この頃アメリカで流行っている「トレードダウン」という考え方

2008年02月26日 19:35

トレードダウンイメージ先に【「トレインチャンネル」~電車の中の液晶モニタ映像広告にみる、プロモーションメディア広告の善戦ぶり】の記事を書き上げた際、参考文献の一つである週刊ダイヤモンドの内容を本紙・サイトもろもろ吟味していたところ、気になる言葉が目に留まった。景気が悪化しつつあるアメリカの消費者の間で「トレードダウン」なる言葉が流行っているという。意味は「格下げ」。生活防衛の手段に向けた言葉とのこと。

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「トレードダウン」とは「行きつけのお店の格下げ」

参照した記事はこちら(【「切なる願望」でしかなかったデカップリング論の誤謬】)。去年流行った経済流行語は「サブプライム」と「デカップリング」であるとした上で、よもやま話として「トレードダウン」について触れている。曰く、

ちなみに、現在、米国の消費者の間で流行っている言葉は、トレードダウン(格下げ)。買い物をするスーパーやデパートのランクを下げて、生活を防衛しようという意味です。実際、百貨店は、メーシーズを筆頭に、既存店売上高の前年割れが続出。一方、全米の小売り売上高は1月に0.3%の微増を確保しましたが、家具など高額商品は統計開始以来初めてとなる6ヵ月連続のマイナスを記録し、家電など消費財の販売も減少しました。ガソリンや食料品といった生活必需品の購入が増えたにすぎず、米国のGDPの7割を占める個人消費の質の悪化は明白です。


ちなみに英語での説明は「to stock or purchase lower-priced items」、つまり「より安いものを買ったり溜め込んだりすること」となる。

【「デカップリング論」って何?】でも触れたように、アメリカ国民の消費パワーは他国民を圧倒する。まるで消費することが国是、むしろ「消費信号」がDNAに刷り込まれているかのような勢いで物を消費していく。だからこそあれほどまでにパワフルに、アグレッシブな行動形態をしているのかもしれない。

そのアメリカ人消費者たちが、生活防衛のために節約をしているという。買い物をする場所のグレードを下げれば当然同じようなものを購入するにしても、商品のグレードは下がる。つまり「トレードダウン」とは「行きつけの店のランクを落とすこと」そして「消費額を全般的に抑えること」に他ならない。

これまでは松坂屋のデパートで高級品のトイレットペーパーを買っていたものを、これからは近所のドラッグストア、果ては100均ショップに行き場所を移して買う、というニュアンスで正しいのだろう。もちろん行き先では出来るだけ安いものに手をつける。洋服なら高級ブランドからユニクロ※。食事で例えるのなら、これまでは夕食に肉を食べたい時にステーキハウスに足を運んでいたのを、焼肉バイキングに、さらには吉野家※に行き先を変える、とすれば分かりやすい。

買い物をする行き場所のランクを落とせば、必然的に購入する商品の価格帯も下がる。これがトレードダウン(トレーディングダウン)
買い物をする行き場所のランクを落とせば、必然的に購入する商品の価格帯も下がる。これがトレードダウン(トレーディングダウン)

原文の説明では「格下げ」であり「消費量そのものは変わらないのね、やはり消費したいという心境だけは否定できないか」とも思われたが、小売業界そのものが不調に陥っていることから、個人消費の質が落ちていることは間違いない。生活必需品の購入が増えている、ともあるので要は「ぜいたくをひかえるようになった」と受け止められるだろう。

※ユニクロや吉野家の商品の質が悪い、というわけではない。単に安くて質がそれなりに良い事例として挙げただけである。念のため。

元々は自動車売買や「ぜいたく品を堪能するため」の用語。今や……

お財布イメージアメリカでは「トレードダウン(trade down)」あるいは「トレーディングダウン(trading down)」とも呼んでいるこの考え方、自動車の買い換えでよく使われていた。また、ぜいたく品に関して「トレードアップ(トレーディングアップ)」を行いぜいたくを尽くし、代わりに生活必需品の購入を「トレードダウン」でひかえるという消費パターンでも用いられていた。

それが今、「トレードアップ」の代わりに、というわけではなく単純に「トレードダウン」のみが行なわれている。最低限の生活必需品を維持し、後は「トレードダウン」。これは何を意味するか。

答えは明瞭。消費すべき実入りが減っている。物価の上昇も拍車をかけている(相対的な実入りが減ることになる)。日本の言い回しなら「無い袖は振れぬ」状態にあるというところだろう。

もちろん原因はサブプライムローン問題などを筆頭にした金融不安問題。直接サブプライムローンを用いて住宅ローンを支払っている人は、ある年を境にローン支払額が急増して家計がひっ迫する。そうでない人も景気悪化のために突然職を失ったり給料の大幅カットを迫られる。さらに彼らアメリカ人がその消費パワーのエネルギー補充によく使うクレジットカードも金融信用不安から査定が厳しくなり、追加の借り入れができないどころか既存の借り入れ分の返済まで求められる始末(【「ローンがおりない」人のために・三つの改善ポイント】)。消費が減退すれば企業の売上は落ち、その企業に携わる人々の収入にも大きく影響してくる。堂々巡りがおきつつある。


消費者の一般的な消費の面で「トレードダウン」という言葉がささやかれるようになったこと自体、アメリカが景気後退(リセッション)の局面にあることを意味している。公的な(全米経済研究所発表の実質国民総生産が対前年比で2四半期以上連続して減少した時)「リセッション」宣言はまだだが、実はすでに景気後退局面に突入しているのかもしれない。

一般的には消費・節約と供給・価格設定のバランスが取れるところにまで消費が落ち込めば、「消費減退」「売上減少」「景気後退」のマイナススパイラルは終焉を迎える。あるいは「収入が増える」「商品価格が下がる」などの第三の力が加わることで早期決着を見せる場合もある。

そのためには手に負えないくらいにふくらんだ、そして中身はスカスカで実態の無い部分が多分にあると思われる金融信用不安問題に片をつける必要がある。これまでの消費につぐ消費で溜め込んだパワーを十分に発揮し、いつもの馬力とスピーディな決断力で解決策を打ち出し、リセッション状態から抜け出してほしい。

そして「トレードダウン」ではなく「トレードアップ」が消費者の間に流行るよう、心から祈りたいものである。

(最終更新:2013/08/11)

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