「サブプライムローン」という名の亡霊を退治する10の提言-(上)

2007年11月17日 19:30

株式イメージ今年に入ってから金融市場を覆い包む謎の亡霊「サブプライムローン」。その全貌は未だに明らかになっておらず、いつその影響が関連企業に発生するのか(明らかになるのか)頭を抱えて震えながら毎日を過ごす投資家も多い。当然金融市場全体への信頼感もゆらぎ、購入意欲も減退し、市場は軟調のまま推移する。そしてその亡霊が少しでも実体化すると、その影響力の大きさに多くの企業や投資家ががく然とする。そんな状況が続いている。海外の経済紙【Forbes】において、その「亡霊」を退治する方法を専門家が提案していた。いわく「【絵で見るサブプライムローン問題を解決する10の提言(In Pictures: Ways to Solve the Housing Crisis)】」である。

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「サブプライムローン問題」とは

すでに【サブプライムローン問題、「予想・防止共に可能だった」米紙論評】で紹介し、多くのメディアでも説明されているのですでに多くの人がご存知だろうと思うが、「サブプライムローン」について簡単におさらいしておくと次のようにまとめられる。

■[序章]
・「サブプライムローン」とはそもそも信用担保力の低い人たち(主に低所得者)に対して行なわれた住宅ローン。信用力が低いため一般のローンと比べると金利が高く、さらに2年後から金利が急上昇するのが特徴。
・金利やローンに関してあまり知識のない人に対しても、業者がどんどん貸付を行い、住宅を買わせていった(英語読解力の無い人に英語の説明書を提示して契約させた事例もあるという(NHKの特集より))。
・サブプライムローンが普及した当時は不動産ブームで住宅の価格が急上昇していたため、「ローンで住宅を買ってもその住宅の担保能力がどんどん上がった」。そして買った当初の担保力と現在の(住宅価格が上がった)担保力の差額をさらにローンとして借り入れることができた。いわば手持ちの資産が増えたように見え、自分の収入が増えたように錯覚してしまった。
・ローン会社はサブプライムローンの債権、つまりこの層からお金を徴収できる権利を担保に銀行から借入を行い、さらに事業を拡大(新たな顧客への貸付)を行なう。
・銀行はこの債権を証券として組み込み、高利回りの有価証券として販売した(CDO:Collateralized Debt Obligationなどがよい例)。

住宅地イメージ■[破たんへのきっかけ]
・住宅需要の行き詰まり。土地や住宅購入者は有限。無限に買う人がいるわけではない。当然のことながら住宅や土地へのニーズは低くなり、住宅の価格上昇は止まり、下落を始める。
・サブプライムローン層において「住宅担保の上昇と当初の担保の差額のローン化」により借入が出来なくなる。
・「2年後の金利急上昇」に伴い、支払額が増える。しかし元々信用担保力の少ない人たちにおいて、短期間で収入が激増するはずも無く、支払限度額を超えた負担がのしかかる。

■[現在]
・「サブプライムローン」層には「上昇担保差額による借入」が出来るはずもなく手取りも増えるわけでもなく、急増するローン負担をまかなえず、住宅を手放すしか手立てが無くなる(つまり債権放棄)。しかし住宅価格は下落しており、運良く売れたとしても借金をまかなえることは難しい。
・ただでさえ住宅市場が飽和状態にあるのに加え、「サブプライムローン」層から放出された中古住宅が増加。ますます値が下がり、それがさらにローン借り入れ層の負担を増やすという悪循環。
・債権放棄され、担保としての住宅を手にした債権保有者も、住宅市場が暴落しているので額面上の担保を手に入れることは難しく、損をすることになる。例えば業者が担保設定時に10万ドル分のローンと引き換えに「10万ドルの住宅」の債権を手にしていても、市場の低迷でその住宅を売却しても5万ドルしか手に入らず、差し引き5万ドル損をしてしまう。しかも現状では「その住宅が売れるかどうかすら分からない」。
・債権は分散化され、さまざまな証券に混ざって世界中に販売されているため、どの証券にどれだけの「住宅不良債権」が含まれているか分からない。


箇条書きにしても「どこが簡単なんだ」と自分でツッコミを入れたくなるような話だが、大体把握できたと思う。一言でまとめると「住宅関連で欲の皮突っ張った問題が臨界点を突破し表面化した」ということになるのだろうか。

最大の問題点は「全体像を把握できないこと」

一番の問題はまとめ中の一番最後の行。サブプライムローンによって発生した不良債権が、多種多様な証券に分散して組み込まれているため、どれだけの損失が発生するかがわからないということ。幸いにも【野村ホールディングス(8604)】は10月15日の段階で損失をほぼ確定した(【発表リリース】)ことで、「損切りの速さ」が評価された(以後株価の下落は止まっている)。

しかし「どの道アメリカの不動産の問題だから日本には関係ないでショ?」といわれてきたサブプライムローン問題も、この「組み込み証券」の損失において全貌が把握しにくいこともあり、実は多くの企業が関係しうることが次第に明らかになってきた。多くの証券・金融企業が「分かり次第」「少しずつ」状況を確定し、損失を計上しつつある。最近の金融機関の決算発表などを見れば、ほぼすべてにおいて「サブプライムローン」の言葉が踊っているはずである。

また、直接関連債権・証券を運用していない企業でも、お得意先が関わっていることで、そのとばっちりを受けることもある。結果として「直撃弾」「至近弾」も含めると、多数の日本国内企業が「サブプライムローンからの攻撃」で影響を受けつつあるというのが現状だ。

地震や事故において現場にいる人たちが一番不安になるのは、十分な情報が伝えられない「情報の不足」「不確かさ」状況であるとよく言われている。「サブプライムローン」問題が市場関係者(の投資行動)に大きな影を落としているのは、その損失の絶対額もさることながら「まだあるのではないだろうか」「これで全部なの?」という、情報が確定されていない不安・不信感から来るところが大きい。

「サブプライムローン」問題を「亡霊」と称したのも、それゆえのものである。
(続く)

■一連の記事:
【「サブプライムローン」という名の亡霊を退治する10の提言-(上)】
【「サブプライムローン」という名の亡霊を退治する10の提言-(下)】

(最終更新:2013/08/18)

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