「1か月で元が取れます!」 シリコン不要の太陽電池、薄型パネルで99セント/ワットで登場
2007年12月24日 12:00
太陽電池開発のベンチャー企業である、アメリカ・カリフォルニア州サンノゼに拠点を置く【Nanosolar】は12月18日、銅とインジウムなどを使用しシリコンを使わない薄膜太陽電池の商品化に成功、実際に出荷を開始したと発表した(【発表リリース「Nanosolar Ships First Panels」】)。
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リリースによればこの薄膜太陽電池にはツールの開発や各種試験、工場建設も含めて5年の開発期間がかかった。そして12月18日にドイツの発電所に対して初めての商品を出荷し、対価を受け取ったという。出荷先の発電所の詳細は【このリリースに記載されている】が、ドイツの太陽発電システムのメーカー Beck Energy社と共に、東ドイツにある発電所に太陽電池を供給。初期設置の発電量は1メガワットで、これは400世帯の住宅向け電力に相当するという。
ドイツの発電所に供給されたNanosolar社の太陽電池(リリースから)
NanosolarのCEOであるMartin Roscheisen氏によれば、今回ドイツの発電所に提供した太陽電池は、試験利用ではなく商業ベースとしては世界初となるプリント技術による薄膜太陽電池であり、自然環境に優しい発電手法として今後普及するだろうと述べている。
この商用化された薄膜太陽電池についてのセールスポイントは次の通り。
・商業ベースでは世界初のプリント技術による薄膜太陽電池。
・安価で量産が効く。
・世界でもっとも安価な太陽電池となる。1ワットあたり99セント(110円)ベースで販売しても自社に利益が出ると試算している。
・これまでの薄膜太陽電池の5倍もの通電量を誇る。
・デザイン的にも最適化されておりコスト面からも設置するに相応しいシステム。
太陽電池はその名の通り「太陽に照らされていないと発電できない」「太陽光を受ける広い面積が必要」というウィークポイントはあるが、メンテナンス費用も安価で済み、一度生産してしまえば何らかの原材料を消費することなく電力を生み出せるというメリットを持つ。
問題なのはその生産コスト。技術革新により電力変換率は高まっているものの、太陽電池そのものの需要増加や同じ原材料であるシリコンを用いるICチップの需要増大が続く中で、慢性的なシリコン不足による価格上昇は否めないのが現状。例えば【三洋電機(6764)】は12月5日に開発センターの設置を発表、この研究所で薄膜型太陽電池の開発・量産に乗り出し、現在は1ワットあたり250円ほどのコストを150円までに引き下げたいとしている(【参考:Fuji Sankei Business-i】)。
量産が始まったばかりで宣伝効果も兼ねた価格とはいえ、Nanosolar社の「99セント/ワット」というのはあまりにも安く、ライバルの太陽電池開発会社からすれば驚異的な数字でもある(同社のリリースによれば、通常の太陽電池のコストなら1.7年から3年かかるが、このコストなら1か月で「元が取れる」とのこと)。
量産が始まった薄膜型太陽電池にあごを乗せるMartin Roscheisen氏
薄型プリント形式なので折り曲げることも可能
ちなみに初期量産ロットの第一号機は上記にあるようにドイツの発電所に納入されたが、第三号機は会社のあるサンノゼの技術博物館に寄贈された。そして第二号機は記念ということもありebayに出品。99セントが開始価格だったものの、27日の締め切り前の21日にはすでに1万3000ドル以上に達していた。しかしebayからオークションに関する規約に抵触するとして(どうやらeBay担当者がチャリティに関する部分で誤読したらしい)、出品そのものを取り消されてしまった(【発表リリース】)。Nanosolar社では「誤解だ」としてeBayに電話で問い合わせたが、これ以上論議しても無駄だと判断。結局eBayにかけられた第二号機はNanosolar社内に残ることになったという。
少々ケチがついた形になってしまった感のある初期量産ロットだが、低価格で量産が効く太陽電池のライン構築に成功したのは賞賛に値する。世界中、特にヨーロッパで需要が急増している太陽電池のニーズの多くに応えるまでの増産はさすがに無理だが、今後確実に同社の薄膜型太陽電池は市場、あるいは発電所をはじめとする需要に応える形で普及するだろう。そしてそれと共に、太陽電池開発競争にも一層拍車がかかり、技術革新と低コスト化、そして普及が進むに違いない。
単に安価の太陽電池を市場に供給したというだけでなく、太陽電池開発の現場に刺激を与えたという観点でも、Nanosolar社の商業ベースでの生産開始には注目したいところだ。
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