9月の新設住宅戸数、前年同月比44.0%減・過去最大の下落率
2007年11月01日 08:00
国土交通省は10月31日、2007年9月における新設住宅戸数のデータを発表した。それによると9月の新設住宅戸数は前年の同月比で44.0%減の6万3018戸に留まり、過去最大の下落率となった。また先月まで過去最大の下落率だった8月分と比較してもさらに0.7ポイントの下落率となる。この下落について国土交通省では先月発表同様に「主として改正建築基準法の施行(6月20日)の影響」と説明している(【発表リリース、PDF】)。
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具体的な内訳は持家が21.6%、貸家は51.3%、分譲住宅は55.6%の減少。とりわけ分譲住宅のうちマンションは74.8%もの減少となった。
改正建築基準法の施行は、くだんの「姉歯建設設計事務所による耐震強度偽装事件」をきっかけに全国で多数発覚した耐震偽装の再発を防ぐためのもの。住宅を着工するのに必要な建築確認の審査を厳しくして審査期間も延長。さらに検査機関以外に専門家も確認するなど、複数のプロセスを経るようにした。
事件を教訓として安全な住宅を市民に提供するという志は立派であるし、業界そのものの改善にはプラスとなることは間違いない。だが、主に行政側の準備不足(特に「大臣認定プログラム」や審査担当者絶対数の不足)が目立ち今回の混乱、そして結果としての新設住宅戸数の減少をもたらしているのもまた事実。
新設住宅戸数の変遷(2007年9月分まで)
グラフを見る限り、激減した8月分からほぼ横ばいに推移しており、ある意味「底を打った」とも受け止められる。その判断が正しいかどうかは来月発表以降の数字を待つしかないだろう。
また、着工床面積概要も同様の下落を示しているが、特に非住居用、とりわけ工場の減少率が前年同月比74.9%のマイナスと下落率が突出しているのが気になる。製造業において生産ラインや企業・雇用創造の機会が減っていることを暗示している可能性がある。
「改正建築基準法」の施行
→制度そのものはともかく
事前準備と告知がダメダメ
→(1)建築業界内で対応に苦慮
(2)行政も対応力不足
→申請が通らず新築戸数が激減
国土交通省では同日、住宅着工に一か月ほど先行するといわれている建築確認件数も発表している(【発表リリース】)。これによると全体では5月が前年同月比で6.5%マイナスだったのに対し6月は9.7%、7月に入ると大きく下がり39.4%、8月には24.5%そして9月には27.5%それぞれマイナスを記録している(先月発表分と多少の差異が生じている)。このデータを見ても、今しばらくは新規住宅の建設は冷え込むことが容易に想像できる。
国土交通省から今回発表されたデータは、先月同様改正建築基準法施行の影響の大きさを改めて知るものとして注目されている。特に国土交通省の事前準備の不備への指摘が多い。国土交通省側でも重い腰を上げる形で【改正建築基準法、運用面で一部緩和へ】にあるように運用面で対応を図ろうとしているが、相変わらず「大臣認定ソフト」の開発は遅延したままであるし、他の対策もままならない状態。
【9月度のチェーンストアの売上高、前年同月比-1.0%】や【改正建築基準法で影響を受ける周辺業界たち】でも触れたように、建設業そのものだけでなく周辺業界への影響も深刻化している。例えば今回の発表と同じ日に業績予想修正(下方修正)の発表をした給湯器メーカー【ノーリツ(5943)】も、リリースの中で
(1)6月の建築基準法改正による新設住宅着工数の大幅な減少の影響もあり、7月以降、国内温水機器の需要が予想以上に落ち込み、今後もこの傾向が継続すると見込まれること
(2)需要の減少、競争激化の影響を受けシステムバス、システムキッチンの高機能商品の伸び悩みが継続すると
見込まれること
とし(【発表リリース、PDF】)、業績悪化の一因が今回の改正建築基準法にあると説明している。
先月の記事から繰り返しになるが、建築基準の厳密化とそれによる「一層安全な住宅の提供」が実現するのなら、これほど(特に家に住まう住民にとって)素晴らしいことはない。しかしその体制に移行するための手際が悪すぎて、結果として住宅・建物価格が想定以上に高騰したり、建築業界を支える中小の設計事務所や建築士、さらには周辺業界の人たちがお手上げ状態や業績悪化、廃業に追い込まれるのでは本末転倒。病んでいる患者にいきなり劇薬を与えては身体がもたないのと同じなのかもしれない。
良い部分は残しつつ、現状にあった、柔軟な、そして厳粛な対応を関係各庁には求めたい。対応が遅れればアメリカの住宅ローン「サブプライムローン」同様、日本でも「改正建築基準法施行」をきっかけとした、景気の減退が起きる可能性もないとはいいきれないのだから。
(最終更新:2013/08/18)
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