「貯蓄から投資へ」の流れを推し進めるために・世論調査からの推論
2007年07月02日 06:30
先に【「貯蓄から投資へ」、実際には7割が「株・投信は今後したくない」へ】でもお伝えしたように、内閣府と金融庁が発表した国民意識調査によると、国の「貯蓄から投資へ」という掛け声にもかかわらず世間一般ではむしろ「投資から貯蓄へ」の流れに傾きつつあるようすがうかがえた。発表資料では「なぜ投資を避けようとしているのか」「投資へ人々を呼びこむにはどうすべきか」のヒントとなるデータがいくつか見受けられたので、ここに推論も合わせて紹介することにする。
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今調査データの詳細は【発表リリース、PDF】にある通り。5月17日から27日、20歳以上の3000人に対し個別面接で行った調査結果で、1728人の有効回答を元に得た統計データによるもの。
●まずは知ってもらうことが大切
現実には「投資から貯蓄へ」の動きが加速しているわけだが、その動きには何らかの理由がある。調査では「なぜ貯蓄を選ぶのか」という質問もしてあり、それによると
・お金は銀行や郵便局に預けていれば安心だと思うから……52.3%
・株式や投資信託は,収益を期待できる半面,元本が減る可能性もあるから……43.3%
・株式や投資信託のことをよく知らないから(商品性がわかりにくいから)……40.2%
・株式や投資信託をどのように購入したらよいかわからないから……32.2%
・証券会社や証券市場に対する不信感が強いから……28.4%
・株式や投資信託は納税手続がめんどうだから……13.4%
・投資したいと思う魅力的な企業が少ないから……10.2%
・株式や投資信託に投資する際の手数料が高いと思うから……10.1%
(複数回答結果)
という結果が出ている。大手銀行なら現状では取り付け騒ぎはほぼない。金融危機時代に問題視された「ペイオフ」もルール化されたものの今のところ心配は要らないようで、多くの人が忘れ去りつつある。低利子時代でほとんど利回りには期待できないが「銀行や郵便局なら元本を割る可能性はないだろう」という安心感が貯蓄への傾倒を底支えしている。
「事実を知らない」ことを
原因としているものが多い
それは1番目の「お金は銀行や郵便局に預けていれば安心だと思うから」だけでなく2番目の「株式や投資信託は,収益を期待できる半面,元本が減る可能性もあるから」という意見にも反映されている。これは日本人の元々の特質(貯蓄好き)を考えれば致し方ないところなのだろう。また、「収益のみ株式や投資信託並で元本の減る可能性は無い」という都合のよい金融商品はない。株式や投資信託にそのような商品性を求めるのは無茶な話。
一方で、3番目の「株式や投資信託のことをよく知らないから(商品性がわかりにくいから)」以降の回答には光明も見えてくる。3番目と4番目の「株式や投資信託をどのように購入したらよいかわからないから」は国や関連企業が積極的に啓蒙活動を行えばよい。5番目の「証券会社や証券市場に対する不信感が強いから」は9月施行予定の金融商品取引法で規制強化がされるので、あとは関連官庁が積極的に「仕事」をしてくれればクリアできる(はずだ)。
「株式や投資信託は納税手続がめんどうだから」は、預けっぱなしでOKな預貯金と比べれば確かに面倒ではあるが、特定口座を活用することで手間を最小限に抑えることは可能だ(その分、税金面で損をする場合もあるが……)。「株式や投資信託に投資する際の手数料が高いと思うから」も、最近ではネット証券を中心に手数料が激安状態にあるため、手数料の要らない預貯金と比べれば割高だが、かつてのような「利益が手数料だけで吹っ飛ぶ」ようなことは起きにくい環境が整いつつある。例えば【イー・トレード証券の手数料プラン】なら、選択次第で手数料無料のトレードスタイルを採ることも不可能ではない。
「投資したいと思う魅力的な企業が少ないから」。これについては各企業に努力してもらうしかない。投資家に「投資したい、株主になりたい」と思わせる魅力をつけることこそが、上場企業の果たすべき義務の一つともいえる。この辺の心境は、毎月レポートに基づいて記事をあげている【野村證券金融経済研究所のレポート】も参考になるだろう。
要は、投資を避ける理由の多くが「商品自身を知らない」「購入の仕方が分からない」「手数料が高いのでは」などという、事実が知られていないことに起因するものであることが分かる。国としては今後「貯蓄から投資へ」に本腰を入れるのであれば、市場の信頼性を取り戻すさまざまな「仕事」を今まで以上に積極的に行うと共に、大規模な啓蒙活動が必要となるだろう。
●国に求められるのは「投資家保護の制度整備」「市場監視の強化」「税制上の優遇措置」
アンケートでは国が取るべき施策についても質問している。それによると、
・商品内容やリスク(損失の可能性)の説明を強化する等,個人投資家を保護するための制度を整備すること……41.4%
・違反企業や不公正な取引の取締りを強化すること(市場監視の強化)……38.1%
・株式保有や売買による利益に対する税負担を軽減すること(税制上の優遇措置)……26.9%
・納税手続を簡素化すること(特定口座制度の導入)……25.5%
・いろいろな所で株式や投資信託などを購入できるようにすること(販売チャネル(経路))の多様化……17.4%
・金融に関するパンフレットの作成や講演会の開催など(金融経済教育の促進)……11.5%
(複数回答)
という結果が出ている。「投資を避ける理由」のうち「安心感」を確かなものとするための望みが上位に入っているのが特徴。やはりライブドア・マネックスショックを皮切りに現在まで続いている、新興市場全体への不信感(平気で下方修正、新株発行による既存株主の権利希薄化の乱発、インサイダー取引や粉飾決算などなど)がここにも表れているといえよう。この点は、先に述べたように金融商品取引法施行をきっかけに状況が変わりつつあるので、期待したいところだ。
税制上の優遇措置については残念ながら願いと逆行する方向で国の政策が進められているのはこれまでに「証券税制優遇措置」関連のニュースでお伝えしたとおり。一方で特定口座についてはすでに導入されているし、販売チャネルの多様化は(説明責任など投資家保護の問題もあるので限度はあるが)例えば投資信託が郵便局などで購入できるようになるなど、少しずつだが進展しつつある。
以上大きく調査結果のうち2項目から「投資への流れを推し進めるためには」ということについて考えてみたが、やはり結論としては2点、「国に今まで以上に『仕事』(ルールの厳格化、取り締まり強化、保護制度の整備)をしてもらうこと」「正しい情報を広い範囲に告知すべく啓蒙活動を積極的に行うこと」に尽きるのだろう。
データによると2年前と今年の調査結果を比較した場合、株式の保有比率は15.9%から14.6%に減ったものの、投資信託の割合は9.1%から10.2%に増えている。特に個人投資家が好む新興市場における現物株式が大きく値を下げたことで保有比率を低め、比較的成績が好調で購入窓口が増えた投資信託が人気を集めているという事実がこのデータからも実証されている。
「株価が上がれば投資への流れも加速する」という無茶苦茶な空論を展開するつもりはない。むしろ投資に資金が集まるような環境を整備し、資金流入が成し遂げられれば、結果的に株価は高値を維持するようになるだろう。つまり、株価の上昇や投資への資金流入を一義的に求めるのではなく、結果としてそうなるよう、周囲から環境整備をしていくべきではないだろうか。
そのためには国にはしっかりと仕事をしてもらい、企業も個人投資家から「投資したい、株主になりたい」と思われるような事業活動に励まねばならない。SRI(Socially responsible investment、社会的責任投資)の考え方も今後は重要視されるに違いない。
まずは9月に施行予定の金融商品取引法。この法律の施行以降、相場がどのように動き、国や関連団体がどのような姿勢をとるのか、注目したいところだ。
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