SPA!最新号に「孤独のグルメ」特別編掲載

2008年01月10日 12:00

「孤独のグルメ」特別編イメージグルメ漫画としては異色の体裁・テーマを取り扱いながら、単行本化されてから10年以上経過しているにも関わらずいまだに多くの支持を集めている話題のロング&ベストセラー『孤独のグルメ』の「特別編」が、1月9日発売の週刊情報誌「SPA!」に掲載された。今春に発売予定の新装版に伴い、掲載されたようだ。

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「孤独のグルメ」とは久住昌之氏原作・谷口ジロー氏作画の、貿易古物商を一人で営む主人公が、仕事の合間にたしなむ食事の体験談を描いた形をとっている、ごくごく普通の中年男性による食事体験記。タイトルに「グルメ」という表現はあるものの、他のグルメ漫画にあるような高級レストランをはしごしたり、産地特産の名物にターゲットを絞ったりというような格好付けた話ではない。ありきたりな食堂、売店の食べ物、ふらりと立ち寄った回転寿司屋など、庶民になじみの深い、どこにでもあるような「日常生活の中の'グルメ'」が描かれている。

谷口ジロー氏の繊細でリアルなタッチや、主人公の「ちょっと格好つけたいんだけど、ついつい地が出てしまらない、そしてなによりもおう盛な食欲に正直」な行動が、読者に親近感を与えてくれる。製鉄所のそばで焼き肉を食べた時「まるで俺の体は製鉄所、胃はその溶鉱炉のようだ」と表現し、さらに食い続けると「人間火力発電所だ」と表現がより過激になったり、夜食代わりにちょっとコンビニに立ち寄って食事を買おうとしたらついつい買いすぎて2000円近くものコンビニの料理を机の上に並べ、それを平らげつつも「俺……いったいなにやってるんだろう」と自嘲したりなど、実に人間くささがにじみ出ている。あくまでも「孤独」であって「孤高」でないのがほほえましい。

今回「特別編」が掲載されるにあたり、昨年末から一部情報が流れた段階では「食の安全や偽装問題が話題になっているから、かの主人公も世相ネタということで『庶民にもかかわってくるよな、こういう問題って』とうそぶきながら食事をするのだろうか」という噂もあった。しかしいざフタを開けてみると、ある意味「特別編」らしい展開が待ちうけていた。

病院内での食事。実際に入院してみると分かるのだが、大抵において主人公が想うがごとく「食事は唯一の楽しみ」となる。また、「ネフローゼ闘病記」でも言及しているが、よほどキツい食事制限がない限り、イメージと違い病院食も非常に「美味しい」ものが多い。
病院内での食事。実際に入院してみると分かるのだが、大抵において主人公が想うがごとく「食事は唯一の楽しみ」となる。また、「ネフローゼ闘病記」でも言及しているが、よほどキツい食事制限がない限り、イメージと違い病院食も非常に「美味しい」ものが多い。栄養師さんの努力がうかがえる。

「特別編」の舞台は何と病院。主人公が看護士の呼びかけで目を覚ますシーンから始まる。いつものように「料理解説の一コマ」が出た後に、目の前に出された病院食を飾ることなく、しかも「人生是食事が全てなり」とでもいうが如く味わいながら、食していく。

今回の「特別編」では主人公の名前や、単行本化されている本編ではほとんど語られなかった「雑貨商というあまり体力を使いそうにもない職種なのにどうしてあのような筋肉質の身体を有しているのか」が(一部ではあるが)明らかにされている。「孤独のグルメ」ファンにしてみれば、神秘のベールをかいまみれたようで、非常に嬉しいものだ。

ごくありきたりな、日常生活(今回は「病院食」という非日常だが)における定期的、そして欠かせないイベントの「食事」をていねいに、そしてリアルに描き、読み手の口の中に大量のだ液を生み出す魅力は何ら変わるところが無い。

ましてや、当方も入院した経験があるだけに、今回の「特別編」で描写されている食事に関するエピソードや想い(例えば「食事だけが楽しみ」「量が制限されているのでていねいに大切に良くかんで味わいたくなる気持ち」「家族に連絡をしてこっそり夜食用に何か別の食べ物を持ってこさせる」「隣のベッドにいる別の患者の食事が気になり、また気を使ってしまう」)が痛いほど分かる。かつて入院していたころが思い出されてしまう。

病院食は当然のことながら、出されたものがすべて。おかわりできるわけでも差し替えできるわけでもない。だからこそ目の前にあるものすべてがいとおしく見え、ていねいに大切に、よくかんで味わうようになる。このあたりの心境、心理描写は非常によく出来ている。
病院食は当然のことながら、出されたものがすべて。おかわりできるわけでも差し替えできるわけでもない。だからこそ目の前にあるものすべてがいとおしく見え、ていねいに大切に、よくかんで味わうようになる。このあたりの心境、心理描写は非常によく出来ている。

本編「孤独のグルメ」は言葉通り「ひとむかし前」に描かれたものなので、今回の「特別編」では、正直、タッチや描写手法が変わっているのではないかという心配もあった。しかし読んだ限りではほんのわずかに描写に違いがあるように見受けられるものの(本編より細かくなっている、視点を一歩引いた時の描写が少々本編とは雰囲気が異なるようにも見える)、あの独特のアングルや効果音、カット割りは何一つ変わっていなかった。安心して8ページを一気に読み終えることができたのはいうまでも無い。

「特別編」の欄外に「累計10万部を突破した」という表記がある。「孤独のグルメ」は単行本のあとに文庫本も発売されているが、両者をあわせて10万部突破というのは、このジャンルでは相当な売れ筋。今回の「特別編」は、大元の単行本を持っている当方でも、春先に発売されるという「新装版」には期待したくなる感想を持たせてくれるだけのものはあったといえよう。


(最終更新:2013/09/08)

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