「証券税制優遇措置撤廃決定なら手持ち株式売却」6割に達する
2007年11月09日 06:30
【野村證券(8604)】の金融経済研究所は11月5日、個人投資家の投資動向に関するアンケート調査とその結果の分析報告レポートを発表した(【ノムラ個人投資家サーベイ・2007年11月発表分、PDF】)。そのレポートによると証券税制優遇措置が撤廃された場合、6割の人が手持ち株式の売却を検討すると回答していることが明らかになった。
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今調査は1000件を対象に10月23日に行われたもので、男女比は65.7対34.3。年齢層は40歳代がもっとも多く31.7%、ついで30歳代が27.9%、50歳代が18.9%。金融資産額は1000万円~3000万円がもっとも多く25.1%、ついで200万円未満が19.8%、200万円~500万円が18.6%と続いている。
1銘柄あたりの保有期間は1年から2年未満がもっとも多く22.3%を占めている。次いで2年から5年未満が21.4%、5年以上が16.4%。投資に対し重要視する点は、安定した利益成長がもっとも多く48.6%と約半分を占めている。ついで配当や株主優待が23.0%となっており、テクニカルや値動き、高い利益成長といった項目より安定感を求めているのはこれまでと変わらない。
「証券税制優遇措置」とは株価低迷を是正するために2003年に導入されたもので、従来20%である株式の譲渡益・配当益税率が10%に半減されているというもの。現状では譲渡益は2008年末、配当は2008年度末に廃止が決定している。
今件については自民党税制調査会や金融庁など証券各団体が存続・あるいはさらなる優遇措置への展開を支持している一方、公明党や政府税制調査会などは反対の意向を示している。一方野党民主党内部では「投資をしている人はお金持ちだから格差社会の象徴で打破すべき対象である」との意向からか【民主党、「株式売却益課税を30%へ」との考え】にもあるように、通常税制に戻すどころか増税すらしかねない雰囲気もある。
今回の調査では「証券税制優遇措置」に関する項目も問われている。もし廃止が決まったらどうするのか、という問いには、4割が「廃止前に一部・全部を売却」、2割強が「相場次第では一部・全部を売却」と答えている。
■証券税制優遇措置廃止決定の際に想定される投資行動
・評価損益や相場環境とは無関係に、廃止前に手持ち株式の一部、あるいは全部を売却……6.2%(8.9%)
・評価損益次第では廃止前に手持ち株式の一部、あるいは全部を売却……31.9%(27.3%)
・相場環境次第では廃止前に手持ち株式の一部、あるいは全部を売却……22.3%(20.8%)
・これまで通り投資を続ける……39.6%(43.0%)
※()内は2006年12月調査時のデータ
「無条件で売却」がわずかに減ったものの、「状況次第で売却」と回答した人が大幅に増え、損益・相場環境をあわせると54.2%の人が売却を考えている。これと無条件派をあわせると60.4%の人が「証券税制優遇措置が廃止されれば手持ち株式の一部、あるいは全部を売却する」と答えていることになる。
それでは証券税制優遇措置そのものについて、個人投資家はどのように考えているのか。やはり立場上「廃止すべきではない」と答えた人が多く、複数の理由を合わせて6割以上が存続を求めている。
■証券税制優遇措置に対する考え
・リスク資産への投資に対する税制上の優遇は必要。廃止すべきではない……31.6%(29.8%)
・株式市場は十分に回復しているわけではない。廃止派時期尚早……31.2%(28.6%)
・株価水準も上がり役目は果たした。廃止しても良い……2.8%(4.1%)
・優遇措置は富裕層が主に恩恵を受ける。廃止しても良い……8.4%(-)
・廃止は止むを得ないが税率の段階的引き上げなど緩和施策を……8.1%(13.2%)
・長期保有の譲渡益や配当金に対する優遇税制など新しい税制を策定すべき……9.9%(11.8%)
・金融一体課税や損益通算制度を早期導入すべき……6.6%(9.1%)
・その他……1.4%(3.4%)
※()内は2006年12月調査時のデータ
サブプライムローン問題をきっかけに生じている金融市場における信用不信問題や相場全体への不安定感を反映してか、「今廃止が決まれば、確実に市場展開にはマイナスに作用する」という意識が強いようだ。代替案派ですら減少し、反対派の意見が前回よりも増えているのがわかる。
ちなみに「金持ち優遇措置だ」という意見が一部勢力から出たせいか、今回新たに「優遇措置は富裕層が主に恩恵を受ける。廃止しても良い」という選択肢が加わっている。しかし今件については金融庁が【「証券税制優遇措置は金持ち優遇税制」に異論、金融庁資料から】【日本は譲渡益・配当益課税共に高い水準……国際競争力維持・強化のための「証券税制優遇措置継続」案】と具体的なデータを提示して反論している。政争のための政治手法的な主張の色合いが濃いので注意が必要。
今回の調査ではアンケート対象データを見ればお分かりの通り、比較的中長期の投資を心がけている「真の投資家」が中心に答えている。市場はもちろん企業にとっても「大切な株主」である彼らの6割が「証券税制優遇措置が廃止されれば株式を売却するかもしれない」という答えを出していることが、市場そのものと企業の施政にどのような影響を及ぼすのか、考え直す必要があるだろう。
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