作品は針の穴の中! 比類無きマイクロな世界に彫り込む芸術家の神秘的な世界
2007年09月03日 06:30
主にイギリス発のオモシロ真面目なニュースをピックアップする際に大いに利用している【Daily Mail】で先日非常に興味深い記事が掲載されていた。タイトルは「世界的ミニサイズ彫刻家はついに大きな存在となった(The world's leading micro artist has finally made it big)」というもの。タイトルだけだとハテナマークが山盛り頭の中に浮かんできたが、写真を見て納得。一番最初に掲載されていたのは、「ミシン針の頭の穴の部分に創られた、白雪姫と七人の小人(+魔女)」の彫刻だったのだ。
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この作品の製作者はWillard Wigan氏。世界的に有名なマイクロ彫刻の芸術家。【作品を掲載している公式サイト】には数々の作品が掲載されている。
DailyMailに掲載されていた一枚、「白雪姫と七人の小人(+魔女)」。小人たちが乗っているのは通常サイズのミシン針の頭にある穴。針がビックサイズであるわけではない。
お祭りやターミナル駅の駅前で時々見かける露店、あるいは観光地のお土産屋で似たようなスタイルのミニチュアをみかけることはよくあるものの、このサイズは言葉通りケタ違い。Willard Wigan氏はこの「ミシン針の中の白雪姫たち」を指し、「ちょっと見てごらん。腰抜かすから(Take a look at this. It will blow you away.)」と語ったという。
釘の頭の上に置かれた
「考える人」
Willard Wigan氏は自分の作品を製作するのに、顕微鏡を用いてレンズ越しに削り、塗料を塗っていく。そして多くの人が自分の「仕事」をどうやって創るのかを知りたがり、作業の様子を見たがるのが嬉しくてしょうがなく、作業中の様子を見られるのが好きなのだという。
Willard Wigan氏の作品は世界的に認められたものとなり、6週間前には大英帝国勲章の一つ(一番下のランク)MBEを獲得している。勲章を受け取ったときチャールズ皇太子はWillard氏に「あなたの仕事は驚異的である(Phenomenal)」とまでコメントしたが、氏の作品を見ればそれもうなづけるもの。
これだけ作品が小さいと、ついついミスもしてしまう。Willard氏は最近のミスとして「自分自身で作品のアリスを吸い込んでしまった」ことを語った。「気が付いたら彼女を吸い込んでいた。目の前から彼女が消え、自分の一か月ほどの作業が水の泡となってしまったことを初めて知った」と語った。他にもハエの羽ばたきによる風で、綱渡り師の彫刻を吹き飛ばされてしまったりしたこともあるそうな。冗談のような本当の話だから困ってしまう。
マッチ棒の頭サイズのリングで
繰り広げられるボクシング
(Cassius Clay 対 Sonny Liston)
今や皇太子から賛美の言葉を受け勲章までいただけるようになり、世界的な権威も得たWillard氏だが、元記事や公式サイトの記述を読むと不遇の時を送っていた時期が長かったようだ。ジャマイカで生まれて両親の出稼ぎと共にイギリス・バーミンガムに移住。肌の色や言葉で色々と苦労もしている。しかし小さいものへの興味関心は幼い頃から芽生えており、忍耐強さも備わっていた(アリとアリの巣を何時間も見つめていたというエピソードも紹介されている)。
35歳の時にあまっていた木材を使ってシェークスピアの彫像を彫り、その出来のよさが注目されて地方紙に掲載されてから、Willard氏の人生は転機を迎えたという。以後彼は自分の才能と興味関心を活かした彫刻作業に励むようになり、そのスキルをますます高め、世に次々と作品を生み出している。
針の穴の中の「自由の女神」
やぼな話だが、彼の作品の取引価格もその大きさからは想像もつかないほどの(そして芸術的・造形的な視点からすれば当然ともいえる)高額。例えば自由の女神像は1万7000ポンド(400万円)で仕事として製作を引き受けたが、現在はその10倍以上もの価値を持っているという。
日本でも米粒に写経をするなど(漫才師ではない)、手の器用さにため息が出る作品をよくみかける。言葉どおり「ふけば飛ぶような」小さな世界を機械仕掛けではなく、人間の手によって作っていくこれらの作品は、まさに芸術の域を超えた「奇跡」のレベルといえるだろう。
インターネットの普及で世界中に点在する「奇跡」を目の当たりにできるようになったのはありがたい話ではあるが、だからこそ実物を見てみたいと思うのは、やはりぜいたくな悩みなのだろうか。
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