エジソンより古い! 世界最古・160年前の歌声現代によみがえる
2008年03月29日 19:30
【BBC News】が伝えるところによると、1860年に録音された音声の記録の一部の復元が成功し、その音声が公開された。「Au Clair de la Lune」というフォークソングを歌うフランス人女性の歌声で、再生できたのはわずか10秒足らず(実際には数秒)ではあるが、確かに「160年の時をこえて」現在に再生されたという。
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実際の音声は【こちらから】(元記事では写真コメントの部分の「Ancient audio」から)聴くことができる。冒頭に突然だみ声のような、雑音だらけのような女性の声が流れるが、それが「160年も前の」歌声。
録音媒体による音声としては、これまで1877年にかの発明家トーマス・エジソンが自作の円筒式蓄音機に「♪メリーさんの羊~(Mary had a little lamb)」を録音したのがはじめとされていた。今回の研究発表と「1860年に録音された」という話が事実なら、それをさらに17年ほどさかのぼることになる。ちなみに現在でも再生可能なエジソンタイプの録音機による音声は、それよりさらに新しく1888年の記録のもの。それと比較すると今回「復元」された音声は28年前という計算になる。
もっとも今回発見された音声は元々「音を再生する」目的で記録されたものではない。「復元」という表現を今記事で繰り返しているのも、それが原因。元々は「Phonautograph」という自動音声描写記録機、つまり音のようすを記録する機械を用いて記録された「音の記録(波形)」に過ぎない。その記録がアメリカ・カリフォルニア州のthe Lawrence Berkeley National Laboratory(LBNL)の科学者達の研究の手によって復元され、音声という形で復元できた。元記事では元のデータを傷つけずにデータを読み込むためにvirtual stylusという針が使われたと記述されている。物理的な針ではなく、光センサーか何かの非接触型の技術だろう。
「Phonautograph」
この「自動音声描写記録機」はフランス人のEdouard-Leon Scott de Martinville氏が発明したとされている。この機械にはタル型の集音機が設けられ、その先に針が固定されている。針は接触している円筒型の筒(石油ランプの「すす」がつけられた紙のシートが巻かれている)が回転すると共に「音の記録(波形)」を刻み込んでいく仕組み。
しかしこの機械は単に「声が色々な形の波として記録されるのを楽しむ」だけのもので、その後にエジソンが発明した「その記録を逆転の発想で再生することにより音声を出力する」までの発想には至っていなかった。一説には「音を聴きなおすのではなく記録として残すことで、将来的には自動筆記機のようなものを考えていたのでは」とする話もある。
今回再生された音声データは1860年4月9日に記録されたもの。それを「First Sounds」と呼ばれるオーディオ史家や音響技師達も参加しているグループがパリで発見し、研究が続けられていた。また、元記事では言及されていないが他にももっと古い「波形として記録された音声」が存在するという。
オーディオ分野の歴史学者であるDavid Giovannoni氏は今回の発見(波形データの発見だけでなく、それを現在の技術で音声として再生したこと)について、
今回の発見がエジソンの「世界最初の録音機の発明家」という名誉をくつがえすものではないと考えている。
(It doesn't take anything away from Thomas Edison, in my opinion.)
しかし現実の話として、エジソンではなくEdouard-Leon Scott de Martinville氏こそが人類で最初に音声を'記録'したのは事実であり、今それが再生できたのだ。※
(But actually, the truth is he was the first person to have recorded [sound] and played it back.)
(※本人が再生を意図していなくても後の世で再生できたことから「記録し、再生した最初の人」と意訳することもできる)
とコメントしているという。
技術の進歩によって当時は想定もしていなかったような記録がよみがえり、多くの人を驚かせたり新たな事実が判明する。今回の「復元」も、音楽史上をくつがえす事はないだろうが、新たな1ページを刻むことになるのだろう。
それを別にしても、150年も前の人たちの音声が今この瞬間、自分の耳で聴くことができることを考えると、非常に不思議な感覚にとらわれるのは当方だけだろうか。
※追記:
First Soundの公式サイトは【こちら】。音は【こちらから聞くことができる】。リリースなどによれば、「virtual stylus」とはデジタルスキャンのことを指し、紙上のデータを取り込み、音声化したとのこと。また蓄音機を巡る特許でエジソンとEdouard-Leon Scott de Martinville氏が裁判で争っており、その裁判記録ではエジソンがScott氏の機械を知っていただけでなく、実際にPhonautographを使い録音の実験をしていたことも記述されているという。
音声の再生機構まで含めたという意味では記事上のDavid Giovannoni氏の言葉にもあるようにエジソンが世界初ということで間違いないが、音を記録するという観点ではScott氏が世界最初の人ということになるのだろう。
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