産油国が「石油輸入国」になる日

2007年12月11日 12:00

原油イメージ先に【石油の世界地図】でも触れたように、ぼう大な原油生産を誇りながらアメリカはさらに多くの石油を輸入し、国内の産業に充てている。中国もかつては資源輸出国だったが、急速な経済発展と人口爆発で、今やエネルギーをはじめとする資源の輸入国になりつつある。そのような「輸出国から輸入国への転換」が、原油の高騰によって促進されてしまうのではないかという指摘が【NewYorkTimes】に掲載されていた。

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原文では冒頭から次のように警告している。いわく

「原油の高騰で多くの現金(オイルマネー)を得た国家たちは、その資金を元手に急速な成長を遂げている。しかし経済成長は同時にエネルギー消費量の増大をも意味する。原油価格の高止まりとそれに基づいた産油国の経済成長が今後も続くなら、この10年のうちに彼ら産油国は「原油輸出国」から「原油輸入国」に変わらざるを得なくなるかもしれない」


というのだ。

高騰する原油価格、富める産油国

石油イメージ原油価格は高騰を続けている。その一因は消費量の増大にある。しかし消費量増加分にしても、原油全体の量と比べれば微々たるものなので、すぐに原油不足に結びつくわけではない。現在の原油にしても、需給による価格形成は6割程度。残り4割は投機目的によるものという話もある(NHKより。つまり原油100ドルなら、本来は60ドルくらいで残りの40ドルはヘッジファンドなどの投機筋や年金がつり上げている計算)。むしろ問題なのは市場による投機筋にコントロールされる価格状況。

サブプライムローンなどで証券市場がエラいことになり投資の旨みが無くなったと判断したファンドマネーが、商品先物に我先にと飛びつき、さらに「原油が足りなくなる」という危機感が価格高騰をあおる。原油の量は有限であるし消費量も増えているから「足りなくなる」という言葉がウソではないだけに始末が悪い。

もちろん価格の一部がファンドによるつり上げだろうと何だろうと、原油を売る側には「売上」であることに違いはない。原油価格が上がれば同じ輸出量でも利益が増える。【『シムシティ』なドバイの海上住宅街】にもあるように、有り余るキャッシュが国を富ませていく。お腹がいっぱいになればとりあえず人は満足し、政治的にも安定した国家が営まれる(【石油価格の高騰で変化する各国のパワーバランス】)。

産油国の国内では原油消費が増えている

原油高騰と収益の拡大を起因とする経済発展の結果、文頭のアメリカや中国だけでなく、インドネシアでも3年前にこの「産油国・輸出国から輸入国へ」の転換が起きている。さらにこの5年以内に、アメリカへの原油輸出量2番目を誇るメキシコ、世界で4番目の生産量を誇るイランですらこの転換が起きうると元記事では指摘。具体的な表も掲載されていた。

■国内石油消費量の変化(2005年~06年)

・世界全体平均……+1.2%
・先進諸国平均……-0.8%
・アメリカ合衆国……-0.6%

(5大原油輸出国)
・サウジアラビア……+7.0%
・ロシア……+5.8%
・ノルウェー……+6.3%
・イラン……+5.7%
・UAE……+2.4%


2005年から2006年における石油(原油)の消費量の変化を見ても、原油価格高騰で資金を得た産油・輸出国が生活レベルを上げ、結果として消費量が増加したことがうかがえる。もちろん産油国は国内外の需要量の増大に従い増産もするだろう。しかしそれ以上に産油国内の消費量が増大する可能性が高い。

原油価格の高騰に支えられた経済発展が産油国の原油消費量を急増させる

このままの経済加速度では、ロシアやメキシコ、OPECなどの「内需による消費量の増加」で、250万バレル/日ほどの輸入が抑えられる可能性がある。ちなみに250万バレルとは先の「世界の石油地図」によれば、ドイツの消費量とほぼ同じ、日本の約半分に相当する。

これは元々産油国の国内において、原油から精製される商品(ガソリン)などを国内経済発展のためにきわめて安価に提供していることが一因。たとえばガソリンはサウジアラビアやイラン、イラクでは1ガロン当たり30~50セント、ベネズエラでは7セントで供給されている。

7セントといえば日本円で8円。ちなみに1ガロンとは3.8リットルである。日本のミネラルウォーターより安い。1ガロン=3.8リットルを日本の平均レート・1リットル155円で計算すると589円、実に約74倍。通貨価値や生活水準の違いはあれど、ドライバーには夢のような世界。

このような状況についてある【調査機関(CIBC World Markets)】では次のように分析・警告している。

・産油国におけるガソリンなどの安価供給は産業発展を促進させるものの、油の浪費癖(くせ)を国民に浸透させてしまう(。経済が発展したあとでそのクセが残っているととりかえしのつかないことになる)。
・今後20年間は、中国とインドが石油の消費量を大幅に増やしていくだろう。
・サウジアラビアやクウェート、リビアなど多くの産油・輸出国が今後10年で国内消費量を倍増するだろう。
・アラブ首長国連邦やクウェートなど、一人当たりの国内原油消費量でアメリカ合衆国を抜いた国も存在している。
・産油国の大部分は(先の説明にもあるように)ガソリン価格が安い。自動車の普及も急速に進んでいる(急速なモータリゼーション化)。
・イランやアルジェリア、マレーシアは次の10年で「原油輸入国に転換」する。5年内にメキシコも必ずやそうなるだろう。
・メキシコでは10年間で自動車所有量が2倍に増えた。ガソリン消費は年間5%上昇。


もっとも現状では、産油・原油輸出国のほとんどは危機感というものを持っていないようだ。原油高騰による経済発展で常世を楽しんでいる状況。元記事で新車を購入したメキシコのある家庭の人のコメントが印象的だった。「地球温暖化や世界的な石油不足など知ったこっちゃない。(自動車を手に入れることが出来た今は)ガソリン価格が上がるかどうかだけが心配なんだ」。

石油不足は避けられないのか

サウジアラビアイメージ今、多くの産油・原油輸出国で起きているのは「原油高騰→資金流入→経済発展→国内近代化→エネルギー消費量急増化→原油生産量<原油消費量への転換→原油輸出国から輸入国へ」のプロセスにおける「経済発展→国内近代化」の部分。

現代科学技術がエネルギー消費を前提に発展している以上、経済が発展して近代化が果たされれば、消費エネルギーが増えるのは当然。そしてそのエネルギーをまかなうのが化石燃料のガソリンや重油である以上、原油の消費が増えるのは仕方がない。しかもそれを後押ししているのが、原油不足による原油価格高騰なのだから、誰にもその連鎖の輪を止めることなどできない。

ただし原油が高騰したままで価格が維持され、さらに本来原油を輸出していた国が輸入に代わるようになれば、原油生産に関する「改革」が求められるかもしれない。今まで放置されてきた「原油がありそうな場所」への採掘や、技術・コストの問題で後回しにされてきたタールサンドなどにも注目が集まることだろう。さらに年代が経過すれば、原油の採掘・精製技術も進歩し、より効率的に石油製品(ガソリンや重油、灯油など)を作れるに違いない。

また、今は別の問題を引き起こしているバイオエタノールなどに代表される、原油の代替燃料の開発も推し進められる。そのほかに、エネルギーの消費を抑える工夫や技術に注目が集まると共に、化石燃料以外のエネルギー(太陽電池や地熱など)の促進も行なわれる。

それでも産油国の経済発展と、消費の急増は止まらない。多くの産油・原油輸出国が経済を富ませ、消費量を増やし、原油の輸入国になった時、足りない分はどこから調達すればよいのだろうか。そのような状況に陥るまでに、利用エネルギーそのものの転換は可能だろうか。それができなければ、消費量を減らすしか手は無い。

臨界点を超える日はそう遠い未来の話ではないのかもしれない。

(最終更新:2013/08/18)

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