「外国人投資家」と彼らの行動について
2008年02月17日 12:00
日本の大企業・上場企業が従業員への配分優先度を低めにして、設備投資や配当を先行させる理由の一つに、外国人投資家の存在が挙げられている。彼らは日本人投資家よりも配当に注力する傾向が強く、過剰と判断した余剰金があれば、配当への割当を増やすよう要求することもしばしば見られる。彼らの有言・無言のプレッシャーが配当性向を高めると共に、従業員の賃上げが後回しにされる傾向を強めさせているという考え方すらできよう。また、グローバル化した経済において、海外の投資資金の動向は見逃せない。それこそ(サブプライムローン問題でよくお分かりのように)「世界のどこかで大国がクシャミをすれば日本が風邪を引く」という状況に違いはない。それでは「外国人投資家」とはいったい何なのだろうか。
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●日本国外に住む投資家、それが「外国人投資家」
東京証券取引所の定義によれば、「外国人投資家」とは日本国外に住む投資家のことを指す。具体的にはアメリカやヨーロッパ、中東、ロシアなどの年金や投資信託、ヘッジファンド、保険会社、年金資金などによる投資家。他国の株式市場同様、日本の株式市場でも国内投資家だけでなく、世界各国の個人投資家や機関投資家が株式を購入している。ただし現実的には個人の外国人投資家の取引割合は法人の1%にも満たないので、「外国人投資家」=「日本国外に住む機関投資家」と見て良いだろう。
意外に思えるかもしれないが、外国人投資家の日本国内市場における影響力は極めて大きい。かつてのバブル時代でも大きな商いを行なってきたし、直近では2003年前後の持ち合い株解消や不景気における株価低迷の際に「割安感」を得た外国人投資家が大きく買い越していた様子がうかがえる。例えば【直近の投資部門別株式売買状況(PDF)】で東証第一部の売買代金を見てみると
・自己売買部門(証券会社の自己資金による売買)……27.4%
・法人委託……8.2%
・個人委託……14.6%
・外国人委託……48.6%
・証券会社委託……1.1%
となり、約半分を外国人投資家による委託売買が占めていることになる。ちなみに東証第二部やマザーズではこの関係が逆転し、外国人投資家の割合は低い(東証第二部で24.1%、マザーズで12.8%)。
●外国人投資家の特徴など
「青い目をした日本人」「黒い髪をした外国人」の言葉にもあるように、データ上は「外国人投資家」であってもその実運用されている資金・人物・法人が日本人である、という事例もいくつかあるだろう。あるいは海外の投資機関を中継した日本国内の資金が運用されている可能性もある。とはいえそのようなパターンはごく少数であり、実際には「外国人投資家」=「海外の投資マネー」と見て問題は無い。
国内市場に大きな影響を与え、今現在の株価低迷の一因ともいわれている外国人投資家。彼らは日本人が日本国内企業に投資するよりもはるかにドライで合理的な投資を行なう。日本人の私たちが海外の株式や投資信託に投資する場合、どのような判断基準や売買を行なうか、逆の立場で考えれば彼らの行動パターンも容易に理解できよう。
大幅に買い超しした理由
[1]アメリカ国内
1980年代の金融不況
→1990年代の不良債権処理
→好景気に
↓パターンを知っている
[2]日本国内
2003年の金融恐慌
→国策による公的資金投入
→「好景気になるかも!?」
→日本株の買い込み
例えば2003年前後の「金融恐慌」とその後の株価復活・上昇の場面では、外国人投資家は大いに日本株を買い超ししていた。2003年~2005年の間、毎年10兆円以上の買い超しを記録していることからも彼らは日本を「買い」と見なしていたことは明らか。彼らの「買い」パワーが、日本株の上昇を後押しし引っ張ったと見て間違いない。
彼ら、特にアメリカ系の外国人投資家には、1980年代のアメリカにおける不況時代が1990年代に入り、不良債権の処理による金融機関の回復で景気と株価が復活したという経験則があった。だからこそ、2003年の金融機関への公的資金投入という国策が同じパターンに見え、「アメリカのように日本の金融機関も回復し、景気も上向きになる」と読め、ならばと先行投資の意味で日本株式を購入しつづけたわけである。
株価が上がれば景気が良くなる。景気が良くなれば株価が上がる。卵とニワトリの論議ではないが、外国人投資家の「日本の景気が良くなる」という読みが、日本の景気を良くした一因であるという考え方もできよう。
彼らは国策を見て過去のパターンと比較し、景気の動向を的確に予見し、先行投資をしたに過ぎないのである。
●現状と将来は
毎週報告している「投資部門別株式状況」によれば、今年に入ってからはずっと外国人投資家の売り超し状態が続いている。去年後半からは特に、日経平均が大きく下落した時には彼らの売り超し額も増えている場合が多いことから、彼ら外国人投資家が日本の株式市場を下げる大きな要因となっていると見て間違いないだろう。
1.自分のお尻に火がついている外国人投資家たち
それではなぜ彼らが「売り」を続けているのか。最大の理由は「日本に投資している余裕がなくなったから」。ご存知の通り、アメリカやヨーロッパなど海外の機関投資家、ヘッジファンドなどはサブプライムローンに関連する金融商品の巨額損失で首が回らない状態。オイルマネーなどで増資を受けて一息ついているところもあるが、まだ損失額が確定していない(さらに損失を被る可能性がある)ことを考えると、油断は禁物。
自分のお尻に火がついているのに、他人の様子をうかがう余裕などない。他国の株式に投資する資金があるのなら、さっさと換金して現金として持っていないと「もしも」の時にすぐに対応できない、というのが実情だろう。去年後半から値がさ株でひんぱんに見られた「値を下げてもいいからとにかく売り抜けたい」という、半ば強引な売り方には、彼らのそのような実情があった(雰囲気的には追証回避の半強制的な換金売りみたいなものだ)。
2.割安かもしれないが上昇する気運が見られない日本株
そしてもう一つ、外国人投資家が「売り」を続ける理由は、日本の株式に買い込む、あるいは「持ち続ける魅力が無い」から。財務的には非常に割安な水準に日本の株式はあると見て良いだろう。しかし、主要取引先のアメリカは今後不景気に突入するのが確実で、これまでの好業績が継続できるかどうかは怪しい。原油や各資源高騰のこともあるし、「外需がダメなら内需で」と視点を変えても、こちらも内需軽視の方針がわざわいし低迷を続けている。
しかし騰がる気運が見られない。
それが「日本」が買われない理由。
先の金融恐慌からの復活のように、「国策による景気回復」の気運が見られれば良いが、現状ではまったく逆。国政は混迷を続け、合理的で効果のある経済政策が打たれる気運は見られない。まして、証券税制が改悪され、アジアだけでなく主要先進国でもっとも投資家を冷遇する税制に変更しようとしているとなれば、どう考えても投資判断上プラスになることはない。
彼ら外国人投資家は割安なだけで投資するわけではない。割安で、しかも上昇する可能性が高く、その気運が見られた場合に投資を行なう。それは2003年以降の動向を見れば明らか。
特に欧州においては、サブプライムローン問題に端を発する金融商品問題にある程度ケリがつくまで、彼らは自分のふところの問題を処理するのが精一杯。他国への積極投資は行なう余裕がないだろう。余裕があるとすれば中東のオイルマネーやロシアくらいだろうか。
欧米の外国人投資家のポジション整理がついて他に目を向ける余裕が出てきた時、あるいは現状でもオイルマネーやロシアの資金が流入する機会が生じたとき、彼らの求めに応じるだけの、つまり「今後日本企業はさらに発展しますよ」という雰囲気を見せる体制が作れるかどうか。それが今後日本株が上昇するかどうかの鍵を握っているといえよう。
……このような話をすると「日本企業を外国勢力に売り渡すのに加担しろ、というのか」という意見を必ずいただく。確かに株式の購入は議決権の購入でもあるので、そのような考え方もありだろう。某ソース会社の件のように、ファンド側の意見も経営陣の意見も「どちらもどちらだね」というようなやりとりをしているのを見ると、どの意見が正しいのか判断がつきかねる(もっとも「外野」の意見に耳を貸したくないのなら、某放送局の買収問題のように、そもそも上場するなという話もある)。
その意見に対して一つの回答を考えると「日本国内の投資家だけで外国人投資家をはるかに上回るような売買、特に買いを行なえば良いではないか」という結論に達する。しかしこれも証券税制の改悪や投資教育の不十分さ、一人一人の購買力の低迷という現状を考えると、難しいものがある。
資金そのものが肥大化し、またネットワークで世界中が結ばれた現状において、「外国人投資家」を無視する、あるいは排除するという考えは事実上不可能。むしろ現状をしっかりと認識した上で、より良い道(もちろん日本株が上昇する道)を考えるべきなのだろう。
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