「年末までに1ドル90円突破も」「アメリカはすぐに大量に公的資金を投入すべし」ミスター円こと榊原氏大いに語る

2008年03月22日 19:30

株式イメージ先日ミスター円こと榊原英資元財務官による「1ドル90円への到達はありえる。むしろ年末には90円を割り込む可能性もある。70円すら想定する向きもある」という見解が報じられ、一部で話題となった。同氏は以前「1ドル100円」を予想し、その予想よりはるかに早い展開で1ドル100円割れどころか95円台にまで到達し、本人も多少驚いているふしがある。日本の報道では「1ドル90円」「70円」の部分しか伝えられていないが、原文の【ロサンゼルスタイムズ】誌では榊原氏色々と興味深いことを語っている。ここで概要的にではあるが、どのようなことを述べていたのかをまとめてみることにする。

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元記事ではロサンゼルスタイムズ誌とのインタビューにおける、一問一答式のやりとりを掲載。榊原氏の経歴(特に「ミスター円」としての名を知らしめるようになったバブル崩壊後の為替政策)を伝え、今のアメリカの経済状態が1990年代の日本のバブル崩壊時とどのように似ているのか、違うのか、そしてどんな解消策が考えられるのかについて語られている。

1990年代の日本のバブル崩壊と今のアメリカ経済、似ているという話だが

違っている部分もあるが、不良債権問題と住宅の抵当権の問題を起因としている点では似ている。住宅抵当権の問題に始まり、銀行や保証会社にまで波及している。これは日本のパターンと同じ。

経験則から見て、今のアメリカの政策に関してもっとも大きな問題点は

ちまちまと断片的な政策を導入する点。金融市場における問題はいちどきに広範囲に広がっていく。日本の場合はいつも政策が二歩も三歩も遅れた状態だった。それと比べればアメリカのやり方は素早いように見えるが、それでもなおまだ遅い。

金融業界を手助けすることになれば、彼らの責任を見過ごすことにならないか。彼らをして「失敗しても助けてくれる」という経験則を与え、よりリスキーな行為に走らせるなど「モラルハザード」を助長することにならないか

モラルハザード云々を語るのなら、すべての金融機関に「さよなら」の挨拶をしなければならなくなる。何らかの仕組みを作り、それに基づいて金融市場を保護しなければならない。今や現状は政府当局全体で、金融システムを守らねばならない事態に突入している。

住宅保有者への緊急救済措置は必要?

必要。日本では議会や世論から猛反対を受けたが、結局当局がしなければならなくなった。アメリカでも現状は同じ。大衆は銀行の救済(で自分たちの税金が使われるの)は好ましく思わないから。なぜなら銀行というのはどこの国ででも「晴れている時に傘を貸し、雨が降っている時には貸そうとしない」企業だから。しかしそれでも共済措置は必要。

アメリカの不動産業は日本で長期間続いた不動産業界の後退と同じ状況に?

ありうる。もちろん再建を加速することは可能だが、日本が1990年以降に経験した長き沈滞状態と同じような状況になる可能性は否定できない。

アメリカの現状に対してどのようなアドバイスができるか

できるだけ早く、できるだけ大量の公的資金を投入すること(Infuse public money as quickly as possible, in a very significant amount.)。どのような手法でどの分野に注入するかは、ケースバイケースなので日本の経験則は参考にならない。しかし「素早く大量に」は非常に重要。公的資金の漸次投入はするな。やる時は最初から大量に。

円高が進んでいる。ドルは100円未満でしかない。今後円はドルに対してどれだけ強くなるか

実のところ、この10年間円は非常に安く推移していた。1ドル100円や99円というレートは10年前なら130円程度に相当するものでしかない。なぜならこの10年間において日本の物価上昇率は0にほぼ等しく、アメリカのそれは2%を超えていたからだ。円は1ドル90円程度の段階へそう遠くないうちに達するだろうし、今年の末までには90円を割り込む可能性もある。70円に達する、という意見もあるくらいだ。

日本経済を引っ張る輸出業界をサポートするため、日本政府が為替に介入するポイントはどのくらいか

弱い日本円による政府の政策はすでに終わっているも同然。日本の金融当局は「強い円こそが国益に適う」と宣言すべきである。私は10年前には(逆に)弱い円を提唱していた。それが必要だったからだ。しかし今は状況が変わった。エネルギーや素材の価格を見て欲しい。円高だからこそこれらを安く入手できるではないか。

日本の輸出産業は「自分たちにとってお得な」円安の元で繁栄を築いてきた。円高になれば彼らの利益は最初のうち減少するだろう。でもそれも一時期のもの。ソニーやトヨタ、松下のような企業は1ドル80円や85円の状況でも問題なく活躍できる。そしてそのレートになれば、日本の消費者にとってはエネルギーや食料品において多大な恩恵を受けることができるに違いない。

私は昨今においてこの方針を貫いている。もちろん反対意見も多く少数派に過ぎない。しかし状況は変化しつつある。我々は考えを変えねばならないのだ(We need to shift our mentality.)。


ざっと目を通した限り、アメリカに対してはシンプルに「ルールを作って一刻も早く、いちどに大量の公的資金を投入しろ。それが日本がやってしまった失敗の二の舞を避ける手立てだ」と述べている。むしろ「アメリカの」ニューヨークタイムズ誌とのインタビューにおいて、アメリカの施政に対する意見を求められているにも関わらず、後半はむしろ日本について語っているのが興味深い。

あるいは榊原氏は、現状の日本経済を見た上で、積極的に関わりたい意向を持っているのではないだろうか。そんな雰囲気すら感じられる。与党からは敬遠されがちな人物の一人ではあるが、例えばいまだ与野党の駆け引きでいまだ空席のままにある日銀総裁あたりのポジションもありかもしれない。

本人が望むかどうかはまた別の話ではあるが。

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