誰もが誤解している(かもしれない)10の投資神話
2008年04月21日 19:40
サブプライムローン問題に端を発する金融信用不信は、金融工学が絶対であるという市場の常識を根底から覆しつつある。いや、計算の上では「絶対」なのかもしれないが、それを扱う人間の姿勢や思惑に問題があるのだろう。ましてや個人レベルでの資産運用では、「これは常識だ」と思われていることが実は単なる絵空事だったり、幻想でしかなかったこともよくある話。【USA TODAY】では「迷える子羊」こと個人投資家たちに対し、「10の投資に関する神話」とその真実を提示し、もっと賢く投資をしようと訴えかけている。日本の実情と合わない部分も見受けられるが、非常に役立つ内容なのでここに(意訳レベルで)紹介することにしよう。
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1.投資のことを良く知っていれば詐欺の手に引っかかることはない
……研究調査によると、詐欺の被害にあった60歳以上の投資家のデータを見る限りでは、正反対の結果が出ていることが判明している。つまり財政などの点で博学な人ほどだまされやすいというのだ。そして恐らくは60歳未満の人にもそれは当てはまるだろうと元記事では述べている。日本語で該当する言葉を捜すと「生兵法は大怪我の元」だろうか。
2.投資資金の運用実績は引退後の生活をハッピーにさせてくれる主要因となる
……実際のところそのように上手くいった事例はほとんどない。定年退職後の生活をより豊かにする確実な方法はずばり「節約すること」。長期的に高利の運用利回りを「皮算用」するくらいなら、低利回り+節約を考えたほうが現実的。ましてや下手な投資信託を選ぶと「痛い目にあう」。
3.ドルコスト平均法はいかなる場合も万能である
……ドルコスト平均法(投資対象が値を下げた時はたくさん、上げた時は少数購入し、一度の投資機会で同じ額だけ投資をすること)は多くの場合において、有効的な投資法として伝えられている。もし手元に多額の投資資金があるのなら、それをわざわざ分散する必要はない、全般的に株価は上昇する傾向にあるのだから。
もちろんこれは「アメリカ」でのお話。【株価急落!~資産をどこに移すべきか・株?債券??それとも現金!?】にもあるように、現状ではアメリカの株価は長い目で見れば多少の上限を繰り返しながら全般的に上昇傾向にある。短期的に見れば押し目、あるいは損をするかもしれないが、銘柄をしっかりと選んでおけば結局「最初に買っておけばよかった」ということになる。対して日本の場合は【過去60年間の日経チャートと「7%」「20年サイクル」・本当に「長期投資」は必勝法なのか】で説明したように、そうとは言い切れないのが実情。むしろドルコスト平均法は日本の方が有効なのかもしれない。
4.クレジットカードはもっとも低い金利のものを使うべき
……しっかりとクレジットカードの支払いが出来る人なら、金利はさほど問題ではない。むしろ年会費やさまざまな特典、ペナルティなどに目をむけるべき。
5.個人破産を申請すると持ち家を失ってしまう
……実際には正当な理由がある限り、家を失うことはない、としている。これはアメリカの法的解釈の問題。さらに最近ではくだんの「サブプライムローン問題」で住宅を抵当に入れたローンが払えなくなり、持ち家を失う人があとを立たない状態なので、ここでは触れないことにしておく。
ちなみに日本の場合は住宅などの財産は借金の返済に充てる必要があるため、基本的に持ち家を手放さずに自己破産はできないようだ。個人再生を用いるという方法もあるが、今件からはやや外れる話であるし、当方は法的解釈が出来る立場ではないので省略。
6.住宅は借りるより買う方が安い
……つい最近まで住宅価格は高騰を続け、「お金を払って借りるくらいなら、いっそのことローンを使って家を買ってしまえばよい。資産価値も上がるし、減税対策にもなる」という常識が蔓延していた。しかし今や需給バランスは崩れ、住宅価格はナイアガラの滝状態。神話崩壊がドアのノック音と共にしてやってきた。一方、賃貸住宅なら余計な購入費用を考えなくてもよいし、トイレが詰まる、雨漏りするなどのトラブルが生じても修繕費に頭を痛める必要もない。
アメリカの場合はさらにローンを組むのが非常に難しくなり、住宅価格が急落した今ですら、住宅ローンを組むのが難しくなっているという。よって実際には「買うより借りる方が手間がなく、しかも安くつく」場合が多いようだ。
7.今年戻し減税の特典を受けるから、2008年の分の税金は高くなる
……【個人で6万円・夫婦で12万円~アメリカの景気刺激策、手にしたお金は何に使う!?】で解説した、5月から始まるアメリカの景気刺激策の一環である「税金の払い戻し」に関する問題。元記事では「払い戻しの税金が収入として扱われるから、2008年分の税金が高くなるの?」という考えに対して「そんなことはない」と否定している。実際には2007年度の納税額を元に算出し、2008年度分の税金から「前払いの形で」払い戻しされるので、問題はないとのこと。こちらも日本の事情には当てはまらないので省略(日本でも似たようなことをやってくれればありがたいのだが……)。
8.電子申告をすると税務署からの監査の目が念入りに入るようになる
……むしろ書類による提出の方が電子申告より監査が厳しくなるかもしれない、と元記事では伝えている。なぜなら傾向として、書類提出の方がミスが多いからだ。
日本の場合は電子申告制度はまだまだ普及していない。しかし試行錯誤を繰り返しながらも、少しずつ普及していくことだろう。もしそうなっても、「電子申告なら税金の監査がキツくなる(ゆるくなる)」ということは無い……はずだ。
9.バイトをして奨学金を受ければ、大学費用はすべてまかなえる。かつて自分はそうしてきた
……大学の学費は物価上昇率よりはるかに速いスピードで上昇し、奨学金制度はむしろ衰退している。さらにアルバイトの賃金の上昇度もゆるやかなもの。元記事ではいくつか具体例を挙げ、奨学金が大学の学費に占める割合は低下の一途をたどる(つまりそれだけ学費の負担が重くなる)ことを証明している。また現実の問題として、大学生の2/3は(学費で)借金を抱えたまま卒業をする、平均負債額は2万ドル(200万円)、さらに大学生の10%は3万5000ドル(350万円)以上の負債と共に大学を卒業する。
日本の場合はどうだろうか。【早稲田大学の2007年データ】によると文系で100万円、理系で150万円前後が年間の授業料+施設費として必要なようだ。これに加えて各種生活費や必要経費(教材、交際費、交通量その他諸々、独り暮らしの場合は家賃も)も含めると、4年間で750万円±500万円くらいはかかるだろう。これをすべてアルバイトと奨学金だけでまかなうのは、少々難しそうである。
10.定年退職したら必要経費が減るので、そんなに節約する必要はない
……ほとんどの場合、定年退職を迎えても支出が減ることはない、というのが実情。仮に退職すれば外食や旅行を控えるようになるという目算があったとしても、その分医療費が上積みされるので、その計算は無意味になる、としている。
この件は日本でもまったく同じ。「会社を辞めれば付き合いも減るし、会社での出費もなくなるから支出も減るだろう」と思うかもしれない。しかし実際にはその分趣味の時間とそれにかける費用は増えるし、趣味を絞っても医療費負担の増加は免れない。「2.」にもあるように、節約できる時には節約しておくのが一番。
全般的な性質・傾向として、欧米の人、特にアメリカ人はダイレクトでストレートな思考をする場合が多く(よく言えばスピーディーで大胆、悪く言えば極端)、即効性のある特効薬的なものを強く求める場合が多い。Men's HealthにしてもNew York Timesにしても今回のUSA Todayにしても、日本の媒体と比べて「~をする○×個のコツ」のように、箇条書きですぐに実践できるネタが好まれ、多く掲載されているのは、民族性も関係しているのかもしれない。
今回紹介した「10の神話」のうち、例えば戻し減税や電子確定申告の話は日本にあまり当てはまらないので無視しても良いだろう。しかし投資に関する詐欺話の項目や、運用実績の話、そして「節約」を強調している項目は日本でも十分以上に通用する内容だと思って良い。
自分なりに役立つ情報をピックアップし、自分の今後の(投資)生活に活かす事ができれば幸いだ。
(最終更新:2013/08/09)
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