【更新】井上工業の株価急落、社長保有の自社株強制売却が原因

2008年01月22日 19:30

【井上工業(1858)】は1月21日、同日同社株が大量の出来高を伴って急落したことについて記者会見を行なった。それによるとこの急落は同社の宮崎純行社長が自社株を担保に入れた信用取引で損失を出し、追加保証金を入金できなかったことによる強制売買であることを明らかにした。ただし宮崎社長側では「強制売買の期限より前に無断で売却されてしまった」と説明している。一方強制売買を行なった【松井証券(8628)】側では正当な行為として宮崎社長の「無断で売却」との意見に反論をしているという([井上工業側プレスリリース、PDF][関連記事、中日新聞])。

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井上工業の株式は1月21日に何の事前情報も無く急落。前営業後の終値69円に対し、始値67円で寄りついた後急落し、39円まで値を下げた。結局終値も41円となり、4割以上値を下げた計算になる。出来高も18日が55万8000株だったのに対し21日は2952万6000株と実に約53倍に及んだ。

1月18日(左半分)と21日(右半分)の井上工業の値動き。21日の10時頃まで大きな出来高を伴って断続的な売りが入り、急落しているのが分かる。業績上何か問題があったのか、あるいは誤発注かとの噂が市場に流れたとの話も。
1月18日(左半分)と21日(右半分)の井上工業の値動き。21日の10時頃まで大きな出来高を伴って断続的な売りが入り、急落しているのが分かる。業績上何か問題があったのか、あるいは誤発注かとの噂が市場に流れたとの話も。

今件について井上工業側では同日21日午後3時半から記者会見を開くと発表したものの、結局その記者会見に関する内容が報じられたのは夜半になってから、リリースが出されたのは翌日の22日になってからだった。上記PDFファイルがそれに該当するが、そのリリースによると

当社代表取締役社長宮﨑純行が所有し、個人的に証券会社に担保として提供していた当社株式が、宮﨑によれば、本人の意図に反し、当該証券会社により大量に市場に流出した結果、昨日の当社株価及び出来高に多大な影響を及ぼしております。

※強調は当方にて


とのこと。昨年12月時点の四季報データによれば、宮崎社長は井上工業の株式3237万株・23.6%を持つ筆頭株主。中日新聞など各報道によると、自社株を中心に約10億円の担保を差し入れ、通信会社など約20億円分の株式を信用取引していた。しかし昨今の株価急落で16日には約4億円の損失が発生。追加保証金(追証)を求められていた。

信用取引では担保となる株式や現金に対して何倍かの資金を動かせる。しかしその掛け率は一定で、担保の株式の株価が下がれば担保そのものが不足する場合も生じる。その場合は現金を積み増しして担保を増やす(追証)か、それが出来なければ担保株式を言葉通り「担保に取られ」、証券会社による強制売却によって現金化されてしまう(「追証売り」とも言われている)。

宮崎社長によれば「4営業日以内(16日に追証が発生したので21日まで)に損失分を入金すれば担保は返却されるのに、翌17日から松井証券が担保株の一部の売却をはじめてしまった」とし、自分に不備はないと訴えたという。

これに対し松井証券側では正式なリリースを出していないが、上記参照記事によれば事前に了解した取引規定に基づくものであり、「多額の損失が確定し、債権保全を行う相当の理由があると判断した。法令に違反する点はない」と宮崎社長の訴えを退ける形で反論しているという。

【松井証券の信用取引ルール】を読むと、

建玉の評価損の拡大や代用有価証券の評価額の低下によって、当日引値を基準として維持率が25%未満となった場合は速やかに追加保証金(追証)の差入れが必要です。一度発生した追証は、相場変動により自然に減少・解消することはありません。

・維持率が25%未満となった場合の追加保証金額は、追証発生日の審査時点の31%回復相当額です。
・維持率が10%以上25%未満の場合、追証の期日は、追証発生日の翌々営業日11:30です。
・維持率が10%未満の場合、追証の期日は追証発生日の翌営業日11:30です。

※強調は当方にて


とある。

・宮崎社長主張
「追証は4営業日までに払えば良いはず」
・松井証券信用取引ルール
「追証期日は2営業日11時半まで」

16日に追証が発生したとすると、 最短で17日の11時半までには追証を入れないと担保株式の強制売却を受けても文句はいえない。維持率10~25%だった場合には、18日の11時半である。松井証券側は単に「正当な行為」としかコメントしていないとのことで、いつから売却を始めたのかは述べていないが、最短で17日の午後からは追証が支払えないために発生する「追証売り」が出ていたことになる。宮崎社長側はそのように主張している(「翌17日から松井証券が」)。とはいえここ数日の出来高を見る限り、実際の「追証売り」が本格的に出たのは急落騒ぎの起きた1月21日からが正しいようだ(18日も多少出来高は大きいが……)。

宮崎社長側は「4営業日以内」と主張しているが、上記の松井証券の信用取引ルールを見る限り2営業日(場合によっては1営業日)までと明記されており、単に宮崎社長側の勘違いで追証の手配を誤ったものと推定される。松井証券側としては、16日の追証発生分について翌々営業日の18日11時半まで待ち、午後から多少担保株を売って様子を見た。しかし追加証拠金の入金の気配はなく、翌営業日である21日の朝一から「債権保全」として正式なルールに従い担保株式を売りに出したのだろう。

宮崎社長が信用取引の担保として預けた自社株は「会社保有の自社株」ではなく、宮崎社長個人の自社株。法的には何の問題もない(定款などで縛りがあれば話は別だが)。とはいえ、自社株を大量に担保に入れた上で個人の信用取引という危ない橋を渡るような行為を行い、挙句に自社株の急落(=自社の資本価値の急激な減少と信用失墜)を導くような追証売りを発生させたことに対し、市場では失望感が広まっている。

22日は原因がある程度明らかになったため最安値からは値を戻しているものの、戻りは鈍い。追証売りで急落する前の株価に戻るとしても、ずいぶんと先の話になりそうだ。

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