バイオエタノールへの「疑問符・急加速へのブレーキ」と反論
2007年10月28日 12:00
二酸化炭素を吸収する植物から作られ、石油や石炭などの化石燃料と異なり容易に増産が可能なことから「地球に優しい新液化エネルギー」として注目を集め、世界各地で大増産が続けられているバイオエタノール。そのバイオエタノールの本家ともいえるアメリカで、今その効用に対して疑問視する意見が相次いでいる。主原料のとうもろこしの価格急落がきっかけで、これまで多方面で語られていた「?」の思いが一斉にふき出した形となっている。今回参照したUSA TODAY紙ではこの現象を「世界的な反動(反撃)を受けているバイオ燃料(Worldwide backlash hits biofuels)」と評している(【USA TODAY】)。
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●「バイオエタノールは地球に優しい」への疑問符
「ブームが来た、そしてその反動が来ている(First came the boom. Now, the backlash.)」一行目からいきなりこのようなメッセージが語られている元記事では、石油などの化石燃料の浪費を抑えるのに役立つにも関わらず、「バイオエタノールですら地球環境には優しくない」という汚名を被ったと説明している。その論評が正しいものか否かに変わらず、このような意見が出てきた以上、バイオエタノールの増産にはちゅうちょする動きも出てくるだろうとも分析。
「バイオエタノールが地球環境には優しくない」と主張する人たちの意見、根拠は次の通り。どこまで正しいのか、その検証について元記事では言及されていない。
・Jane Goodall博士は「バイオエタノールの増産がウガンダとインドネシアにおける霊長類の生息地を危うくしている」とコメント。
・ブラジルではバイオエタノールを増産するために労働者への賃金を低く抑える傾向があり、労働環境の悪化を手助けする一因となってしまっている。政府ではこれを取り締まる動きがある。
・コロンビアからの農業移民たちは自分たちの意に反してバイオエタノールの素材用の農園を作っている。
・とうもろこしによるバイオエタノールの生産には化石燃料を必要とし、さらに水資源そのものを損なっている(the National Academy of Sciences発表)。
これら「ネガティブな影響・効果」はバイオエタノールのプラス効果、すなわち経済の発展を助け、ばく大な利益を挙げられることの影に隠れてしまい、なかなか表立ってはこない。それが今、一挙にふき出してきた形だ。また、エタノールを増産してもそれを運んだり貯蔵したり、あるいは増産そのものの精製工場の体制構築が間に合わず、エタノール自身や原材料のとうもろこし・豆類の価格が急落しているのも、反対論が急速に声高になった一因だろう。
●反論への反論。「原料はとうもろこしや豆類だけに限らない」
「バイオ燃料は現状のような無計画で濫造されるようなものではなく、賢明な考え方と計画で開発され生産されるのなら、もっと明るく、持続的な可能性に満ちあふれた未来をもたらす可能性が高い(が、現状ではそうであるとはいいがたい)」とWorldwatch研究所のバイオ燃料分野のスタッフRaya Widenoja氏は述べている。「豆類やとうもろこし以外を原料とするバイオエタノールなら、現状の問題点のいくつかは解決できるでしょう」「バイオエタノールそのものには将来性がある。とうもろこしや豆類だけに頼った現状におけるマイナスだけで、バイオエタノール全体を否定するのは不幸な話。人類は潜在力の高いエネルギーを失ってしまうことになります」。
アイオワ州立大学の農業エコノミストChad Hart氏は上記の「バイオエタノールのマイナス点」について次のように反論している。「例えば原料の増産で森林地帯が侵食されているという主張があるが、それは植物油の増産要素の一つに過ぎない。中国やインドの新興国が消費を増やしている食用植物油の方が消費量(=侵食原因の量)は多い」と(屁理屈に聞こえるのは当方の思慮が浅いからだろうか)。
●「バイオエタノール」は第二段階の時代に?
これらの現状を踏まえた上で、Chad Hart氏やRaya Widenoja氏は元記事で次のような意見を述べている。一つは「藻やスイッチグラス、穀物の茎、木くずなど新しい原料を用いたバイオエタノールの開発」もう一つは「バイオエタノール以外の有機燃料(例としてデュポンとBP社による、砂糖大根から作られるブタノールを例示している。ブタノールは通常のパイプラインで輸送でき、エタノールより燃費が良いと主張しているとのこと)」。
特に両氏はとうもろこしや豆類などの穀物系でない植物性有機物からのエタノール精製に注目と期待を寄せている。「これらの原料によるバイオエタノール生産なら、農場を台無しにしてしまうこともない。そして伝統的な農業による食料生産を維持しながら、バイオエタノールのための原料を提供することすらできる」。
アメリカではすでに【「海藻からバイオエタノールを400万トン/年生産」水産振興会構想発表・2013年から実証事業開始】にもあるように量産が容易(何しろ雑草なのだから)なスイッチグラス(switchgrass)をバイオエタノールの原料にしようという計画を政府レベルで推し進めている。「とうもろこし・豆類フィーバー」とその後の「大反動」状態は、あくまでも過渡期の一形態なのかもしれない。
●コメントでも多種多様な意見
USA TODAY紙は他の先進的なネット新聞サイト同様に読者の意見をコメントで受け付けている(会員登録とログインが必要)。それらの意見も多種多様だ。
いわく、バイオエタノール騒動は共和党と石油会社大手と政府の陰謀だと主張する人、バイオエタノール反対派の意見はデタラメだとする人、「地球環境にやさしいエネルギーは他にも太陽・風力・地熱・潮力などあるが開発費用が不足していて費用対効果が低い。だから大量の開発費用を投入しろ」と主張する人など、数え上げればきりがない(現時点ですでに100以上の意見が寄せられている)。
バイオエタノールのメッカともいえるアメリカでも、農家の変貌や穀物の価格高騰など状況の変化で、バイオエタノールへの見方は複雑化しているようだ。
ヒートアップするのはコメント・意見だけで十分であり、地球そのものをヒートアップさせるのはかんべんしてほしいものだが……と駄シャレで終えてはしまりがない。
バイオエタノールの先進国ですらこのような論議が交わされているが、日本ではまだ導入すらおぼつかない状態。採用形式で政府主導のE3と石油連盟主導のETBEが対立し、両者とも一歩も引かない(もっとも政府側は「併用しよう」と言い寄っているふしもある)。バイオエタノールに関しては、日本は後進国といわざるを得ない。
その一方、四方を海に囲まれていることや、木材の廃材が多いことなど日本独特の環境を活かし、これらを活用したバイオエタノール精製のプロジェクトが複数立ち上がっている。そのいくつかはすでにお伝えしたとおりだが、なかなか続報が伝えられないのが残念。
どのみち日本は地下資源が少なく、知恵を絞って何とかしなければならない環境に置かれている。ならば「アメリカやヨーロッパがとうもろこしなどの穀物でバイオエタノールを作ったのだからうちらもそうするか」と猿真似をするだけではなく、「日本ならではの技術と原材料を使って独自の方法を」という方向へ舵をとってほしいものである。
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