トヨタやNTT、ソニー、フジテレビがテラメントに買収された日

2008年01月26日 04:50

株式イメージ金融庁は1月25日夜、神奈川県川崎市に本社を置く企業「テラメント」が、【NTT(9432)】など日本を代表する大手企業6社の株式をいずれも51%・計20兆円強分を取得し、大量保有報告書を提出したと発表した。浮動票株数などを超えており、公開買いつけルールにも抵触していることから、実際には取得していない株式に関する虚偽報告である可能性が高い。金融庁では事態を重く見て25日20時半から発表を行い、通常は更新されない時間帯である深夜にも関わらずデータを公式サイト上に掲載して説明を行なうなど、異例の対応を見せている。事態の深刻さが受け取れる姿勢といえよう(【発表リリース、PDF】)。

スポンサードリンク

発表などによると今回提出を行なったのは神奈川県川崎市麻生区にあるテラメント株式会社。取得対象となった企業と取得資金数、ならびに現在の株価で計算した含み損益は次の通り。

【フジテレビ(4676)】……取得株式数:120万6000株/取得資金:2351億7000万円(▲373億8600万円)
【アステラス製薬(4503)】……取得株式数:2億6467万3000株/取得資金:1兆3313億0519万円(▲1296億8977万円)
【三菱重工(7011)】……取得株式数:17億2056万1000株/取得資金:9032億9452万5000円(▲1359億2431万9000円)
【ソニー(6758)】……取得株式数:5億1147万8000株/取得資金:2兆6187億6736万円(▲51億1478万円)
【NTT(9432)】……取得株式数:801万5000株/取得資金:4兆0075億円(▲160億3000万円)
【トヨタ(7203)】……取得株式数:18億4109万9000株/取得資金:11兆6725億6766万円(▲1兆4176億4623万円)

※取得株式数はすべて発行済み株式数の51%


取得金額の合計は約20兆7686億円、現在の含み損は約1兆7417億円に及ぶ。

今大量保有報告書が提出・掲載されたのは25日16時12分頃。いずれも51%と過半数ぎりぎりの数字であることや、論理的(安定株主数などを考慮するといちどきに取得できるはずがない)ではない、法的にありえない(TOBルールや放送法の問題など)ことから、発表当初から財務諸表など企業の開示情報を閲覧できる電子システム「EDINET」(金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム)のテストパターンが誤配信されたのでは、という推論も持ち上がった。

しかし各報告書のデータがそれぞれ別個のものになっていること、例えば保有目的の項目に「ITの発展がネットワークを通じて発展していく中放送分野においてもネットワークを通した新しいシステムが創造される昨今、新しい形のコンテンツに対し積極的に投資したく今回の保有に至りました」(フジテレビ)、「ITが発展する世の中でソフトウエアー、プロセッサーの役割は大変重要になっております。現在この領域は米国の企業が牛耳っている状態でありますが、この領域に新たに日本企業として世界標準を展開すべく投資を実行していきたいと考えております」(ソニー)などと各企業に対応する内容が記載されていることから、単なるダミーデータではないという結論に至り、さまざまな憶測が飛び交うと共に市場関係者に混乱を招いた。

各報道や法人登記データによれば、今回大量保有報告書を提出したテラメント株式会社は2007年11月設立。企業の買収及び買収した企業の経営などを事業内容としており、資本金は1000円。

金融庁側でもデータの公開直後から調査に着手。約4時間後の20時半には状況説明の記者会見を行うなど、異例のスピードによる対応を見せている。

「EDINET」は2007年4月から電子化が行なわれており、個人なら住民票、法人なら定款を提出すれば登録のためのIDとパスワードが発行され、各企業や個人のパソコン上からでも報告書を入力・提出でき、そのデータは即時に公開される。登録者の実情が当局側に把握されるものの事前チェック体制はなく、事後のチェックに任せるしかない。今回の「虚偽報告」(と思われる)はそのシステムの隙をつかれた形。

なお大量保有報告書にからむ法令違反としては、2000年12月に【東天紅(8181)】株式に絡み、会社役員らが5%ルール(上場企業の株式を5%を超えて取得した場合、報告義務が生じる)に抵触しているにも関わらず報告書を提出しなかったとし刑事罰が課せられた事例が見受けられる。また、虚偽であることが断定された場合、現在では金融商品取引法第197条の2第6号「虚偽の報告書の提出」により、懲役5年以下または500万円以下の罰金に課せられる可能性がある。

今回の報告書公示は市場が閉じた後であったことから、市場に与えた影響は最小限にとどめられた。しかし仮にこれが市場開場中(平日の昼間)だった場合、さらには理論上ありえない数字ではなく、中小の上場企業で、しかも現実的な数字で似たような「虚偽(と思われる)大量保有報告書」が公示された場合、どのようなことがおきうるのか。公開された場所は公式の場である「EDINET」であるだけに影響力の大きさは否定できず、株価が大いに変動する可能性も十分にありえる。

EDINETを管轄する金融庁においては該当する法人・該当者に対し(対象がどのような「状態・状況・心情」であったとしても)金融商品取引法の規定上限を適用するなど厳罰を持って望むことを強く望みたい。また、各該当企業も会社の信頼を傷つけられたとして民事訴訟を起こすだけの要件はあると思われる。その他想定されうるありとあらゆる法令を適用させ、例え行為自身の労力がさほど大きなものでなくとも「やってはいけないことをしたら、与えた影響に比するそれなりの報いを受ける」ことを本人、そして世間一般に広く知らしめる必要があるだろう。

また公開した本人・法人の特定が出来るとはいえ、提示されたデータが即時公式情報として金融庁管轄のデータベースから公示されてしまう(そしてそれなりの「裏づけ」「重み」が生じる)現在のEDINETのシステムに対し「このままで良いのか」「今後類似、あるいは模倣犯(の可能性)を防ぐため、何らかのチェック体制を設ける必要があるのか」などの論議が今後展開されることだろう。EDINETは適時・即時開示が前提であるだけに、チェック体制の整備とは相反するところがあり、難しい問題だが、超えねばならないハードルといえよう。

……法人登記のわずか2か月後に報告書提出を実施していること、資本金がわずか1000円であること、報告書には設立当初から取得を進めていたと記載していること、企業の事業目的が今回「買収」したとする企業の主要事業内容(IT、自動車、通信、家電、半導体、宇宙航空、原子力、製薬、放送と大量保有報告書には記載)と一致することなどから、大掛かりな「いたずら」「釣り」である可能性も高い。もし事実でないことが断定できれば、それなりに「報い」を受けることになるに違いない。


(最終更新:2013/08/16)

Related Posts Plugin for WordPress, Blogger...

スポンサードリンク



 


 
(C)JGNN||このサイトについて|サイトマップ|お問い合わせ