「トレインチャンネル」~電車の中の液晶モニタ映像広告にみる、プロモーションメディア広告の善戦ぶり
2008年02月26日 12:00
先に【2007年の広告費は7兆0191億円、インターネット広告は2割超の成長率・6000億円を突破】や【インターネット広告の影響力の拡大を図式化してみる】でもお伝えしたように、ここ数年間は技術進歩やインターネットの普及と共にマスコミ四媒体(テレビ・新聞・ラジオ・雑誌)への広告出稿費が減り、インターネット広告への注力が増えている。その一方、従来「旧スタイル」として位置づけられうるプロモーションメディア広告も、実は堅調な伸びを示している。その「プロモーションメディア広告」の一つとして最近注目を集めている「トレインチャンネル」など、電車内の液晶モニタ広告についてスポットライトを当ててみたい。
スポンサードリンク
●健闘するプロモーションメディア広告
先の記事でも触れたように、マスコミ四媒体以外の「昔から存在する広告媒体」は意外に元気が良い。中には折込チラシや電話帳のようにスタイルを変えにくいがため、時代の流れと共に勢いが無くなりつつあるのもある。しかし多くの部門では、最新の技術を取り入れたり状況の変化に即した新しい提案をし、広告を見る人や広告主から注目を集めている。
プロモーションメディア広告の過去三年間の広告費動向
全体としてインターネット広告費ほどではないが、順調な成長率を見せているのは見逃せない。これらの部門に活気があふれているように見えるのは、「フリーペーパー・フリーマガジン」のように新規参入部門の急成長ぶりもあるが、それと同じくらいに「古い媒体・手法が新しいアイディアや発想を積極的に取り入れようとする姿勢・挑戦」、そしてその成功にある。
その「挑戦と成功」の一つが、「トレインチャンネル」に代表される「電車内液晶モニタ映像広告」。
●みんなが自然に注目する「トレインチャンネル」
「トレインチャンネル」とは一言でまとめると【JR東日本(9020)】が山手線の車両などに設けた液晶パネルで流す、情報動画テレビ。ドアの上面毎に二つの液晶モニタが設置してあり、右側には現在の駅や路線の様子、左側にはニュースや天気予報、そして広告が展開される。
「トレインチャンネル」のようす(山手線内で撮影)。
いわば独自テレビ番組を電車内で流すようなものだが、電車内という特殊事情に合わせるため、音声は一切発せられない。従来会話が交わされるようなシーンでは無声映画のように字幕スーパーが流れることになる。
先日発売された週刊ダイヤモンド3月1日号などによれば、この「トレインチャンネル」は2002年4月から山手線で放送を開始。2005年4月には山手線全線に導入、さらに2006年12月からは中央線快速、2007年12月からは京浜東北・根岸線でも一部で放送されるようになったという。
【JR東日本企画の解説ページ】や【広告出稿用ページ(PDF)】を見れば詳細がお分かりいただけるだろう。特に前者では動画を確認することもできる。液晶モニタのサイズは15インチとやや小さめだが、目線に近い位置にあるのであまり気にならない。
●特殊環境下の動画だから注目を集める、効果が高い
広告出稿用ページを見れば分かるように、掲載費は非常に高値。しかし先のダイヤモンド誌によれば半年先まで広告枠がすべて埋まるほど人気が高いとのこと。その理由は「広告効果が高いことが明らか」だから。
実際に山手線など「トレインチャンネル」を体験できる車両に乗っていると分かるのだが、本や新聞を読んだり携帯電話をいじったりしている場合は別にして、何もせずにいる状態が続く電車内で「トレインチャンネル」のような動画コンテンツがあるとついつい目がそちらに向いてしまう。単に娯楽番組や宣伝だけなら見向きもしない人も多いだろうが、電車の運行状況や遅延情報、さらには天気予報やニュースなど「電車内のほぼ全員が求めている情報」が繰り返し伝えられるのだから注目しないわけにはいかない。
「トレインチャンネル」は多くの人に強い影響を与える
何も他にせずに「トレインチャンネル」を見ていれば、自然に注目度は高まる。その中で広告主が展開したい広告を動画として流せば、普通のテレビなどの媒体と比べてぞれぞれの視聴者(この場合は視た者、の方が適切か)に残る印象も大きくなる。
テレビや新聞などのメディアと違い「電車内の乗客にしかアピールできない」という広告展開先が限られるという弱点も「トレインチャンネル」にはある。しかしそれを逆手に取り「電車を利用する人向けの広告、待ってます★」という姿勢で広告を集めれば何の問題も要らない。逆に「ターゲットを絞れて、しかも通常メディアより注力度・印象度が高い」という利点を強みに出来る。さらに例えば女性専用車両なら女性にターゲットを絞った広告を流すことも可能だ。
実際山手線で放送される「トレインチャンネル」の映像広告では、英会話教室や【ナビダイム】などの移動支援ツール、求人広告誌、海外旅行パック、企業内で働く人向けの公共広告、そして万人受けしやすい[任天堂(7974)]や【ソニー(6758)】のゲームソフトの広告が毎日のように流れている。いずれもがビジネスマンや学生など、「トレインチャンネル」を放映する電車を利用することが多い層向けのものだ。
「トレインチャンネル」の整備にはシステムだけで30億円以上の経費がかかっているという。しかし先の広告出稿用資料にある高額の広告費が(値引きがあるとはいえ)半年先まで枠が埋まること、そして追加運営費が微々たることを考えれば、非常に「美味しい」収益源に違いない。
「トレインチャンネル」に似たようなシステムはJR東日本に限らず、私鉄の【東京急行電鉄(9005)】が2004年4月から実施しており(【TOQビジョン】)、こちらもほとんど広告枠が埋まりっぱなしの状態、西武鉄道でも西武池袋線や新宿線で導入する予定(【参考資料:新型車両30000系「スマイルトレイン」で導入(PDF)】)。
「トレインチャンネル」や他の「電車内液晶モニタ映像広告」も、映像技術や液晶モニタの質の向上など技術的な進歩に支えられるところが大きい。しかしそれ以上にコロンブスの卵的発想とはいえ、乗客の便益にもつながり効果の高い広告の場を提供するという創意工夫を生み出し、それを現実のものとした各関係者の「絶え間ない努力」と「発想を活かす環境の整備」を忘れてはならない。
広告とは従来「告知」だけに留まらず、受け手を「驚かせ」「注目させ」、そして「得した気分にさせる」もの。その観点を忘れていなければ、今後も「トレインチャンネル」のように新しい技術と環境の変化を積極的に盛り込み、色々と楽しませてくれる広告が「プロモーションメディア広告」から登場することだろう。
技術の進歩と共に時代の最先端を突っ走るインターネット広告、そして地味に見えるが積極的に新しいものや環境を取り入れようとしているプロモーションメディア広告。それらの躍進が今後広告業界全体、そしてメディアの勢力図をどのように変えていくのか。期待しつつ見守って行きたい。
(最終更新:2013/08/11)
スポンサードリンク
ツイート