「新聞没落」…週刊ダイヤモンド最新号を読み解く
2007年09月20日 20:00
当サイトを立ち上げて今まで以上に情報チェックに時間を費やしたり、○次情報について考えてみたり、特にここ一、二年の間に顕著になった偏向報道の有様を感じているうちに、「あるいは地デジへの切り替え前後で、大規模なメディア改編があるのではないか」と思い浮かべるようになった。地デジへの切り替えは既存の大メディア「テレビ」の切り替えをも意味するからである。そんな中、【週刊ダイヤモンドの最新号(9月22日号)】に気になる文字が躍っているのを見つけた。題して「新聞没落」。黄昏(たそがれ)どころではなく「没落」である。掲載されている見出し一覧も気になる言葉が並んでいる。早速手に取り、目を通してみることにした。
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まず驚いたのが今号の特集「新聞没落」への力の入れよう。大抵において週刊ダイヤモンドは「大特集1」「中特集1」「その他小特集やコラム」から構成されている。しかし今回の「新聞没落」は「超大特集」のような様相を呈している。「中特集」にあたる「メガ百貨店最終戦争」など6ページしかない。半ページが広告、半ページがタイトルロゴだから、実質5ページ。最初は「あれ? 特集一つしかないの?」と勘違いしてしまったほどだ。
●新聞業界がおかれている現状を淡々と解説
特集は大きく6章に分けて新聞業界の現状と内部での試行錯誤、問題点などを分析・解説している。出所がはっきりしているデータやネット調査会社を用いての独自調査結果を用い、グラフやチャートで本文をサポートしているため、非常に説得力がある。各章のタイトルは次の通り。
【序章】業界襲う構造不況
【第1章】新聞経営の瀬戸際
【第2章】宅配モデルの崩壊
【第3章】ネット戦略の懊悩
【第4章】新聞記者の生態
【第5章】米新聞業界の窮地
非常にざっくばらんにまとめると「右肩上がりだったこれまでの状況は一転し、新聞業界は危機に直面している。インターネットの普及や新聞購読者層の高齢化、活字離れや法改正などで、抜本的な改革が求められている。しかし現場はともかく上層部では危機感に欠けている感が強い。気が付くとすでに足元は薄氷」というところだろうか。
●キーワードと共に概要紹介
今特集は非常に盛りだくさんな内容となっていて、昨今の週刊ダイヤモンドの中では「投信の罠」「医療保険に気をつけろ!」などの号と並び、永久保存にしても良い号といえる。以下に概要を書き連ねてみるが、興味がある人はぜひ入手して目を通してほしい。
【序章】業界襲う構造不況
・朝日新聞の大減収、分社化で解決を図るも見込み薄?
・新聞業界、2015年の突然死の可能性。「世帯数のピークアウトと団塊世代の加齢」「10年周期で起こる再販制度見直し議論の影響」「消費税率引き上げによる値上げ」「地上デジタル放送完全移行や放送法改正によるメディア改編の流れ」。
・読者5000万人の巨大市場、されど部数は1997年をピークに減少。
【第1章】新聞経営の瀬戸際
・新聞離れ。「老高若低」が鮮明に。「新聞よりもネットとテレビ」
・日経と朝日の株主問題。
・地方紙も前途多難。
・携帯やネットに侵食されてスポーツ新聞も青色吐息。
【第2章】宅配モデルの崩壊
・「押し紙」問題。
・ABC協会の部数も信用性に欠ける?「ABC公表部数が実態よりもかさ上げされているのが事実であれば、広告主への詐欺行為だろう」
・成長期ならではのビジネスモデルが崩壊。「新聞業界の信頼回復には部数透明化が焦眉の急」
【第3章】ネット戦略の懊悩
・読売新聞、朝日新聞、日経新聞による情報ポータル構想「ANY(エニー)」
・ヤフーやグーグルなどのポータルサイトにネット読者が流れてしまうのは勘弁ならない。ANYで上流の顧客を集めて収益源を確保すると共に「他のポータルサイトへの情報配信はやめる」。
・ANY-グーグルと、毎日新聞-ヤフー、産経新聞-マイクロソフトとの覇権争い。
・大手新聞社が展開している会員制サイトの効果は今ひとつ。
・ソフトバンクグループの「ITメディア」は専門色を前面に打ち出してビジネスとして成功を収めつつある。「おおまかな流れは大手新聞のサイトでつかんで、あとはお気に入りのネット専門新聞で知識を深めていく」といった流れも。
【第4章】新聞記者の生態
・新聞記者の生態観察。3パターンを紹介。
・勝ち組3社と没落気味2社。日経「企業報道では負けません」朝日「オレたちエリート」読売「数は力なり」
・「特権意識にあぐらかき談合体質の横並び」
【第5章】米新聞業界の窮地
・「ネットにいちばん食われたのは新聞」
・高まるオンライン広告の存在感
・「編集部厳選! 紙媒体を脅かすネットメディア10社」
●諸般感想
それでは最後に各章ごとに、蛇足ではあるが当方の感想を書き連ねていくことにする。
■序章……業界襲う構造不況
冒頭で「地デジかターニングポイントとなるかも」と書いたが、それがほぼ正しいことが裏づけられて一安心。ただその他にもさまざまな要素が複雑に絡み合い、しかもそれが2015年前後にまとめて起きる可能性が高いとの話には驚きと納得。
■第1章……新聞経営の瀬戸際
「老高若低」「新聞よりもネットとテレビ」は最近のリサーチデータ解説記事でも何度か取り上げている。一つ一つはばらばらのデータでも、まとめ上げれば大きな事象の予兆を指し示しているのだな、と実感。
■第2章……宅配モデルの崩壊
新聞配達業者の問題は前々から耳にしていたが、報道元の新聞社自身にはあまり公知されたくない内容らしく、ほとんど公表されることはなかった。業者が抱える問題と新聞売買そのもの現状における限界が見て取れる。特に「公表販売紙数と実売数」に大きな乖離(へだたり)があることが明らかになれば「公明正大をうたう新聞社自身が何をやってるのか」とつっこまれても反論はできまい。
■第3章……ネット戦略の懊悩
「読売新聞、朝日新聞、日経新聞による情報ポータル構想「ANY(エニー)」」には驚き。共同通信社が軸の「47ニュース」はどうなったのか、と首をかしげた。しかしここでも話の中心は『ヤフーやグーグルなどのポータルサイトにネット読者が流れてしまうのは勘弁ならない。ANYで上流の顧客を集めて収益源を確保すると共に「他のポータルサイトへの情報配信はやめる」』ということ。
また、「ITメディア」に関する分析コラムは非常に興味深い。
■第4章……新聞記者の生態
「特権意識にあぐらかき談合体質の横並び」これに尽きる。「記者クラブ制度」に関する問題点の記述も要注目。
■第5章……米新聞業界の窮地
ある意味新聞などメディア業界において日本を先行しているアメリカにおける実情が簡素にまとめられていて読み応えアリ。何度か記事でも欧米の通信社や経済系メディアの買収などを取り上げたが、海外では日本以上に既存メディアの再編が進んでいる。この辺の事情に詳しい【メディア・パブ】を読み解いていくと、最近でも【ニューヨークタイムズ誌が過去記事を完全無料化配信】や、【ウォールストリートジャーナル誌サイトを無料化すべきだとマードック氏が繰り返し主張】など、気になる話が相次いでいる。また、パーソナルレベルやソーシャルニュースサイトと、既存メディアのニュースサイトのニュース傾向の違い(【プロが編集したニュース 対 集合知で編集したニュース】)のように、第3章の「ITメディア」関係の分析コラムと通じる話も気になるところ。
他にも、「編集部厳選! 紙媒体を脅かすネットメディア10社」はすべて海外サイトではあるが、好奇心をそそられるサイトばかり。当方の分析もあわせて時間を見つけてあらためて紹介するつもりだ。
冒頭でも触れたが、最近「マスコミフィルター」が特定の方向にむけられていたり、ススがたまっているのではないかと感じることが良くある。日本発・日本に深い関係のあるニュースなのに海外経由の方が詳しい情報を得られたり、海外伝として伝えられたニュースで「?」と首をかしげて元情報を探してみると肝心な部分が抜けていたり真意を取り違えかねない内容になっていたり、情報操作と受け止められても仕方ないような報じられ方がされていたりなど、数え上げればきりがない。
もちろんこのような「?」マークの記事は全体のうち、ごくわずか。だが、真実と異なる情報を伝えたいときに用いられるテクニック「虚偽の含有率を百パーセントにしてはならない」という言葉も頭に思い浮かんでしまう。恐らくは杞憂、あるいは考えすぎなのだろうが。
ちなみに今号の編集後記も、今回の特集の対象となった新聞業界の現状を如実に表した内容(体験談)が掲載されている。普段は目を通すことなど滅多にないであろう編集後記だが、この号を手に入れた人はそのページにもチェックを入れてほしいものである。
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