改正建築基準法最大の問題点!? 大臣認定ソフトが未だに完成していない現実
2007年10月28日 12:00
先日【改正建築基準法で影響を受ける周辺業界たち】で、6月20日に改正された建築基準法の影響で新築住宅の建設許可がなかなかおりず、新設住宅戸数が激減、それを受けて建設業界だけでなくその周辺業界も少なからず影響を受けている、という話をした。また【9月度のチェーンストアの売上高、前年同月比-1.0%】で少し触れたが、新築向けの家具などの売行きが激減するなどデパートの売上にもこの影響が及んでいる可能性が高いことも指摘した。それらの記事に深く関わる「改正建築基準法」で最大の問題とされている、「構造計算ソフト」について詳しく解説している記事を見つけることができた。それが【日経ビジネスオンラインの「時流超流」の10月23日号】。
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●「大臣認定ソフト」「構造計算ソフト」とは?
「構造計算ソフト」とは、言葉通り「設計した建物の構造を計算するソフト」。どんな素材を使いどの場所に何を設置してどのような工法で組み立てれば、この建物の構造的に強度はどれくらいになるのか、建築基準法上問題があるのか無いのかを計算してくれるソフトだ。建築士などが設計した建物が、果たして強度などの構造上問題が無いのか、そして建築基準法に抵触しないものなのかをチェックする、一番の「お役立ちソフト」。折角お客のニーズにあった建物を作っても、強度の面で問題があれば、国土交通省から許可はおりない。そのチェックを事前に行なうことができる。
「認定ソフトでOKが出ている」
↓
「基準はクリアしているはず」
↓
簡単な検査で審査クリア
このソフトで「問題ないよ」という結果が出れば、その結果と共に建築の許諾を出すことで、事実上簡単な検査をクリアすれば建築許可がおりる。何しろ役所でチェックするのと同じ基準で、ソフト側で確認しているのだから。
……というはずだったのだが、例の姉歯事件ではソフトそのものをいじってデータを改ざんし、「『問題ないよ』という結果が出るはずがない」データで「問題ないよ」という結果を出力し、役所に提出。役所もよもやソフトをいじって書類を作っていたとは思わなかったから、事実上スルーパス。そしてあの「大問題」が発生し、書類をひっくり返してみたら次から次へと危なっかしい設計書(とそれを元に作られた建物たち)が出てきたわけだ。
「認定ソフトでOKが出ている」
↓
「基準はクリアしているだろう」
↓
「でも『第三者機関』に同じ
認定ソフトでデータを再入力して
チェックしなおしてもらうネ」
(現状:その「認定ソフト」公式版が
まだ出来上がっていない!)
そこで改正建築基準法では、役所などの検査機関とは別に、第三者機関(「指定構造計算適合性判定機関」というのだそうな)にもチェックしてもらうことにした。第三者機関にもデータとその結果(もちろん「問題ないよ」という書面)を提出。機関側ではデータをもう一度「構造計算ソフト」に入れなおして計算し、結果書面とつき合わせてウソをついていないかどうかを確認する。
姉歯事件の時には例えば「(柱が5本あれば強度的に問題無い。結果では5本でOKということになっている。しかし実際には3本しかない。でも)柱が3本でOKと出ている。だからこれは問題ないね」という事態が起きていた。改正後の体制なら、「3本柱構造で『問題ないね』の結果書面が出てる。でも手元の『構造計算ソフト』でデータを入れなおしてみたら、3本じゃ強度不足でOKなど出ないぞ!」とツッコミを入れることができるわけである。
●法律は施行された。しかしそれ用のソフトがまだ出来上がっていない!
この「役所と第三者機関の二重チェック体制」には、一般の建築士などが使うものと、第三者機関、そして役所が使うのに共通仕様の『構造計算ソフト』(大臣が認定しているソフトという意味で「大臣認定プログラム」「大臣認定ソフト」と呼ばれている)が必要になる。例えが多少煩雑だが、Vista用ソフトを作った場合、WindowsMeやXP、ましてやXbox360ではチェックは出来ない(現状ではXPでもチェックする必要はあるかもしれないが……)。しかしそれに近い状況が、現在の建築業界では起きているのだという。
元記事にいわく、
国交省は建築基準法の改正以前から市販の構造計算ソフトを審査し、お墨付きを与える「大臣認定プログラム」を選定していた。姉歯事件では、このプログラム自体が改ざんされたため、不正防止機能を備えた改正後の新・大臣認定プログラムも、本来は6月20日の施行と同時に提供できるはずだった。
ところが、この肝心の認定プログラムが施行から4カ月たった現在でも販売されていない。「認定プログラムの出荷時期も未定」と国交省の担当者は言う。
要するに「このソフト(「大臣認定プログラム」)を使えばスムースに審査が出来ますよ。是非とも使って下さいね」としておきながら、法律改正から四か月以上経った今になってもソフト自体が出回っていないのである。上記の例なら、Vistaが世間一般に流通しているにも関わらず、Vista専用の公式ソフト開発ツールが出回っておらず、関連仕様書のみが渡されているというところだろう。
●建築士も第三者機関もおっかなびっくり、お手上げの状態
【国土交通省の確認審査等に関する指針(仮称)案(PDF)】によれば、「手計算や認定プログラム以外で構造計算がされていた場合、第三者機関は一から全部書類をひっくり返して詳しく区分分けしてこまかく計算し直し、審査を行なうこと」とある。一方で元記事によれば、現在「大臣認定プログラム」は存在しないので、市販されている「非認定プログラム」を使うしか手がないという。
これらのソフトを使った場合、建築士がしてきた計算を再度、しかも改正建築基準法に照らし合わせて確認しなければならない。先の例ならVistaのコード基準にあわせてフロチャートや関連資料と共に一からプログラムソースを再確認する、ということだ。第三者機関にとってばく大な手間と時間がかかるし、一つでも抵触していたらアウト(審査差し戻し)なので、そのチェックがソフト上で出来ない建築士側にしてみればたまったものではない。
さらに今後その設計で何か不備があった場合「認定プログラムを使わなかったのがいけない」と言われてはグゥのネも出ない。建築士側もちゅうちょしている、というのが現状のようだ。第三者機関側も慎重にならざるを得ない。綿密に、何度も繰り返し検算し、チェックを繰り返せば問題がクリアできる構造書は出来上がるだろう。それでも第三者機関のチェックでダメ出しをされる可能性は「大臣認定ソフト」を使っているときよりはるかに高い。さらに「ソフトを使っていない」という不安は残る。
元記事の指摘では「大臣認定プログラムの発売は来年にずれこむ可能性がある」ともされている。今年中にリリースされるのか、それともやはり来年までずれ込むのか、現状では不明。ただ、少なくともそれまでの間、新規物件の建築に大きなハードルが立ちはだかるのは間違いない。
●山場は年末か、来年か。体力勝負と関連業界と
体力に余裕のある大企業は半年レベルの需要激減も何とか乗り越えられるだろう。しかし中小企業にはそれほど余力はない。さらに冒頭で参照記事として挙げた両記事でも伝えているように、建築業界だけでなく周辺業界にも影響が出始めている。
……仕様決定の遅れが原因か?
→事情をかんがみ、
仕様決定から法律施行まで
一定期間を必要とすべきだったのでは?
住宅関連業界に精通している人や建築・住宅銘柄の株主ならご存知の人も多いだろうが、この業界はどちらかといえば上期よりも下期に売上が伸びる場合が多い。それを知らないと上期の売上が低いのに驚いて狼狽売りしてしまう、というパターンもよく見うけられる。この「期待すべき下期の売上」が今回「改正建築基準法」とりわけ「大臣認定ソフト」という「大ボス」の登場で、大きく影響を受ける可能性も出てきた。もちろん周辺業界もまたしかり。
元記事には「なぜ法律改正後と同時に市販されねばならない『大臣認定ソフト』が未だに市販にいたらず、下手をすると来年になるかも」という事態におちいっているのか、その理由は一切かかれていない。が、恐らくは先の記事でも推測したように「仕様が締め切り(法律施行)直前まで決まらなかったから」だろう。仕様が決まらなければソフトが作れないのはまさに「しようがない」という冗談すらため息混じりに吐きたくなる状況としかいいようがない。
ここで国土交通省の上層部が状況をかんがみて「ソフトが市販できるであろう年末まで半年間施行延期」とでも英断を下せば、あるいは元から「仕様決定から半年後に法の施行」としてくれれば、今回のような問題は発生しなかったに違いない。そもそもこのようなスケジュールを組んだ官公庁の責任者に、ウソ偽りの無いつじつまのあった、誰もが納得の行く説明を詳しくしてほしいものである。
現状ではすでに法律が施行されてしまったのだから、すでに後戻りはできない。一刻も早く通常の建築スケジュールが組めるような状態に戻せるよう、各方面が協力し合い、あるいは強きが弱きを助け、難局を乗り切るしかないのであろう。もちろん、これまで以上に耐震強度に気を配った住宅が世に広まり、そこに住まう人たちの安全が一層確保される結果となることも祈りたい。
まずは10月28日前後に発表されるであろう、9月の新設住宅戸数に注目が集まるところだ。
(最終更新:2013/08/18)
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