最近ストップ安が目立つのはなぜだろう

2008年02月24日 19:30

株式イメージ株価に反応するさまざまなニュースには、良いものもあれば悪材料となるものもある。中には一見すると悪い内容に見えるが、市場では「材料出尽くし」と判断されて株価へプラスの影響を与えるものもあり、判断は難しい。しかし大抵において、悪い材料は株価を押し下げ、良い材料は押し上げる。前者は業績不振などで企業の将来が懸念されるからであり、後者は見通しが明るくなるから。また、そのように「市場参加者が考え、売買すると思われるから」でもある。それら「材料(情報)」と株価動向の関係が、最近アグレッシブになった感がある。昨今の決算発表のピーク時期と、それに合わせて多発したストップ安を見てつくづくそう思う。

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1月下旬からは主要企業の四半期決算や決算短信の発表が相次いだ。先行きが暗ければ売りが増し、良ければ買い進まれる。これはいつの世も変わらない。しかし今回は、これまでにも増して「何でこれくらいの材料でここまで売り込まれるの?」というほどの投売り、そしてストップ安が相次いでいる。

バンダイナムコ(上、過去一か月)のチャート。

マツモトキヨシ(下、過去五日間)のチャート。
バンダイナムコ(上、過去一か月)とマツモトキヨシ(下、過去五日間)のチャート。大きく下げている直前に四半期なり決算短信が発表されている。確かに好業績というわけではないが、かつてなら何度もストップ安を受けるほどの売りは無かったはず。

多くの銘柄が「爆撃」「決算地雷」と呼ばれるような大バーゲンセールを受け、ストップ安を続出。一部上場だろうが日経225採用銘柄などお構いなしなあたり、売る側が「本気」であることが分かる。さすがに過大のマイナス評価を受けたと判断されたものはじわじわと「爆撃」を受けた後に値を戻しているが、そうでない銘柄もあわせ、痛手は大きい。

情報と資金の過流動性により市場が敏感に、大げさに反応する傾向にあることはすでに何度か述べた通り(【相場を左右する発表や事件相次ぐ昨今、どこまで情報に過敏になるべきか】)。1月以降の「ストップ安連続攻撃」は、いわばそれを裏づけするものともいえる。とはいえ、今回の「連発」はそれだけでは説明が付きにくい。

売買の手口情報が原則非公開ということもあり、調べられる情報は少ない。あくまでも推論でしかないが、次のような理由が考えられる。


1.情報と資金の過流動性で市場が敏感に反応する

これは先に説明した通り。大型トラックは小型自動車と比べると小回りは効きにくく、一度動き出したら勢いがついてなかなか止まらない。市場も、それを左右する情報も流動性が大きくなり、勢いが付きやすくなっているのだろう。

2.下げ相場では「マイナス要因」の方が支持を得やすい

トレードイメージサブプライムローンなど金融信用不安の真っ只中。内需も縮小の傾向にある。会計不祥事も留まるところを知らない。誰もが疑心暗鬼におちいっている。ちょっとしたネガティブの材料でも「将来はさらに傷口が広がるのではないか」という推論が成り立ち、それが説得力を持ち、さらなる売りを呼ぶ。要は「現在は売り込まれるだけの推論が容易に支持される雰囲気がある」下げ相場ということ。不信が不信を呼び、スパイラル状態になっている。

3.ネガティブな情報の方が過敏に反応しやすい

人はポジティブな情報よりネガティブな情報の方に注目し、強い反応を示す。「1000円拾った」より「1000円落とした」方が心に与える影響が大きいことを考えれば、容易に理解できるはずだ。これは【ステルスマーケティングが×なワケ……プラスがマイナスに転化する時のエネルギー・2(発覚時)】【JPモルガンが「行動ファイナンス理論」のサイトをオープン・関連投資信託も設定】でも説明しているが「行動ファイナンス理論」でも実証されている。

さらに簡単に説明すると、通常の株主にとっては「ポジティブな情報はいくら影響を及ぼしても自分の資産や命に傷をつけることはないが、ネガティブな情報は生存権すら奪いかねない内容を含んでいる。言葉通り生死に関わるため」、強い反応を示すのである。

これは昨今の、中国から輸入された食品の農薬混入問題からもすぐに想像できよう。「美味しいぎょうざ」の話が流れても一過性のもの、あるいは「あ、そう」で終わる人がほとんど。だが「下手に農薬入りに的中すると病院送りかも」という話となれば、真剣に耳を傾けざる。

いわば、人間の「生存本能」が「ネガティブな情報には注意」というシグナルを出しており、そのシグナルに従い過敏に反応しているわけだ。市場関連のニュースや、それに対応する売り注文も、そのような流れで考えると分かりやすい(空売りしている「売り方」にはまったく逆になるが、一般的ではないのでここでは省略)。

4.機関投資家の積極的な売りと個人投資家の信用口座の急増

毎日のようにニュースに流れている金融信用不安問題。主にサブプライムローン関連の金融商品で巨額の赤字が大手金融機関や機関投資家たちの懐を痛めている。株価動向が堅調なら、業績好調な銘柄に投資して利ざやを稼ぎ、その穴埋めをするのだろうが、現在の市場の雰囲気ではよほどの好材料が出ない限りそれは望めない。

と、なれば手っ取り早く利益を得るためには積極的な空売りをして、市場を焚きつけ、適当なところで買戻しをすれば良い。単に売りから入るだけでは大損をするだけで、追随する投資家が出てくるような市場展開にならねばいけない。そこで役に立つのが「下方修正」などのネガティブな決算発表。

元々上記1~3の理由で、市場には売買の材料を求めて「飢えたオオカミ」たちがごまんといる。下方修正(あるいは先行きの暗い)決算という起爆剤が与えられれば、あとはせっせと売り込むだけ。自社、あるいは他社のレーティングが下がれば勢いを後押ししてくれる(※サブプライムローン関連で問題視されたことから、レーティングが厳格化しているという考え方もできるが……)。何しろ(3にもあるように)一般的に上げ材料よりも下げ材料の方が反応度が速い。材料が用意されていれば、短期間で利ざやを稼ぐ場を作ることもできるだろう。

また昨今では信用取引口座開設のハードルが低くなり、空売りが簡単に出来るようになった。大衆週刊誌の中では積極的な空売りを初心者に勧めるところもあるほど。自然発生的に、あるいはある程度お膳立てされた「大安売り」の場に、彼らは喜んで足を運び、比例配分の列に並ぶことになる。かくして「ストップ安大幅売り超し」の舞台は完成する。

5.投資対象への慎重な選択

投資イメージ4では一部大手の誘導(陰謀)論めいた説を挙げたが、これとまったく逆の考えがこちら。市場の低迷で大きな損失をこうむった投資家達が、投資対象を今まで以上に慎重に選ぶようになったことも推測される。限られた資金の中で少しでもリスクを低く抑え、利益を極大化するためには、ささいなマイナス要因も排除したい。このような市場環境の中では、「アリの巣から堤防が崩れる」の例ではないが、「ささいなマイナス要因」がきっかけで大きな下降局面を導く可能性もあるからだ。

よって、先行きに少しでも影が見える情報が企業自身から発せられれば、クモの子を散らすように我先にと逃げ出す状況が生み出されることになる。


決算内容を嫌気して特売状態にある銘柄を見ると、浮動株式数以上の売り株数が出ている場面がしばしば見受けられる。それらを見るに「5」の理由は副次的なもので、「1」から「4」、特に直近では「2」と「4」あたりが主要因のように思えてくる。

頭を抱える材料が出てストップ安をつけるという場面自体はさほど珍しくもない。が、ここまで頻繁に、しかも大型銘柄でも相次いで、さらに以前なら「そこまで過敏に反応するような内容ではないだろう」という材料ですら売り叩かれるところを見ると、半ば意図的な、大きな意志の香りすら鼻をくすぐる。まるで「おぼれた犬をここぞとばかりに棒で叩く」かのようだ。

また最近のマスコミ全体にいえることだが、「3.ネガティブな情報の方が過敏に反応しやすい」という傾向に拍車をかけている様子がうかがえる。過敏に反応するということは多くの注目を集めることに他ならない。当然、視聴率や購読数は増加する。視聴率を高めスポンサーの意に応えるには、ネガティブな情報を寄せ集めたほうが手っ取り早いし安価で済む。長期的な視野で見れば、それが自分自身の首を絞めていることには気がつかないまま。これらの要件も売りの雰囲気を後押しする大きな一因となっているのは確かだ。


ともあれ、このような相場展開は今後もしばらくは続くに違いない。該当銘柄の株主にはたまったものではない。手持ちの銘柄がストップ安をつけて、何の感情も持たない投資家などおるまい。

しかしこのような場面はチャンスともいえる。発表された資料にしっかりと目を通し、叩き売られた銘柄の株価があまりにも不当評価と判断できれば、ここぞとばかりに買い増しをする絶好の機会に他ならない。「ピンチはチャンス」とはまさにこのことをいうのだろう。

しばらくは投売りやストップ安を受けた基準から株価はもみ合い低迷を続け、含み損の世界をさまようことになるだろう。しかし自らの判断が正しければ、やがて正当な評価を受け、それらの銘柄の株価は本来あるべき水準に戻るに違いない。

そのためにも新聞などの概略的な決算報道だけで判断せず、正式なリリースに目を通し、内容をしっかりと判断するクセをつけるのが第一。そして該当銘柄の投売りが「あるべき姿」なのか、それとも「単なるノリや雰囲気につられて一時的に売られているだけ」なのかを適切に判断できる能力を身につけよう。その技術を身につけることができれば、昨今の波乱万丈な市場展開の中でも生き残り、資産を確保するどころか増やすことができよう。

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