「国内経済の喚起には労働者への配分を」2007年度版労働経済白書発表

2007年08月05日 12:00

【厚生労働省】は8月3日、2007年度版「労働経済白書」(労働経済の分析)を発表した。それによると企業業績は数字的に回復しているものの、企業を支える労働者をはじめとする社会全体が酷使され、疲れていると指摘、「ワーク・ライフ・バランス」(仕事と生活の調整、調和)に注力すると共に企業の業績向上の成果を賃金などの形で労働者に正当に分配することが経済成長の持続には重要であると結論付けている(【概要版】【全文】)。

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「労働経済白書」の概要版の目次(項目)は次の通り。

目次、はじめに
第1章:労働経済の推移と特徴
 第1節 雇用、失業の動向
 第2節 賃金、労働時間の動向
 第3節 物価、勤労者家計の動向
第2章:人材マネジメントの動向と勤労者生活
 第1節 企業経営と人材マネジメント
 第2節 雇用管理と勤労者生活
 第3節 働き方の変化と勤労者生活
 第4節 ワークライフバランスの各国の動向
第3章:変化する雇用システムと今後の課題
 第1節 経済・経営環境と労働条件
 第2節 雇用システムと勤労者生活
 第3節 ワークライフバランスと雇用システムの展望
まとめ


「まとめ」の部分から概要の概要的なものをまとめると、次のようになる。

・企業業績そのものは回復を続け期間からすれば「いざなぎ景気」を超えている。
・国際化を名目に収益性を重視する企業経営も強まっているが、人材の活用の面(正規雇用率の減少や教育訓練支出の削減)で長期的・戦略的視野による観点ではむしろ後退気味。
・企業業績や生産労働性の向上が成果配分の形で労働者に回されていない。増加分は内部保留や株主への配当に回され、賃上げや時短の動きは停滞している。
・成果主義、業績主義の偏向的な導入で仕事の把握がしにくくなり、非正規雇用率の上昇とも相まって、特に30代から40代の層で労働時間が増え、負担が増加している。
・ワークライフバランスのコンセプトを企業、そして国が率先して実施することで、各労働者のモチベーションを高め、最終的に生産性の向上にも結びつけるべき。現状では「使い捨て」の状況に近く、後が続かない。出生率の低下にも影響を与えている。


■企業の業績向上
(1)内部留保や配当へ
(2)正規雇用者には二の次
 →さらに非正規雇用率の上昇
(パートやアルバイト、契約社員には
賃金上昇は反映されない)
 →実質的に労働者への配分率減少
(その分(1)が増える)

特に「労働者の生活と労働のバランスにおける労働への負荷増加」や「業績向上の成果が賃金に反映されない」「人材育成への姿勢が後退している」状況は、日本国内における消費の低迷、さらには少子化にも大きな要因となることから、これらの点を改善しなければならないと説明している。国内における社会的基盤が豊かにならなければ、経済も安定せず、優秀な人材も輩出せず、労働者のモチベーションも下がり、結局のところ労働生産性も停滞してしまうとのこと。

また、「正規雇用率が減り非正規雇用率が上昇している」現状は、「春闘」などの労使間交渉による賃金のアップが実現されても「正規雇用者にしか適用されない」ため、実質的に人件費や労働分配率が減少してしまうという結果につながっている。

企業が国内需要に好影響をもたらす
「利益配分」をしないのは
かつての「植民地政策」に似ている。
労働側のモチベーションは低下し、
中長期的には生産性の減少にも結びつく。

「白書」内でも何度と無く「国際競争力の観点から企業側では賃金を上げない傾向にある」という言い回しが見受けられる。これは事あるたびに大企業側や経済団体のトップの口から語られる言葉でもある。「グローバル社会・経済へのプロセス」といえば聞こえは良いが、要は「需要の喚起を日本国内で行なう必要はない(日本国内で利益を還元して新たな需要を創らなくとも別にかまわない)」ということになる。例えるならば、「植民地で新しい産業を興してたくさんの売り上げを得ても、その利益はすべて本国へ吸い取られてしまうので、植民地の生活は一向に楽にならない」というところだろうか。

「お金」を一つの共通言語とし、全世界を市場・労働力の供給元・生産力提供の場として考えるのならば、最終的にはそのような流れに落ち着くことになる。しかし現実には国家毎の規制や文化の違い、物品の輸送手段など多種多様な問題があり、それは果たされないでいる。それこそ商品や人員も含めたすべての物質が、現在のお金のようにデジタルデータ化され、瞬時に世界を駆け巡ることが出来れば話は別だが、現状ではそれはSF小説の中の話でしかない。

果たして企業、特に大企業やそれらから構成されている経済団体が、本当に「グローバル・エコノミクス」を前提に「国内に還元する必要はない」という考えを持っているのか、それとも単に「流れに便乗して利益を増やそう」とたくらんでいるだけなのか、それは分からない。ただし、直前でも説明したように「完全なグローバル社会・経済」は不可能であるし、グローバル化が叫ばれる一方で弊害も生じ、逆に「地域通貨」の概念も欧米諸国で広まりつつあることを考えると、一筋縄ではいかないような気もしてならない。さらに「国敗れて企業あり」のような状況を、その企業の構成員たる国民が望むかどうかも、考えねばならない問題といえよう。

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