小麦価格4月から30%引き上げ・農林水産省発表
2008年02月16日 12:00
農林水産省は2月15日、政府が製粉会社に売り渡す輸入小麦の価格について、4月から一律30%の大幅引き上げを行なうと正式に発表した。2007年4月の1.3%、10月の10%に続き、大幅な引き上げとなる。すでに製パン企業などでは値上げ実施の可能性に関するコメントが相次いでおり、消費者への影響は不可避と思われる(【発表リリース】)。
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●パンやめん類、お菓子に使われる小麦が4月から3割値上げ
【パンやうどんなどの値上げも?~輸入小麦の政府卸売価格、10月から10%引き上げ】で詳しく説明しているが、輸入麦の大部分は食品の安定的な国内供給を確保するため、政府が商社を経由して輸入し、その上で(国内の小麦農家への補助金にあてる費用を一定額上乗せしてから)企業に売り渡すという、農協におけるお米の売買と似たような仕組みを採用している。【輸入麦の価格ルール変更でパンやうどん、焼酎などの値段に影響か】にもあるように、これまで年間固定制だった売り渡し価格は2007年から年3回(当面は年2回)の変動が行なわれる。2007年4月の値上げは1.3%で済んだが、2007年10月にはこのルールに従い10%という大幅な引き上げが行なわれ、これがきっかけで小麦を使う各種食品が続々と値上げすることになった。
しかし最近ではさらに小麦価格は上昇。最近では政府の売り渡し価格を輸入価格が上回り、「補助金を上乗せ」するどころか輸入価格より安い価格で業者に卸すという「逆ザヤ」状態におちいっている。今回改正が発表された小麦の売り渡し価格は2007年6月から今年1月の価格を平均化して算出される(その間に順次輸入していたから)。
シカゴ取引所における昨年8月以降の小麦価格の変移(【フジフューチャーズ】から)。この半年で2倍近くに跳ね上がっているのが分かる。2月にアメリカ国内の在庫問題が発覚し急騰、その後はやや値を下げたあと高値のまま推移している
今回の価格改正分では反映されないが、直近では【小麦不足でアメリカの在庫量60年来の低水準・国際小麦価格は急騰へ】にあるように、小麦の輸出国アメリカでも「在庫が底を尽きるかもしれない」という懸念が生じ、さらなる価格高騰に拍車をかけている。状況はしばらく好転しそうにないことだけは確か。
農林水産省側のリリースによると今回の値上げについて
(ア)中国やインド等の人口超大国の経済発展による食料需要の増大
(イ)世界的なバイオ燃料の原料としての穀物等の需要増大
(ウ)地球規模の気候変動の影響
などの理由から需要がひっ迫し大幅に価格は高騰・政府買い付け価格も大きく値を上げていると説明。その上で、直近8か月で平均買い付け価格を計算しそれを元に売り渡し価格を試算すると現行価格に比べ38%、2008年1月の買い付け価格のみで試算すると6割程度の上昇になるとした上で、「4月期の政府売り渡し価格は現行価格比30%の引き上げ」としたと説明している。
具体的には主にパン用に用いられているカナダ産ウェスタン・レッド・スプリングが1トンあたり5万6250円から7万3130円、菓子類などに使われるアメリカ産ウェスタン・ホワイトが4万6990円から6万1090円に引き上げなどとなる。全部で5銘柄あるが、すべて前期比で30%のプラス。ちなみにスパゲティやマカロニなどの原材料となるデュラム小麦は別制度で入札されている。2008年1月における入札価格は2007年8月と比べ71%と大幅な上昇率を示している。
また今回の値上げで農林水産省側では消費者物価指数に与える影響を0.03%程度と試算している。
●今後の動向を検証する
まずパンやめん類、お菓子の価格への影響だが、価格上昇は不可避。すでに経費削減はほぼ限界に達しているし、原油価格の高騰などで小麦以外の原材料費・包装費・労務費で穴埋めすることも難しい。
3割前後の値上げは
避けられない事態に
昨年10月の「10%値上げ」の際には結局のところ、関連する食品は1割前後の値上げが実施されている。そのままのパターンを踏襲するとなれば、当サイトで何度か警告していたように、4月前後から3割前後の値上げ(あるいは分量の削減)が容易に想像できる。例えるなら130円のカップめんが170円、180円の食パン8枚セットが235円になるという計算。
また、今回の大幅引き上げをもたらした「国際的小麦価格の高騰」が今後どうなるかについてだが、今回農林水産省がかかげた「小麦価格高騰の理由」のいずれもが短期的には解決しないものばかり。小麦の一大産地であるオーストラリアの干ばつは今後(希望的観測も多分に含むが)これまでほど酷くはならないだろう。しかし他の地域の気象状況も怪しいものだし、何より新興国の需要がますます増加しており歯止めがかからない。
一方でバイオエタノールの需要拡大でとうもろこしばかりが増産され、小麦の作付面積が一向に増えないどころか減る状況。特に輸出大国アメリカでは手持ちの小麦すら底をつき、近々でカナダから輸入する羽目になるかもしれないことは先に述べた通り。
市場原理が働くことにより、「小麦価格の上昇」→「利益が大きくなる」→「作付け面積の増加」→「生産量の増加」という流れが出来れば、ある程度価格上昇は抑えられるだろう。また、価格上昇の原因の一つとして考えられる「投機マネーの流入」も、今後アメリカ経済を含めた世界経済が谷間を過ぎ、回復に向かえば商品市場から株式・金融商品市場に戻り、落ち着きを見せるものと思われる。
しかしこれらの「期待」も、数か月の期間ではなく数年の期間で様子見をしてはじめて「好転するかも」という類のもの。これらを考えると、今後しばらく間はかなり良く見積もっても現状での「高止まり」、もしかすると今後さらなる上昇も十分に考えられる。
現状で作付けをした場合国際価格の小麦に太刀打ちできるのか検証する必要はあるが、日本国内での小麦の生産の活性化を真剣に考えねばならないような状況にあるのかもしれない。
(最終更新:2013/08/11)
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