「エビアンを止めて水道水に」「本は買わずに図書館で」~米消費者に浸透する「トレードダウン」や「節約心」
2008年03月02日 12:00
先に【この頃アメリカで流行っている「トレードダウン」という考え方】で、アメリカの消費者が景気後退に備え、あるいは自分の身のまわりの金銭的な問題から、消費の額を抑える傾向にあるらしい、という話を記事にした。それを裏付けるようなレポートが【USA TODAY】に掲載されていたので紹介してみることにする。タイトルは「Consumers cut back on small pleasures」、直訳すると「ちょっとした楽しみを節約しつつある消費者」というところだろうか。
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例えばミネラルウォーターでノドを潤すという行為。景気が良かった時には日常茶飯事的に行なわれていた。しかし景気が後退しつつある現在、多くの人にとっては「いにしえの出来事」に過ぎない。元記事ではUSA TODAYの「読者からの声」も交えて、昨今の「ささやかなぜいたくを切り詰めていく」様子が説明されている。
・スポーツジムで1.79ドルのPowerBars(チョコレートバー)を買うのを止めた。代わりに59セントの安いMilkバーを買っている。一年あたり312ドルの節約(ヨットディーラー)。
・スターバックスで買っていた3.46ドルのアイスカフェラテを我慢している。自前のコーヒーはスタバのと比べると味は落ちるが「ガソリンが1ガロン3ドルもする時代に、スタバでコーヒーなどと優雅なことなど言ってられない」(弁護士助手)。
・これまで毎日のようにマクドナルドなどで昼食用のサンドイッチを買い、毎月170ドルを費やしていたが、今や子どもや配偶者の分も含めて自前のお弁当を作り始めた(Winter一家)。
・新書は出来るだけ買わず、図書館で事を済ますようになった(Winter一家)。
・毎年4着のスーツを買っていたが去年は一着も買わなかった。「経済が回復しても今までのような浪費はしないよ。自分はミニマリストになるんだ。知人は目を疑っているけどね」(Martin Richardson氏、ある抵当ローンの創設者)
・映画館でポップコーンを食べながら映画を見て、その後レストランで食事をするという映画鑑賞のスタイル(合計70~80ドル)を止めた。今では1か月あたり17ドルで済むDVDサービスを活用。1週間に2作品ほどの映画を見る(William Muckelroy II夫婦)
・1本1.29ドルのエビアンの購入を止め、水道水を瓶詰めにして飲むようになった。1か月あたり40ドルの節約。曰く「お金を出して水を買うなんて馬鹿げていた。まぁ、味は違うんだけど」(William Muckelroy II夫婦)
・かつてスパを楽しみ、100ドル以上のデザイナーズジーンズを購入していたが、今や20ドル足らずのジーンズで満足している。「二度と100ドルもするジーンズの代金を支払うつもりはない」(Deshaun Davis嬢)
これらすべてがアメリカ国民の声、というわけではない。しかし「トレードダウン」という考え方……というよりむしろ「節約志向」が浸透しつつある、浸透せざるを得ない状況にあることが分かる。財布の中身の実情、というのもあるし、心理的な側面(不安とそれに対する備え)もある。
これらの傾向に対し、専門家や売上を減らしている小売業者の人たちのコメントもさまざま。
・物価は上昇し続けているが賃金がそれに従って上昇するわけではない。このような状況が家計を苦しくしている。消費者は「今は無理して買う必要はないもの」についてしっかりとチェックし、買うものと買わないものを選り分けている
・ただし、毎日のちょっとした節約は、消費者と経済双方において、高価なぜいたく品を我慢することより大きな痛みを伴うものとなる。この考えが浸透すると、以前のような消費拡大のトレンドに戻るのは難しいかもしれない。(以上、数々の個人資産運用関連の書籍を出版しているEllie Kay嬢)
・不景気の中で高価な商品は売れなくなる傾向が強いが、それでも本は買われ続けるだろう(Mary Ellen Keating嬢、ある大手書店のスポークスマン)
・消費者が何を求めているのかに耳を傾け、例えばビタミンを含めたタイプのようなものを提供し、利用者のハートをつかみ続けるよう努力する(Bridget MacConnell氏、あるミネラルウォーターの販売元)
・景気後退で短期的な難局に局面するかもしれない。自分たちについて着てくれる上客へのサービスを一層心がけることで、これを乗り越えていく(Brooke White嬢、ある衣料品チェーン店の広報)
現在経済的に難しい局面を迎えているアメリカの消費者にとって、大好きな消費を抑えなければならない時期は今しばらく続くだろう。そして、一部の人がコメントしているように、今回の節約時代とそれ以前の浪費時代を教訓にし、無駄使いは止めよう、ミニマリストになろうという人も増えてくる。「トレードダウン」や「ミニマリスト」、節約などの言葉がアメリカの消費者動向を語る文面で多く用いられるようになると思われる。
一方、「ノド元過ぎれば熱さを忘れる」という言葉がある。恐らく間もなく宣言されるであろう公式なリセッション宣言を経て、三か月後か、半年後かそれとも来年以降までかかるのかは分からないが、景気が回復する局面を迎える時期は必ずやってくる。その時には「無駄使いはもうしません」と宣言したアメリカ人の多くが、またかつてのように少しずつ、しかし確実にパワーあふれる消費行動をとるに違いない。
なぜなら消費行動は彼ら自身の存在理由。アメリカの人たちがアメリカ人たる証明であり、パワフルな国民性の源でもある。いわばDNAにしみ込んだ本能のようなもので、10年やそこらで変わるようなものではないからだ。
……多分、ね。
(最終更新:2013/08/11)
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