企業の社会的責任、開示している上場企業は約6割・内容にはまだ不十分さも

2008年02月21日 12:00

時節イメージ日本総合研究所は2月19日、上場企業2000社に対して行なった企業の社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)に関する調査結果を発表した。それによると対象企業の約6割が、有価証券報告書などの開示情報書面において、環境問題や社会問題に関連するリスクへの言及をしていると回答したことが明らかになった。企業の社会的責任が企業評価の上で重要視される傾向がある昨今、企業側も前向きに取り組もうとしている姿勢を見せる企業が増えていることが見受けられる(【発表リリースページ】)。

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取り組み状況の概要と回答率の高低

今調査は2007年7月19日から8月末日にかけて、東証一部上場企業1674社、及びその他の市場に上場している時価総額上位企業合わせて2000社に対して行なわれたもので、各企業に対し専用回答用ページへのIDとパスワードを送付、回答してもらう方式を採用。回答企業は357社で回答率は17.9%。CSRに関する部署自身が無く回答に窮したことも想定できるが、上場企業の対応としてはいささか問題視せざるを得ない回答率の低さといえる。

調査結果の概要としては次の通り。

1.温室効果ガスの排出量は絶対値での削減が進んでいない
2.再生可能エネルギーは利用だけでなく生産する企業が広がる
3.グリーン調達の実効性を高めるために取引先への指導に取組む
4.生物多様性に関する取組みは本業の中での係わりが必要
5.環境問題に対応するためのR&Dは5年間増加を続ける
6.株主に対する環境問題・社会問題に関する情報開示の動きが広がる
7.海外サプライヤーとの取引におけるCSR配慮は未着手
8.社会貢献活動の効果検証、今後の課題 
9.メディアスポンサーになる際の基準の策定が急がれる
10.安全・安心のテーマに事業化の視線が集まる


回答を寄せている時点ですでにCSRに対する取り組みへの積極姿勢が見られると判断できるが、それをもってしてもまだ十分な取り組みに踏み切れていない企業が多いことが分かる。

「そもそも論」として回答すらしなかった企業・しっかりと回答した企業をセクター別に見ると次のようになる。

■「環境編」

○回答率上位
1.電気・ガス業……77.8%
2.保険業……62.5%
3.空運業……50.0%

×回答率下位
1.倉庫・運輸関連業……4.8%
2.サービス業……4.9%
3.鉄鋼業……5.6%

■「社会・ガバナンス編」

○回答率上位
1.電気・ガス業……72.2%
2.保険業……62.5%
3.空運業……50.0%

×回答率下位
1.倉庫・運輸関連業……4.8%
2.鉄鋼業……5.6%
3.サービス業……5.7%


「している」ことを喧伝しないのは
「していない」と誤解される
リスクを生じる

イメージ戦略を重要視している電気・ガス業や保険業などが上位をつけているのが特徴。逆に、本来イメージが重視されるべきサービス業や、環境面で自分たちがしていることに対するアピールを積極的に行なうべき鉄鋼業の回答率が低いのが気になる。

「まったく配慮していない」のなら問題外だが「自分たちはしっかりとやっているんだから特にアピールしなくても」「いつか誰かが見てくれる」と考えているのなら、再考が必要だろう。企業の社会的責任の実行は「当たり前のこと」であると同時に「胸を張って喧伝できること」に他ならない。逆に「何もしていないのでは」と誤解されるリスクを考えるだけでも、告知しないことに対する損失が大きいことが分かるだろう。

株主にとって必要な情報開示、CSR問題・開示傾向は……?

特に株式の売買を通じて投資活動をしている個人投資家にとって、投資対象企業のCSRとの関わりは気になるところ。投資家本人は考慮しなくとも、他の投資家、さらには機関投資家やファンドなどが売買の意思決定の際にCSRに重点をおく傾向が強まっている以上、チェックをしないわけにはいかない。

そこで今回発表されたデータのうち2点について内容を見てみることにする。一つ目は「直近の有価証券報告書等の「事業等のリスク」に関する情報開示の中で、環境問題や社会問題に関連するリスクの言及」があるかどうか。この設問に対しては全体で58.3%が「はい」と答えている。中でも「その他製品」「食料品」など(回答を寄せた企業の中では)消費者と直接係わり合いのある企業や、環境に影響を及ぼす・及ぼすと思われる業種に回答率の高さが見える。

直近の有価証券報告書等の「事業等のリスク」に関する情報開示の中で、環境問題や社会問題に関連するリスクの言及がある企業
直近の有価証券報告書等の「事業等のリスク」に関する情報開示の中で、環境問題や社会問題に関連するリスクの言及がある企業
「その他製品」や「食料品」は高レベル
「情報通信」は段違いに低い

「卸売」「金融」など環境問題や社会問題にはあまり縁がないような企業(もっとも「金融」は昨今ではそうではないともいえるが)のリスク言及がないのはある程度仕方がないとして、「情報通信」における割合が取り分け低く2割程度しかないのが気になる。

目に見えない情報のやり取りを主業務とするこの業種「情報通信」では環境保全や負担とはあまり縁がなく、社会問題ともさほど縁がないように見える、ということからなのかもしれない。とはいえ昨今では携帯電話におけるフィルタリング問題や迷惑メールの話など、新たな分野における「社会問題」と直面しているのも事実。仮にCSRに関する部局が無い企業があるとしたら、今の段階で創設しておかないと「いざ」という時に対処できなくなり、投資家からそっぽを向かれてしまうかもしれない。

情報開示が不十分だったり、あるいはCSRに関連する問題が発生した場合、株主からの問い合わせは容易に想像できる。そのような場合、どのような対応姿勢を見せるのか。約半数が「個別に回答を行なった事例がある」と回答している。

■環境・社会問題に関する株主の個別な働きかけ等への対応事例(複数選択可)

・個別の問い合わせや要望に、個別に回答を行なった事例がある……51.5%
・直近の株主総会で質疑応答を行なった事例がある……19.6%
・株主懇談会の議題とした事例がある……2.1%


他に株主総会においても約2割で「環境・社会問題に関する質疑応答をしたことがある」と答えている。先にも説明したように、株主本人に興味は無くとも他の個人投資家や大口投資家の動向を考えると、CSRに関する疑問は解消しておいた方が、投資判断をする際には欠かせないと考える人が増えている、ということなのだろう。


ちょっと前までは言葉そのものすら知られていなかったCSRだが、最近では日本国内でも企業、特に上場企業に対して重要視することが求められている。その根幹をなすものは、「企業は経済だけでなく、社会や環境においても責任を持つべきである」とする考え方。企業が人によって動かされ、その人は社会生活を営み、(自然)環境の中で生を育むのであるから、CSRへの取り組みは企業そのものを守り育てることに他ならない。

特に欧米系、取り分けヨーロッパの投資家からは、CSRに関して鋭い目が向けられている。多分に宗教上の観念からのものもあるが、中にはCSRに積極的(なアピールをしている)企業のみを集めたファンドを形成し、大いに人気を集めているところもある。

日本国内においてもかつての江戸の豪商の中には、利益を社会に還元するという考え・理念・家訓が育まれてきた。行きつくところはCSRと同じであり、わざわざ海外からの考えを「輸入する」までもないはずなのだが、「CSR」という表現で再認識されるようになるまで、半ば忘れ去られていた雰囲気も否定できない。

どこぞの企業のトップのように「(経費のかかる正規雇用を極力避け)無職かアルバイトかどちらかを選ぶのみだ」と堂々と発言したり、企業の利益の配分を雇用者に怠るという行為も、「利益を社会に還元するという考え」「CSR」が正しく頭に刻まれていれば無かったはず。どちらが正しかったかは、今の日本における内需の状況などを見れば明らか。

先人の尊い知恵にもつながる「CSR」という考え方を軽視できる時代は、すでに終わっているといえよう。

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