【更新】考察:日本人はどうして日本株を買わないのか
2008年03月03日 06:30
先に【「外国人投資家」と彼らの行動について】や【「『外国人投資家』と彼らの行動について」後日談】で「外国人投資家」と呼ばれる人たち(法人など含む)の投資動向をざっと見た際に、「肝心の日本人がなぜ日本株に投資しないのか」という疑問をいただいた。今回はその疑問について、当方の考えるところを簡単にまとめてみることにしよう。
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きっかけは[「外国人投資家」と彼らの行動について]の記事における【はてなブックマークに寄せられた意見】の一つ。
日本人がなぜ日本に投資しないのかをちゃんと書けばいいエントリ。日本人は馬鹿じゃないよ(zu2さん)
というもの。東証一部銘柄に限れば今や委託取引総額の6割強を占めるようになった「外国人投資家」だが、逆に考えれば3割強は日本人投資家によるものとなる。東証二部やマザーズだとこの割合は逆転し、東証二部なら8割弱、マザーズにいたっては9割弱までが日本人投資家によるもの。このデータだけを見ると、
「外国人投資家が売り続けねばならない理由は分かったけど、日本人投資家に当てはまるのは半分くらい。特に新興市場の株はお買い得なはずなのに、何で日本人投資家も一緒になって売ってるの? 買い向かわないの?」
という疑問がわいてくる。いくつかの推測などを順に挙げていこう。
●1.高配当銘柄を中心に、買われている銘柄、買い進まれている銘柄もある
すべての日本株が全部、日本人投資家からも敬遠されているわけではない。【不況からあなたのお金を守る5つの方法(日本版)】に列挙したような銘柄は特に、「株価が下がる=利回りが上がる」ことになるし、減配リスクも低いから、買い進んでいる人も結構いる。ただしそれらの銘柄はそれぞれの事情(トヨタならアメリカ経済の停滞、薬品関係なら薬事法改正やのれん代問題)でマイナスイメージを連想されて売り込まれている。
●2.(現状では)海外の投資信託の方が売却益を得られる可能性が高い
これも何度と無く解説しているが、正直キャピタルゲイン(売却益)を得るのなら、ここ数年間は日本株に投資するより新興国の投資信託や現物株に投資した方が効率が高い。【日本へ投資したヘッジファンドの成績、2007年は概して軟調・2008年には希望も】あたりが良い例だ。同じ資金を運用し、売却益を狙うなら、割の良いほうが良いに決まっている。
●3.外国人投資家の過去経験則と同じ。騰がる気配が見られない。景気後退の流れ
外国人投資家が経験則を元に、2003年の金融恐慌後の日本に投資をしたのは前に説明した通り。これと同じような(そして向きはまったく正反対)行動を日本人投資家もしていると思われる。つまり、内需は落ち込み景気は後退している、外国人投資家によって売り込まれ、業績は悪くないのに株価が下がる気配がする、ならば今慌てて買う必要はないじゃないか……そのような想いが少なからずあるのだろう。いくら日本株の現状が割安にあるといっても、今後さらに下がる可能性が高いように見えれば、配当利回り云々を別にしても「近い将来、高い確率で評価損になるような株をどうして今買う必要があるのか」と思うのは当然。
●4.投資家に背を向けるような行為を繰り返す企業、「まただまされた」は勘弁という想い
個人投資家を「使い捨ての集金マシン」としか扱っていないのではないかという行為を繰り返している企業が(特に新興市場において)多発している。企業は永続性(ゴーイングコンサーン)を第一義とするのだから「会社を存続させるには仕方ない」といわれればそれまでだが、資金を投資している投資家にしてみれば「もっと打つ手があるだろう」とツッコミたくもなるもの。「まただまされるのかも。だったらそんなものは手を出さないよ」と、相場そのものから逃げ出したくなるのも理解できる。また、ライブドア・マネックスショックのトラウマに悩まされている日本人投資家も多いことだろう。
●5.証券税制など投資軽視の動き
【平均金融資産は1259万円・減った人の過半数は「収入減少」が理由】のデータにもあるが、実際に無貯蓄世帯は全体の2割前後。にも関わらず、貯蓄をしているだけで非難される風潮すらある中で、証券税制を適用される人たちには厳しい目が向けられている。そもそも「投資」というものに対する啓蒙が進んでいないのが無理解の最大理由なのだが、それらの風潮におされて、現在ですら国際的には高めの域にある証券税制を、さらに引き上げる予定となっている(【日本は譲渡益・配当益課税共に高い水準……国際競争力維持・強化のための「証券税制優遇措置継続」案】)。投資家を軽視する傾向がさらに強まるのなら、国内外を問わず、投資家は敬遠こそすれど、近寄るはずもない。【「デイトレーダーはバカで浮気で無責任」と言いのけた「偉い人」の主張は正しいのか】あたりも、官僚の中枢部では投資家(投機家含む)を軽蔑している証拠といえる。
●6.ちゃぶ台返しに的外れな規制、保身に走る官僚と自分の首を絞める経済政策
「3.」にも一部かかるところだが、ここ数年の経済政策の失敗が先行きに不透明感を増す結果となり、国内企業への投資を足踏みさせている。例えば担保や貸し倒れなど一部の問題を解決するために施行されたグレーゾーン撤廃と「遡及適用」(過去にさかのぼって適用すること。法律要件では原則的に禁止されている)と非難されてもおかしくない措置。貸金業者は貸付基準を厳しくせざるを得ず、それは結局個人ベースの資金流動性を低めてしまい、多くの中小企業を立ち行かなくさせてしまった。
「改正建築基準法」や「金融商品取引法」もしかりで、世間一般から盲点を指摘された官僚側が自分の責を逃れるために、非現実的とも思えるルールを作った。しかも作ったら作ったでそのまま放置して後はほったらかしにするものだから、現場ではいまだに大混乱が生じている。例えば「金融商品取引法」では各法について関係業界から「このような場合はどうなるのか」という実例をパブリックコメントで応募したところ、その大半が「その時になったら逐次判断しますので今の段階では回答できない」というものだった。要は「まずやってみな? こちらがダメだと判断したらお縄にするから。オッケーだったらおめでとうだね」というもの。こんな回答を出されたら「何もするな」といわれたのと同じである。
日本の官僚は優秀だ、という話はよく聞くが、それは現場に近い人物に多く見られるもの。上にいけば行くほど柔軟性と思考力が低下していくのではないかと思われる事象ばかり。これでは日本株に投資したくなくなるのも理解ができよう。
日本人投資家に日本株を買わせる手は、実は意外にシンプル。市場を魅力あるものにするため、官民総動員で市場改革を強力に推し進めること。「3.」「4.」あたりの問題点を解決すべく、合法であっても投資家をあざむくような行為に対しては「取引所の内規」をフル活用して取引所自らが適正な処分を下し、投資家保護の強力な姿勢を内外に示す。証券税制は当然「海外の良い事例を元に」再検討し、投資を行ないやすい環境を整備する。
経済そのものの改革は証券市場云々を飛び越えた話だから手が出せないが、改善が施されれば当然日本株への投資魅力は増す。「木を見て森を見ず」どころか「木を守ろうとして森を滅ぼす」と表現できるような経済政策には、マスコミなどのアジテーションにまどわされず「ノー」の言葉を叩きつけ、誤った方向への世論誘導がなされないように一人一人が注意深く、思慮深くなるよう努力する。
誰だろう?
先に【最近ストップ安が目立つのはなぜだろう】でも少し触れたが、人はネガティブな情報に対しては敏感に反応し、注意を払うようになる。色々と「焦っている」大手メディアでは削られる一方の予算の中でいかに高視聴率を上げようかと考えた末、容易に視聴率を取れる「ネガティブニュースを優先する」方向に走る傾向が強くなりつつある。彼らに従い後を付いていったのでは、下手をすると「グレーゾーン」や「改正建築基準法」、「金融商品取引法」「医療費問題」と同じく、気が付いたら自分自身の首を絞めていた、あるいは「ハーメルンの笛吹き男」の話のようにどこかに連れて行かれてしまったということになりかねない。
また、「外国人投資家」も海外メディアをたくみに使いこなし、日本の株を下げる誘導まがいのことをしている。以前「雑感」でちらりと触れたが、某イギリス系経済誌で投資ファンド筋の話として「日本の金融機関は、G7で語られた世界総計のサブプライムローン問題の推計できる損失以上の損失を隠している。日本の金融機関の大手のいくつかはこのあおりを受けて破綻するかもしれない」なる話を堂々と、さも見てきたばかりの事実であるかのように報じたことすらあった(このあたりの事情は[「日本株低迷の背景に「市場見えぬ官僚トップの無知」」(産経新聞)が詳しい])。
幸いなことに、日本人投資家の中には「今がチャンスかも」と判断している人もいる。株価が低迷しているにも関わらず(むしろ低迷しているからこそ)口座を開設する人も増えている([「ネット証券、口座開設46%増・1月」日経新聞より])。皆が注意深く物事を考え、さまざまな企みを持つ勢力の情報を正しく取捨選択できるよう努力し、大局を見て物事を判断できる能力を身につけることができれば、日本人投資家は必ずや日本株を買い進むことだろう。恐らくそのような状況になれば、日本人投資家に限らず、外国人投資家も日本企業を見直し、積極的に買いを入れてくるに違いない。
(最終更新:2013/08/11)
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