使った型紙1万3000枚! 建物一つ一つをコンピュータで計算して吹き付け絵で作るイギリスの絵師
2008年01月14日 19:00
イギリスの都市リバプール(Liverpool)がヨーロッパ全体の文化の中心になることを記念するのと共に、この都市の繁栄を永久に後世に伝えるため、リバプール国営博物館などがイギリスの著名芸術家Ben Johnson氏(60)にある作品の制作を依頼した。その作品の名は「リバプールの情景(Liverpool Cityscape)」。(参考:【DailyMail】など)
スポンサードリンク
現在Ben氏は彼のアシスタントと共にロンドンのスタジオで懸命に作品の制作に取り掛かっている。先に【くしゃみ厳禁! トランプタワー世界記録更新、その高さ7.62メートル】で紹介した「トランプの建物を作る工程をお客に見せるビジネス」をしている人と同じように、Ben氏もまた1月28日から3月7日の期間は、国際的に有名なウォーカー美術館(the Walker Art Gallery)で公開作業を行なう予定。絵そのものは5月には完成し、5月24日から11月2日まで同美術館で公開。そしてその後はBen氏の他の作品(シカゴやパリ、エルサレム、チューリッヒ、香港などの絵)と共に保存されるという。
ほぼ完成した「The Anglican Cathedral」部分
彼の絵の特徴は単なる「一枚画」ではなく、それぞれの建物を独立した描写対象としてとらえ、それらをつなぎ合わせ(貼り合わせ)るような描き方で一枚の風景画を作り出す手法を用いているところにある。今回作成される「リバプールの情景」はサイズが488×244センチのキャンパス上に「描かれる」が、それぞれの建物はコンピュータで計算され作成される。そして別個の「型紙」が作られ、吹き付けをされてキャンパス上に描かれていく。
具体的な工程は次の通り。Ben氏は作成にあたり、最良の「情景」ポイントを見つけ、その上でそこから見える都市の風景について自分で研究をするだけでなく地元の専門家とも意見を交換し、3000枚もの写真と多数の図面を引いて構想を練った。構想がまとまると今度は各対象の建物に対してスケッチや写真だけでなくその建物の図面やガイドブックを調べ、さらには現地調査を行なった、果ては「絵を描き始める時には建築途中の建物についてはその建物の完成予想図について関係者と相談」したという。
それらの調査データを元に、それぞれの建物を一つ一つコンピュータで再現して描き、サイズの調整が施され、コンピュータ上でプラスチックスによる「型紙」が作られる。建物の複雑さによって1時間から48時間までの時間がかかるという。そしてその「型紙」を用いて、道路上や車に文字を描く際に使われるような手法で「吹きつけ」が行なわれ、絵が描かれる。
一つの建物にこれだけの「吹き付け用型紙」が用いられる
キャンパスに吹き付けを行なう様子。型紙を対象部分に設置し、周囲に色がとばないよう、ていねいにマスキングが行なわれる
今のところBen氏が「リバプールの情景」には、12800枚もの「型紙」が用いられ(木々などの風景用の型紙は別計算、1つの建物には25枚前後を使用)、670種類もの色が用いられた。制作期間はすでに3年を経過している。荘厳な建造物として知られているThe Anglican CathedralとLiver Buildingにはそれぞれ300枚もの型紙が用いられたという。また、絵には一切人物が描かれていないが「見た人一人一人がその情景内に足を踏み入れたい気分になるために、『人たちの来訪を待っている』かのような情景とするためにあえて人を省いた」とBen氏は説明している。
現在製作中の建物
製作途中ではあるが、中世ヨーロッパの壁画のような雰囲気すら感じられる。リアリティを体感できるのは単に計算づくなだけでなく、作業の緻密さも作用しているのだろう。もちろん(今の時点での同市の情景を「精密に」描いているという点で)歴史的価値も高いに違いない。
作業工程を公開することについてBen氏は語る。
「私のお気に入りの部分を作る様子は、リバプール市民自身が見ることができるようにするんだ」
と。
【Ben Johnson氏の公式サイト】には今回の「リバプールの情景」を制作している様子が多数掲載されている。それを見ると単に絵を描くという工程を越えた、「絵を創作する、創り上げる」という言葉の方がマッチするような作業であることが分かる。
「写真を撮ってそれをフォトシップで加工すれば」という考え方をする人もいるかもしれないが、それではあまりにも味気ない。コンピュータなどの助けを借りているとはいえ、人の手によって作られたものでしか得られない味わいと迫力、そして作り手の魂が、この絵には宿るのだろう。
スポンサードリンク
ツイート