。

「ケータイ小説」は
文学でなければ
普通の小説でもない。
携帯電話から派生した
「感じる表現作品」
なのかもしれない。

今回のデータを見る限り、「ケータイ小説」層は元々「読書はあまり好まない」人たちであり、「ケータイ小説」が無ければ読書とは無縁の世界を生きていたであろうと思われる。無論読み書きをしないという意味ではなく「趣味で本を読む」という意味だ。つまり彼ら・彼女らは「ケータイ小説」を読書の一種としてではなく、「感覚的に体感する新しいメディア・表現作品」として楽しんでいるのであり、「読書とは似て非なるもの」と認識しているのかもしれない。

過去に俳句や短歌、狂歌が生まれた当初は、世間一般からは似たような扱いを受けていたのだろう。あと数十年もすれば「ケータイ小説」もそれらと同じように、普通の小説・文学とは別枠で分類化されるようになる可能性すらある。

また出版社にとってもこの層へのアプローチは「普段小説を手に取らない層に本を買わせる機会を与えた」という点で、「新たな読者層の開拓」と受け止めることもできる。濫立は問題だが、今後携帯電話のサービスを提供する企業との提携を伴う、各出版社による積極的な出版ブームが起きる可能性も否定できまい。


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