失業と物価高……アメリカの10代も不景気突入・「節約」志向へ
2008年04月20日 12:00
リセッション(景気後退)突入時期や金融信用収縮による貸し渋り・貸しはがしなどが連日報じられているアメリカ経済だが、普段きらびやかな毎日を過ごしているイメージの強い若年層、特にティーネージャー(10代)の若者ですらその影響を受けているようだ。ピザやドライブのためのガソリン、そしてジーパンの価格ですら値を吊り上げている昨今、彼ら・彼女らにも今まで滅多にしてこなかったことを求められ、そして実践しているとのこと。それは一言で表現すれば「節約」「倹約」なのだという(【参照:USA TODAY】)。
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●必要に迫られて節約モードに切り替わる10代
先日十代の女性向け情報誌【Ellegirl.com】では服やアクセサリーを自作するガイダンスビデオを発売した。読者ニーズに応えてのものだという。Ellegirl.comのサイト関係者は「大きなロゴをつけている(ブランド)バッグは経済的じゃない。むしろちょっとダサいわね。十代の女性たちはもう『競い合ってブランド物で競争する』時代じゃないと感じてるわ。むしろ『いかに安く手に入れるか』に感心が集まっているの」とコメントしている。
他にもいくつか「節約モードの10代」の話が具体例として掲載されている。
●Victoria Bradley(16歳)
・毎月80ドルを赤ちゃんの子守のバイトで稼いでいるが、ランチ代が上がったので友達と深夜食べるスナックや流行の洋服までなかなかお金が回せない。
・だから友達と一緒に割安なお店に行ったり、ウィンドウショッピングで我慢している。Tシャツやジーンズは数か月単位でしか新しいものを買えないし、自前の服に手を加えてファッションを楽しんでいる。
・Victoriaの母親は夫婦の小遣いも削り、さらに三人の子どもへの「気軽なお買い物」もひかえるようになった。いわく「クレジットカードを使わないようにと、意識的な倹約をするようになった」
●Nathan Reeser(15歳)
・4か月前にピザ作りのバイトを失う。
・お小遣いだけで何とかやりくりしているが、両親も税金やその他の物価が上がって大変なので値上げを要求するわけにも行かない。
子どもたちの間にも、「リセッション」の波は押し寄せているようだ。
●統計データや過去の事例から「10代の不況」を見る
アメリカにおける10代向け求人市場(アルバイト市場)はもはやかつての勢いを失っている。具体的な統計データとして例示されているのが、2007年3月以降小型商店(地元の学生をアルバイトで雇うような店)の雇用率は5%減少したというもの。バイトの解雇が相次いだという。総合的な雇用は同時期に0.1%の減少に留まっているから、「まずアルバイトから解雇」という状況なのだろう。
1990年初頭に見られた「アルバイト解雇率13%」という数字からはまだ「マシ」であるとコメントする経済学者もいる。この数字を見て「10代のアルバイト市場が雇用市場全体の鏡と考えれば、5%’しか’減少していないのはまだまだ大底ではない」とのこと。
かつて惰性的に数万円のバッグや数千円のTシャツ、ジーパンを購入していた10代だか、今はアルバイトも少なくなり、彼らにお小遣いをあげる両親のふところ具合も悪化している。彼らの消費行動がおとなしくなれば、彼らの「購買意欲」と一心同体だった業界(この場合は若年層向けの装飾品や衣料品店)も軒並み販売不振を報告している。
具体的には先月の売上高は8%減少。ただし10代がまだiPodや携帯電話などデジタル系の商品への購入意欲が高いのが幸いとのこと。
今回の「10代の不景気」がこれまでの不景気と異なるのは、食品や燃料費といった「生活の基礎部分」の価格が急騰していることだ、とリサーチ会社Deloitte Researchの主席アナリスト Carl Steidtmann氏は述べている。いわく「食品・燃料費の値上げは10代にも直接影響を及ぼしている」。ガソリンやピザ、ポテトチップスなど10代がお気に入りの商品の価格はすべてうなぎ登りとなり、結果としてブランド物や衣服など他に費やすだけの余裕を失わせている。実際に10代向けの小売業の売り上げは2005年には12.1%、2006年には3.3%の増加を見せていたが、2007年は0.5%のマイナスを記録しているという。
●「ピンチはチャンス」
一方でこのような状況をむしろビジネスチャンスと見る向きもある。「節約が流行っている? ならそのニーズに応えるビジネスを展開すればよい」という考え方だ。
価格安を全面に押し出した安売りチェーン店、中古品を販売するお店、特に古着は昨年から大いに人気が集まっている。例えば古着販売チェーン店Buffalo ExchangeではGapのジーンズなど有名ブランドですら大量に仕入れ、販売している。これら古着の購入はコスト的に安いだけでなく、10代の間にも浸透しつつある「環境にやさしい」テーマにもマッチしており、その点でも人気を集めているとのこと。日本語で言えば「もったいない精神」というところか。
10代をターゲットにリサーチを行っているThe Zandl GroupのConsumer Insightsのディレクター Anna D'Agrosa嬢は次のように語っている。
「子どもたちは何が自分たちのふところ具合に生じているのか、そして自分たちの家族に何が起こっているのかを本当に意識するようになっている
(Kids are becoming really aware of what is happening to their economy and to their families.)」
と。
サブプライムローン問題に端を発した金融市場の混乱と金融信用収縮は、大人だけでなく子ども達の間にも影響を及ぼし始めている。この流れは恐らく今しばらく続くことだろう。かつての「無駄遣いが気軽に出来」た時期と比べれば、辛さを肌身に感じるに違いない。
しかし節約志向を身をもって体験し習得した彼ら10代の層が大人になり、社会人となれば、その経験と知識は必ずや役に立ち糧(かて)となることだろう。
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