原油価格の今後「下は40ドル上は150ドル」複雑に絡む要素が予想を困難に

2008年01月05日 12:30

原油イメージついに原油先物価格が100ドルを突破し、正月早々に歴史的な「原油新時代」あるいは「エネルギー新時代」を迎えざるを得なくなったことはすでに【原油先物相場再び急騰、初の100ドル台に】でお伝えした通り。この記事の翌日も最高値で1バレルあたり100.9ドルをつけ、100ドルきっかりで終えた日が「最初で最後の3ケタ台」ということは永遠に無くなった。この「原油100ドル超時代」到来に際し【NewYorkTimes】において、気になる解説があったので紹介しよう。タイトルは「原油の先行きは経済と地政学が決定する」というものだ。

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原油価格の現在と未来は「経済と地政学的リスク」に基づく

専門家の意見では今後の原油価格は上下を繰り返し、ここ数年来の動きと似たような傾向を示すとのコメントしている。それと同時に「原油はさらに高騰する」という意見も耳にする。経済発展が続く中国やインドではエネルギーを飽くことなく求めているし、メキシコやアメリカ、その他の原油生産国は生産が追いつかず「干からびた」状態にある。さらにベネズエラで政治カードとして原油を用いていることや、ナイジェリアでは政情不安定が続くなど、原油供給への不安が絶えない。イラク問題は続いているし、ドルは弱まりヘッジファンドは原油や他の商品に資金をスライドしている。

しかしそれらの要素は、昨年夏に原油が60ドル台まで下落した時に、すべて伝えられていた、あるいは分かっていたことにすぎない。

石油イメージ「原油価格の予測は非常に難しい。なぜなら原油価格は世界経済だけでなく地政学上における事象にも影響を受けるからだ」と、ケンブリッジエネルギー研究連絡会(Cambridge Energy Research Associates)議長のDaniel Yergin氏は述べている。氏はここ数年の間に原油価格は40ドルくらいにまで下落するかもしれないし、150ドルをつけるかもしれないと予想している。

国際石油・ガス企業のデボン社社長のJohn Richels氏も同様の意見を持っている。55ドルに下落するかもしれないし、150ドルになるかもしれない。「自分の立場としては長期間の見通しに基づいて投資をしなければならないのだが、それは非常に難しいことだ」。

このように原油価格の先行きが非常に「幅広い」結果となっているのは、原油の高価格が消費に及ぼす影響と、代用燃料の開発がどこまで進むのか見通しが立たないことにある。

太陽光発電、風力発電、バイオエタノールなどの開発が急ピッチで進められているが、それらがエネルギーの需要に貢献する割合はわずかでしかない。これらの技術は将来的には月ロケットの開発のように飛躍的な進歩を遂げることができるだろうが、まだ数年はかかるであろうことも事実。

アメリカの景気後退が原油高を止める!?

10年前にはわずか11ドル以下だった原油価格が10倍に跳ね上がったことについて、アメリカの消費性向に大きなインパクトを与えなかったことについて、ほとんどの経済学者は驚きを隠せないでいる。しかしながらここ数か月の急速な原油価格の高騰が、サブプライムローン問題や金融信用問題と相互に影響しあうことで、経済の後退(俗に言う「リセッション」)が起き、原油価格の高騰に引導を渡すという仮説については疑問を投げかけている。

その仮説とは次の通り。「リセッション」が起きれば石油需要は減少し、石油価格は下落する。なぜなら消費者は買い物にいかなくなり自動車の使用回数は減るし、会社の商品生産量は減少し、世界の貿易量の減少と共に輸送船の使用頻度も少なくなるからだ。「アメリカ経済のリセッションにより、中国からは商品、インドからはサービスをこれまでと同じペースでは買わなくなる。だから2008年は原油価格は75ドル程度で落ち着くだろう」と予測する商品ブローカーもいる。

だが同時に、アメリカ国内に台風(ハリケーン)の被害による製油量の減少やナイジェリアでの問題が長期化すれば、原油価格はさらに上昇するかもしれないとも言及している。

やはり主原因はヘッジファンドの動き

石油イメージイラクの軍事的問題は少しずつ改善されているように見え、イラクから原油は輸出されはじめている。イランとの緊張も少々は緩和した。アメリカ国内も今年は比較的暖かく、暖房のためのエネルギー消費は少なくなるかもしれないとの予想もある。ではなぜ原油価格が高騰を止めないのか。

多くの専門家は「商品投資家とヘッジファンドに原因がある」と述べている。株式や住宅市場、クレジット市場、さらには為替そのものも不安定な状態にある以上、投資家は安定した市場としての原油や他の商品取引市場に「避難」しているというのだ。さらに最近の米連邦準備理事会(FRB)による利下げが、結局アメリカにおける経済リスクが奥深いものと再認識させ、原油高を招いたと考えているアナリストもいる。

そのアナリストは同時に「サブプライムローン問題における住宅価格はすでに底値に近く、2007年のような急落を招く事態におちいるとは考えられない。従ってこれ以上資金が逃げる可能性は低いので、原油価格はこれ以上上がるより下がる確率の方が高いのではないか」ともコメントしている。

しかし残念なことに、多くの専門家はもし原油価格が下落するとしても、それはまだ時間がかかると考えている。なぜならアメリカドルの下落によって相対的に強くなった通貨を持つヨーロッパや日本の消費者が、アメリカと同じようなプレッシャーを感じていないからだというのだ。さらに、発展途上国における原油消費量の増大と、新たな原油の採掘がますます難しくなっているという現実もある。


元記事をまとめてみよう。

・原油価格を決める要素は多岐に及び、将来の予想は難しい。レンジは50ドル~150ドル。
・アメリカが原油の使いすぎを『景気後退によって』押し留め、さらに住宅や証券などの市場が安定を取り戻せば、投機資金も一極集中することはなくなる。
・投機資金が原油や商品取引に集中する要素が減れば、原油価格は漸減し安定化するかもしれない。
・しかし新興国の消費量増大、日欧の消費後退による消費量減退がまだ見えないなど、不確定要素も多い。
・原油価格の下落は、もし起きるとしてもすぐ先のことではないだろう。


アメリカの景気後退で原油価格が下落するというのは面白い話だが、前提として「景気後退で消費が減っても、各市場に健全さと信用が回復されねばならない」というのがある。いくら消費量が減って需給関係が改善されても、住宅・証券市場に投資魅力が戻らなければ、価格を引き上げている主要因ともいえる投機資金は戻ってこない。そして彼らは相変わらず原油価格の引き上げに貢献してしまう。

別の報道では「需給による純粋な原油価格は60ドル前後」という話がある。投機市場の資金配分が正常化されれば、70ドル前後で価格は落ち着くだろう。ただし、一部産油国の政情不安定問題はその国しだいであるし、インドや中国などの新興国の消費量拡大は止められない。

仮に予測どおり一時的に原油価格が下落しても、それは代替エネルギーの開発と普及、消費構造の変化を果たさねばならないタイムリミットの針を少しだけ戻すに過ぎないのかもしれない。


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