転職の現実は「企業は経験を求め、転職者は仕事内容と才能を活かせる場を求む」
2007年08月19日 12:00
厚生労働省が8月8日に発表した2006年度の転職者実態調査結果の概況によると、転職について企業側は転職者の経験を第一に求めているのに対し、転職者側は仕事の内容や自身の技術・才能が活かせる場所を求めている傾向があることが明らかになった。また、転職後も仕事の内容の点で満足している人が多いものの、一部に「給料が安い」という不満があることも分かった(【発表リリース】)。
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今調査は2006年9月1日から30日までの間、約6700の事業所やそこに属する従業員に対して行なわれたもの。
●転職者 専門職種は即戦力 汎用職種は補充員扱い
転職者の採用をしている企業にその採用理由を尋ねたところ(複数回答)、専門職では「即戦力になるから」、事務職では「補充のため」がもっとも多くなっている。
■転職者採用の理由
●専門的・技術的・管理的な仕事
「経験を活かし即戦力になるから」……68.6%
「専門的知識・能力があるから」……66.5%
「退・転職者の補充のため」……48.7%
●事務・販売・サービスの仕事
「退・転職者の補充のため」……60.4%
「経験を活かし即戦力になるから」……58.2%
「専門的知識・能力があるから」……27.5%
●保安・運輸・通信・生産工程・労務の仕事
「退・転職者の補充のため」……66.7%
「経験を活かし即戦力になるから」……52.2%
「事業拡大による人員不足を補うため」……29.7%
汎用性のある、特殊技能や経験を必要としない職種ほど、単に補充要員として転職者を求めていることが分かる。逆に考えれば、「自分のノウハウを活かせる場所がほしい」と考えている転職者は、「専門的・技術的・管理的な仕事」を対象にしないと自らの願いがかないにくい、あるいは転職先そのものが見つけにくいことになる。
ただし事務職でもこれまでの経験が活かされていないというわけではない。転職者の処遇(賃金や役職)決定に際してもっとも重要視した項目を見てみると、「これまでの経験」と回答した事業所がもっとも多くなっている。
一般正社員の転職者の処遇(賃金、役職等)決定の際に最も重視した項目別事業所割合
年齢は就業規則上の年功序列制の問題もあるから考慮しなければならないし、転職者の生活を考えると前歴の賃金にも耳を傾ける必要があるだろう。しかしそれを差し置いても、「これまでの経験」「免許・資格」項目に多くの数字が出ていることから、企業側では転職者に対し「経験」を買っていることが分かる。逆に「学歴」や「前職の役職」は、転職者の評価には何の役も立たないことがうかがえる。
●転職者は転職先を仕事の内容や自分の才能の活用で見定める
一方転職する側から見た、転職先の選択理由はどうだろうか。転職者が転職先を選んだ理由を見てみると、「仕事の内容・職種に満足がいくから」が44.2%と最も多く、「自分の技術・能力が活かせるから」がそれに続いて42.8%だった。
今の会社を選んだ理由別一般正社員の転職者割合
一部の広報誌で語られている「給与○×万円アップのために転職」というニーズは、実はそれほど高くないことが分かる。
また、転職年齢が若いうちは「仕事の内容・職種に満足がいくから」が多いが年の経過と共に減少し、一方で「自分の技術・能力が活かせるから」の割合が増加していくことが分かる。これは当然ながら「社会人になりたての頃は自分の技術や能力を見定める機会がなく、またその芽はあっても磨き上げる時間もないので、自信をもてるまでにはいたらない。だから仕事の内容や職種に目が行く」「中堅以上になると、仕事の内容や職種よりも、自分自身が確立した『他人に誇れる技能』をもっと有効に活用したいという思いが強くなる」という傾向からくるものだろう(55~64歳で幾分減るものの、65歳以上では実に7割以上が「自分の技能を活かせるから」を理由に挙げている)。
●仕事内容で満足、給与で不満足
転職者の満足度は全体的に見て「満足」22.9%、「やや満足」が36.3%、「どちらでもない」が21.5%、「やや不満」が13.2%、「不満」が5.5%。満足度はわりに高いことが分かる。各種階層別に見ると、女性よりは男性、中堅層よりは若年・老齢層、学歴が高いほど、そして「これまでの就業経験が活かされている度合が高いほど(≒自分の技術・能力が活かせているほど)」満足度が高い。
転職に満足した人の満足理由についてたずねたところ、
・仕事の内容、職種……53.4%
・労働時間、休日……16.0%
・賃金……11.1%
となり、圧倒的に「仕事の内容、職種」の面で満足している人が多い。他方、「転職で満足しなかった人」の不満足理由では、
・賃金……46.6%
・労働時間、休日……21.4%
・仕事の内容、職種……14.7%
という結果が出ている。満足している側は働くことの意義や自分自身の「立ち位置」で納得しているのに対し、不満足な側では労働の意義云々以前の労働条件の問題(給与や労働時間)でつまづいていることが分かる。
転職希望者の転職事由はさまざまで、統計データによれば会社都合の場合は「倒産・整理解雇」「期間満了」「希望退職に応じた」がトップ3、自己都合の場合は「会社の将来に不安を感じた」「満足のいく仕事内容で無い」「賃金以外の労働条件が良くない」「賃金が低い」がトップ4を占めている。
会社都合の場合は仕方ないとしても、自己都合の場合、単に「給与が安いから」「労働条件がキツいから」という理由で転職しても、その願いはかなえられにくいことが推測できる。むしろ「仕事の内容、職種」「自分の力を活かしたい」などの考えで転職した方が、その望みをかなえられやすい(≒転職が成功しやすい)。
お金や労働条件といった現実的な面と、仕事の内容や自分の才能を活かせるかどうかという精神的な面での充足という、両方がかなえられる転職ならばそれがベスト。しかし実際にはそれはなかなか難しい。何を残して何を切り捨て、あるいは優先順位を下げてもよいかをよく考えた上で、転職先、あるいは転職そのものの是非を考えねばならないだろう。
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