証券税制優遇措置撤廃で「5年間でGDP25.2兆円減少」「失業者34.5万人増加」など試算

2007年11月21日 06:30

株式イメージ【大和証券(8601)】の研究調査部門的立場を担う大和総研は11月20日、証券税制優遇措置撤廃で生じる経済的損失などの試算を発表した。それによると撤廃後5年間で実質GDPを25.2兆円引き下げ、就業者人口を34.5万人失わせ、6年後には平均賃金を1.0%引き下げるなど、経済に大きなマイナス影響を与えうることが明らかになった(【発表リリース】)。

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「証券税制優遇措置」とは株価低迷を是正するために2003年に導入されたもので、従来20%である株式の譲渡益・配当益税率が10%に半減されているというもの。現状では譲渡益は2008年末、配当は2008年度末に廃止が決定している。現在アメリカのサブプライムローンなどに端を発する金融信用不安で株価が不安定な状況にあるため、市場に影響を与える可能性を考慮し、再延長・恒久化を求める声が高まっている。

大和総研が発表した試算によれば、証券税制優遇措置を撤廃することによる経済的損失の概要は次の通りとなる。

■実質GDP(国内総生産、Gross Domestic Product)引き下げ:5年間で25兆2409億円分
・民間最終消費……14兆4042億円のマイナス
・民間設備投資……13兆6433億円のマイナス
■雇用者報酬引き下げ:5年間で7兆4617億円分
■就業者数:5年間で34万4700人マイナス


証券税制優遇措置撤廃による実質GDPの減少試算グラフ
証券税制優遇措置撤廃による実質GDPの減少試算グラフ

詳細は元レポートを参照してほしいが、いずれも初年度より2年度、2年度より3年度というように、年を経るごとにじわじわとそのマイナス効果が効いてくる状況。例えば実質GDPの場合初年度は1兆1239億円のマイナスで済むが、5年目には単年度で7兆8373億円のマイナスという試算が出ている。

今試算には各種前提となる条件がある。国税庁統計から税負担軽減額を見積もり、それが税制撤廃後は増税分に値すると仮定。さらに別試算から株式価格の採算点が10%低下するため、TOPIXの下落10%を想定。それらのパラメータを元に、中期予測モデルによる波及効果を含めたシミュレーションを行なったとのこと。

参考資料では他にも「現行の10%でも優遇措置ではない(配当や譲渡益はそもそも二重課税:法人税+所得税)」「貯蓄から投資への掛け声は高まるばかりだが、金融資産の誘導必要性はまだまだ必要」などのデータがつづられている。

「証券税制優遇措置は金持ち優遇だから廃止して当然」というデマゴーグ的な主張に対してはすでに金融庁が各種データを持ち出して具体的に「その主張は事実ではない」という反論を提示している(【「証券税制優遇措置は金持ち優遇税制」に異論、金融庁資料から】)。また、国際的観点から見ても、優遇措置を採られている現在ですら、国際的な水準の中では「税金は割高」な部類に入ることも具体例を挙げて証明されている(【日本は譲渡益・配当益課税共に高い水準……国際競争力維持・強化のための「証券税制優遇措置継続」案】)。

証券税制優遇措置を(半ば政治スローガン的に利用して)撤廃しようとしている政派の中には【「証券優遇税制廃止してれば7800億円超の税収増」にダウト!?】にあるように、総務省・財務省が仮に概算した「実際には使い物にならない」計算値を元に「証券税制優遇措置を撤廃すればこれだけ税収増になりますよ」と主張しているところもある。

データの提示側が「当てにならない」と語るデータを土台に「税収増になるから撤廃すべきだ」と主張するのなら、専門の調査機関が試算した今回のシミュレーション結果「5年間でGDP25.2兆円減少」「失業者34.5万人増加」や【「証券税制優遇措置撤廃決定なら手持ち株式売却」6割に達する】にはどのような姿勢を見せるのか。人気稼ぎのために感情論をあおって無茶な政策を通し、経済を傾けさせるような政治手法はかんべん願いたいものである、と考えるのは投資家共通の想いであろう。


(最終更新:2013/08/18)

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