石油価格の高騰で変化する各国のパワーバランス
2007年11月08日 19:35
投機筋の介入などが原因で価格の上昇は留まるところを知らず、【ガソリン高騰物語「300円以上でも運転止めない」65.2%】では取り上げなかったが「ガソリン価格が安い、と思っている人は誰もいない」という結果が出るような状況の、高騰を続ける原油相場。先に【石油の世界地図】で世界地図をピックアップした元記事では「原油価格の高騰が世界中で新しい勝者と敗者を生み出している」と言及している。
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原油価格の高騰が「勝者と敗者」、日本風にいえば新たな「格差」を生み出していることについて、元記事では次のように事例を挙げている。
・中国南部では燃料不足と高価格の影響で、あるトラック運転手が1時間半も待ったのに燃料を25ガロンしか給油してもらえなかった。
・ロシアが2014年の冬季オリンピックのホストの座を獲得した背景には、対象地域を120億ドルかけて整備すると約束したことが一因にある(ロシアはほんの10年ほど前は破産寸前だった)。
などなど。原油価格が100ドル/バレルを超え、未知なる「3桁の世界」に突入することは、新しいパワーバランスを生み出す可能性があると元記事では指摘している。
●中国やインド、人口増加と経済発展を支えるのは「石油」
すなわち「石油資源を豊富に持つ国は、その幸運に恵まれた地の利によって、新たな力を得る機会を与えられた」のだという。一方で人口が爆発的に増加している中国やインドの経済発展は、他の近代国家同様に「石油」によって支えられているという構造がある。
人口増加と経済発展に伴う石油のニーズの増加。このニーズに応えるため「石油を必要とする国」、とりわけ中国とインドはあらゆる手を使って確保しようと躍起。いわく「石油そのものには顔はない。どんな政府と取引をしても、石油が確保できるのならそれでよい」という考え方だ。
中国以上に「原油高の影響を受けているのはインドである」と主張する専門家もいる。インドでは中国の1/3ほどの石油を消費するが、輸入量はその7割。しかも戦略備蓄がほとんどない。中国以外のどの国よりも急速に経済が発展しているインドにおいて、これは危機的状況でもあるとしている。
石油価格高騰で家計に大きな影響が出ないよう、インド政府では毎年120億ドルもの補助金を中流家庭の灯油などに与えている。しかしおおもとの原油価格の高騰でこの負担も年々大きくなってくる。原油価格が100ドルを超せば、補助金だけでは抑え切れなくなった価格上昇により、一般家庭の家計も苦しくなるはず。
●「原油を持つ」発展途上国の一例
発展途上国においては、「原油」が国家を変革しうる有益な「武器」足りえる。原油がそのまま現金に換わり、それは多彩な手段に化けるからだ。
例えばベネズエラでは原油の売上を用いてインフラ整備を進めている。医療と教育を無償化し、食品価格を引き下げ、経済成長を果たしている(ただし格付け会社からは資金の運用・利用方法について不明瞭な点が多いという指摘もある)。
同じように原油が豊富なアンゴラでは、原油の売上で国全体としては3年前の250%もの売上を得ている。首都ルアンダのホテルは数か月前から予約で一杯。高級車の売行きは好調、経済成長は著しい。4000キロメートルもの道路を再建し、4つの空港を作りなおし、700キロメートルもの鉄道を敷設した。しかしその一方で、2/3の国民が一日2ドル以下で生活しているという。
アンゴラ人の多くは「原油高で儲けたのは公務員だけだ」と主張する。実際、2003年にルアンダの新聞が発表した「アンゴラでもっともお金持ちな20人」のうち12人が役人で、5人が元役人だった。最近になって中国がアンゴラとの間に原油輸出に関する協定を結ぶ代わりに120億ドルの国家再建資金を貸与したことで、ますますアンゴラの貧富の差は激しくなりつつある。
●産油国ではないが恩恵を受けている国、ドイツ
石油高騰で経済的な負担を受けている国もあるし(例えば日本)、輸入業者は痛い目にあっている。しかし石油を産出していなくとも石油高騰で思わぬ恩恵を受けた国もある。たとえばドイツ。
ドイツでは日本同様に使う原油のほとんどを輸入するが、原油高騰の影響で経済が発展したロシアと中東との貿易を活性化したことにより、大きな経済成長をとげた。例えば2001年から2006年の間に、ドイツはアメリカへの輸出を15%成長させたのに対し、ロシアに対しては128%も成長している。
またヨーロッパ全体ではユーロそのものの価値が上昇しているため、結果として原油高をヘッジする形となり、他の地域と比べると原油価格の高騰による痛手は大きくないという。
●原油高が生み出す「歴史的治世者」
最後に記事では、ロシアのプーチン大統領がこの原油高を背景に、大統領の座を辞したあとでも首相として政治的影響力を維持するかもしれないと伝えている。プーチン大統領は最近次のように語っているという。
いわく「ロシア人民は皆、7~8年前に祖国がどんな経済状態だったのかを決して忘れてはならない、と(We all remember what state the country was in seven, eight years ago.)」。つまり自分の政治手腕によってロシアはここまで復興を遂げたのだから、ロシアの繁栄に自分は欠かせない存在だ(だから大統領から引退したあとも「お目付け役」として欠かせない存在である)ということらしい。
ちなみに8年前、原油価格は16ドル/バレルだった。
先の記事でも触れたが、「原油(1バレルあたり)100ドル」を予想した先物取引のカリスマ、ジム・ロジャーズ氏や国際エネルギー機関(IEA)は「2030年までに150ドル超もありうる」と言及している。また参照記事にもあるように、一部の国の経済発展や投資ファンドの投資対象が原油高にある以上、本来の需要と供給のバランス以上に高騰している現在の状況は、今しばらく続くものと思われる。
多くの庶民が「とばっちり」を受けるのは、いつの世でも変わらないようだ。残念ながらこれだけは不滅の真理といえるだろう。
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