景気減退で高まる不平等感・競争よりも平等を求む傾向へ……!?
2008年03月27日 12:00
独立行政法人労働政策研究・研修機構が3月24日に発表した調査結果によると、この10年ほどの間に終身雇用制を支持する人の割合は増加傾向にあり、2007年には86.1%に達していることが明らかになった。また、流動性労働力や自由な労働観の代表とされている「フリーター」について、「自由で多様な働き方」とする意見が減る一方、「生活を不安定にする」と考える人が増加するなど、労働において競争社会よりも平等社会を求める傾向が強いデータが出ている。「不公平感」も同時に高まっていることから、競争が不公平な環境の下で行なわれた結果、疲れてしまった人たちが安定や平等を求めている傾向が見受けられる(【発表リリース、PDF】)。
スポンサードリンク
●年功序列制や終身雇用制の支持率高まる
今調査は2007年9月21日~10月21日の間、20歳以上の男女に対し訪問面接方式で行なわれたもの。有効回答数は2315人。男女比は43.9対56.1。年齢階層比は60代21.8%、50代19.4%、70代19.0%と中堅以上の人がやや多めとなっている。また、20~34歳の若年層に限定すると全体の15.1%となる。なお就業形態別にみると、有職者が58.3%、雇用者が47.1%、正規従業員が26.5%、非正規従業員・派遣社員が16.8%(合わせて100%以上なのは複数に当てはまる場合があるから)。
日本型の雇用慣行として終身雇用制度や年功賃金などの支持率(「良いこと」「どちらかといえば良いこと」の合計)が、全般的にここ10年の間増加しているのが分かる。
日本型雇用慣行などに対する支持率
半ば競争を求めるような「組織や企業にたよらず、自分で能力を磨いて自分で道を切り開いていく『自己啓発型能力開発』」のみが支持率を落としている。2001年以降は2004年と2007年しか調査期間がないのでその間の変遷が気になるが、大まかに見れば日本型安定感が望ましいと考える層が増えていると見て良いだろう。
●「フリーターは不安定でダメだね」の意見強まる
一方、終身雇用制度と正反対の位置にある「フリーター」については、時間の経過と共に大きく見方が変わっている。元々「生活の不安定さ」「自由で多様」が同居するような認知のされ方であった「フリーター」に対し、肯定的な意見の「自由で多様な働き方」の割合が大きく減少しているのが分かる。
フリーター観
生活の不安定さに同意する意見は10年間ずっと上昇傾向にある。一方で肯定的な意見は2004年の時点で4割近くまで上がったものの、直近の2007年には大きく下落、3割を切る結果になっている。「自由で多様だと思っていたけど、フタを開けてみたらさほどそうでもなかった」という幻滅感からのものだろうか。
競争や自由は必要だけど、掛け声だけで実のところあまり競争はされていないし、自由でもない、世の中って思った以上に不公平では……という想いが募っているのかもしれない。社会意識では21世紀に入ってから、特に直近において不公平感が高まりつつある。
不公平感と中流意識の推移
具体的に何に対する不公平感かは明確化されておらず、単に「社会意識的な」面におけるものだが、「何となく不公平さ」を感じている割合が増えている。設問上他の問いが労働に関するものが多いことから、回答側も主に労働や雇用についての不公平感として答えていると見なしてよいだろう。
●「平等」と「競争」の意識逆転
今回発表された資料の中でもっとも気になったのが「日本が目指すべき社会」の項目。2004年と2007年との間で「平等」と「競争」の支持率が逆転しているのが分かる。要はこの間に価値観の変移が生じた可能性があるということ。
日本が目指すべき社会
・競争社会の否定
・安定的、保守的傾向の高まり
・会社への隷属の否定
終身雇用制を支持し、フリーターは毛嫌いし、中流意識が高まり、不公平感を募らせ、競争よりも平等な社会を望む……不公平感はともかく他の項目は極めて保守的、殻の中に閉じこもるような雰囲気が感じられる。現在社会において雇用そのものが不安定(流動性の高まり、ではなく)な状態にあることから、保守傾向が強まる傾向にあるようだ。
しかしだからといって「会社に隷属する」かのようながむしゃらな一体感を望んでいるかというとそうでもない。仕事の時間を増やしたい人はほとんどおらず、最初のグラフにもあるように「福利厚生の給与化」(「社宅や保養所などの福利厚生施設を充実させるより、その分社員の給与として支払うべきだ」言い換えれば「自分が恩恵を受けられないかもしれない部分に会社の金を使うくらいなら、給与として平等に分配してほしい」)を望む声も増えている。安定した就業状態は確保してほしいが、プライベートな時間を削ってまで会社と向き合う時間を増やしたくない、といった考えも見え隠れしている。
今回のデータはあくまでも概要であり、年齢階層別の詳細データも含めた正式な報告書は3月末以降に発表されるという。今データだけを見ると、今世紀に入ってから試みられた労働力の流動性・多様性の強化などが受けいれられず、景気減退とも相まって「なんだ、労働市場で競争原理を働かせて流動性を高めても、景気が悪くなるだけじゃないか。やっぱり保守的な終身雇用制が一番」という雰囲気を蔓延させると共に、不公平感を増長させたようにも見える。
競争自身が不公平な状態で
生じた格差とは
別物である
ただし冒頭でも多少触れたが、これが単に「労働市場における競争社会の失敗」とイコールで結びつけるのにはいささか問題がある。「労働における競争の結果生じる上下間」と「競争そのものが不公平な条件下で行なわれたことよる上下間」とは別物だからだ。100メートル走で走った結果、速い人もいれば遅い人もいること自体は仕方の無い話。足の遅い人は自分の不幸を悔やむしかなく、あくまでそこまでの話。しかし例えば一人だけ分からないようにコースが10メートル短くなっていたり、ドーピングをしていたり、専用のスターターを使っていたら、その競争の結果に不公平感を持たない人はいないだろう。もはやそれは正当な「競争」ですらない。
今回のデータから推測される「労働上の競争システムはイヤだ。ずっと安定していたほうがいい。何か不公平な感じがするから」という「直接届かない不満感」は、競争そのものよりも「競争社会」とお膳立てされた環境そのものに対する不信にあるように見えてならない。
「競争」そのものが良いかどうかはまた別の問題。農耕民族的傾向の強い日本人には、狩猟民族的な概念の「競争」が合わないという話もあるが、そこまで話をさかのぼると一調査データで云々するのは限界がある。ただ、そのような意見もあるのも事実だ。
「保守的傾向が強まる」という結果を
導いている可能性もある
さらにもう一つ気になるのは、今回提示された「時間の経過と共に競争社会の否定・安定的、保守的傾向が高まる」という結果を導いたデータの母体において、調査を重ねる毎に年齢の高い層が増えていること。逆にいえば「若年層の割合が低下した上での結果」から算出されていること。
具体的には1999年の第一回調査では20.6%を占めた若年層(20~34歳)の占める割合が、最新のデータである2007年には15.1%まで減少している。また、今回のデータでは特に60代から70歳以上の割合が多いのも目に付く。
保守的傾向が時間の経過と共に高まり、特に今回の最新データでは急激に伸びているのも、この年齢層別比率を起因としているのかもしれない。3月末以降に発表されるという、年齢階層別のデータにおいて、若年層・中堅層に特化した形でデータを再検証しないと、今回のデータだけで「日本の労働社会においては保守化が進んでいる・求められている」と言い切ることは難しそうだ。
……もっとも、半ばインチキまがい(に見えるお膳立ての)競争社会に疲れとあきらめを感じ、安定的な終身雇用制のレールの上で就業を続けるという、まさに先の「農耕民族的なDNA」に従った環境を求める人が増えていそうな気がするのも事実ではあるが。
スポンサードリンク
ツイート