【更新】「悪玉コレステロール」、低すぎると逆に死亡リスク増大
2008年03月30日 12:00
4月から始まる「特定健診・保健指導(メタボ健診)」でも新規に検査対象とされ、脳卒中や心筋梗塞の発症リスクを高める悪玉コレステロールと分類されている「LDLコレステロール」。このLDLコレステロールが低いほど死亡率が高まることが富山大学の浜崎智仁教授(脂質栄養学)や東海大学の大櫛陽一教授(医療統計学)らのグループによる疫学調査で明らかになったという。LDLコレステロールが本当に「悪玉」なのかどうか、あらためて論議を呼びそうだ([参照記事:毎日新聞])。
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大本の発表リリースがインターネット上に見つからないので各報道の記述に情報ソースを求めることになるが、それによると研究グループは神奈川県伊勢原市で1987~2006年に2回以上住民健診を受けた約2万6000人を平均8.1年追跡。LDL値ごとに7群に分類し、死亡率や死因との関係を統計学上の見地から調べた。すると次のような相関関係が明らかになったという。
・総死亡率では男女ともLDL値のもっとも低い群が一番死亡率が高い。LDLの高低差で男性で1.6倍、女性で1.3倍ほどの開きがある。
・脳卒中や心筋梗塞など心血管疾患による死亡率に限定すると「男性では一定以上になれば死亡率が上昇」「女性には関係なし」
・男女ともLDLが低いとがんや呼吸器疾患による死亡率が増える。
これらの傾向に研究グループでは「コレステロールは人体に必須の物質。少ないと免疫機能・免疫細胞の機能が低下するため、死亡率が上がるのではないか」と推定。またLDLが高くとも日本人は魚に多く含まれているDHA(ドコサヘキサエン酸)の摂取が多いため、仮にLDLが高くても動脈硬化になりくく、心筋梗塞の発生が抑えられるのではないかとしている。
またLDL値と特定健診については「男性は100~180ミリグラム、女性は120ミリグラムがLDLの適正値。特定健診では120ミリグラム以上の人は下げることを勧めているが、それでは適正範囲にあるLDL値を下げすぎる危険がある」と警告を発している。
●「LDLコレステロールは悪玉とは限らない」は昔から提唱されていた
報道に目を通す限りでは特定健診を間近にひかえ、突然降って沸いたかのように「LDLコレステロール値が低すぎるのは問題だ」という意見が出てきたように見える。しかし今回の記事に登場している浜崎智仁教授や大櫛陽一教授の名前を調べると、かなり前から両者らは「コレステロールがすべて悪玉だ」という過剰反応に警鐘を鳴らしていたことがわかる。
たとえば大櫛陽一教授は【コレステロールは高めが長生き(健康ニュース)】にもあるように、(当時の基準は)アメリカのコレステロールに関する基準をそのまま、しかも荒っぽく翻訳して適用したに過ぎず、日本の実情にはなじまないこと、年齢や病歴、遺伝的要因などで基準値をより分けるべきこと、そして2005年の時点ですでに「コレステロール値が極端に低いと統計学的に死亡率が高くなる傾向にある」という結論を導き出している。
また浜崎智仁教授も著書『コレステロールは高いほうが病気にならない』の中で、「コレステロールは低いほうがよい」という健康常識が単なる神話に過ぎないこと、食事のコレステロールを気にする必要はなく、「リノール酸の摂取を減らす」「魚を食べる」などDHA絡みの話を展開している。
「特定健診」は多数の日本国民に一斉に行う検査であるため、数字的に基準を統一しておく必要がある。現場の意思などの自由判断に任せると、判定結果が地域によってばらばらになってしまうからだ。その観点からすれば、LDLにも基準を求めるのは仕方ない気がする。
しかし一方で、浜崎智仁教授や大櫛陽一教授の研究にもあるように「LDLコレステロールを悪玉扱いすると、かえって特定健診の主旨に反するどころか逆効果を生み出すのではないか」という可能性も指摘されたことになる。
専門家による該当分野の権威による主張ということもあり、事は重要。4月スタート時には間に合わないが、早急に健診の判断基準について見直しを図るべきかもしれない。さもなくば「間違った指導」で逆に健康へのリスクを高めかねないのだから。
(最終更新:2013/09/07)
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