時価総額国内第9位の任天堂が打つ買収防衛策とは?
2007年07月24日 19:30
大台といわれていた5万円をあっさりと突破し、今や日本国内企業の時価総額では【NTTドコモ(9437)】についで第9位のポジションを占めている[任天堂(7974)]。7月24日終値の54900円ベースでは時価総額7兆7776億2800万円という計算になる。その任天堂が買収防衛策について「色々と手を打っている」ことが明らかになった。
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これは7月20日付けの日経新聞内コラム記事「回転いす」で任天堂社長の岩田聡社長がインタビューの中で答えていたもの。定款(各企業における「憲法」みたいなもの)などに明記する形での具体的な買収防衛策の導入を任天堂はまだ行っていないが、「有事への対応をきちんとしておけば(特別な防衛策がなくても)十分対応は可能」とコメント。何らかの手立てを打っていることを明らかにした。
【謎の投資ファンド「スティール・パートナーズ」とはその2+三角合併について】にもあるように関連法令の改正で、三角合併による吸収合併が行われやすいようになった日本企業だが、その他にも金融商品取引法の施行で株式公開買い付け期間も延長され、買収提案内容を企業側がチェックする時間が確保できるようになったのもコメントの余裕の現れの一因。
ただ、今年に入ってから相次いで上場企業が導入している買収防衛策の導入について任天堂では「経営陣の保身ととられかねない」と岩田社長は発言し、具体的な定款上における買収防衛策の導入は行わない方針を明確にした。しかし「ノーガード戦法」というわけではなく「色々と手は打った」とも語っている。もちろんその秘策の中身は明かされなかったとのこと。
[楽天(4755)]と【TBS(9401)】の議決権争いから分かるように、買収防衛を確かなものとするためには、20%以上の議決権を特定(敵性)勢力に握られなければよい。【ブルドックソース(2804)】が実施したように「有事の際の第三者割当増資をして水増しし、特定勢力の議決権を薄める」手法を用いないとするのなら、普段から安定株主を増やしておく必要がある。
●優待制度の新設か?
一番単純明快なのは【株主優待制度充実へ・過去最高、買収防衛の側面も】にもあるように、株主優待や配当を充実し、株主ロイヤリティ(忠誠度)を高めること。特に個人株主に対しては有効で、多くの企業が優待を「買収防衛策の一環」として導入している。
幸いにも任天堂にはまだ優待制度は設けられていない。いざとなれば「1株以上で特別色のDS Liteか対応ソフトを、5株以上でWiiか対応ソフトを」などといった優待制度を新設すれば、個別株主はどんな買収策が持ち上がっても手持ちの株を売ることはしないだろう。ただ、任天堂の株主構成を見ると、浮動株数はわずか5.2%しかない。この手はあまり有効ではなさそうだ。
●株価の高値安定か?
次に考えられるのは(間接的な手法だが)株価を高めること。株価が高くなれば買収をするにも多額の資金が必要になる。仮に今日の終値で20%の任天堂株式を握るとすれば1.6兆円もの資金が必要になる。TOBともなればプレミアをのせる必要があるから実質的には2兆円は楽に必要だろう。それこそウォーレン・バフェットが運営するファンド(30兆円)を相当の割合で動員でもしない限り、20%はおろか10%の確保すら難しいかもしれない。
株価を高値で安定させるためには、株主に売りたくないと思わせること、あるいは投資家に買い集めたいと思わせるのが一番。つまり「ここで任天堂の株式を売り払うより、手元にもっていた方が安定した業績アップが望めて、ますます儲けられるかも」と投資家に思わせることが肝心となる。これは次の項目ともリンクするお話。
●大株主に対する安心感の付与か?
安定(友好的)株主の存在は、経営サイドにとっても安心して会社運営を行える保険にもなる。任天堂の株主構成は先の浮動株5.2%以外は外国人43.6%、特定株44.7%、投信4.5%というもの。上位10位の大株主は四季報などで確認できるが、それ以外に結構な割合で海外勢が大株主になっているのが分かる。
これらの株主を安心させて、「買収勢に議決権を渡すより、現行経営陣に引き続き経営をしてもらうべきだ」と思わせるためには、言葉どおりワールドワイドに業務を展開していく必要があるだろう。任天堂が世界展開をしているから株主も海外勢が多いのか、株主に海外勢が多いから世界展開を積極的に行っているのか、あるいはその双方が相互的になのかは不明だが、日本だけでなく世界に顔を向けた良心的な経営展開は、間接的に大株主に安心感を与え、買収防衛策にもつながる。
また海外勢は優待よりも配当を好む傾向が強い(海外では日本の優待品はほとんど役に立たないから当然)。その観点からすると、配当性向の引き下げや利益の拡大により配当の引き上げも、一つの手かもしれない。
●自社株買いや株の持合か?
任天堂にはファミコン時代からの余剰金が大量に確保されいるのはよく知られた話。最新の四季報では利益余剰金の額は1兆2202億9300万円で無借金。2%の利回りでも年間25億円が黙っていても入ることになる。毎年あげている利益全体からすれば大した額ではないが、他の企業と比べればそれこそ鼻血が出そうな額だ。
この余剰金は他企業同様に「まさかの時のため」にキープしてあるもの。しかしこの余剰金を単に現金(やその同等品)として保有し続けるだけでなく、今後買収防衛策の一環として自社株買いや関連企業との株の持ち合いに使わない可能性がないとはいえない。すでに任天堂は自社株を9.7%保有している。この割合が今後増やされることもあるだろう。
結局のところ買収のアクションをとられる企業の多くは、何らかの「買収されるべき」理由を背負っている。株価が低迷していて「のっとって切り売りすれば大儲けできる」と思われるとか、「経営陣が体たらくで資産を無駄使いしているように見える」などなど、スキが甘いと思われても仕方のない場合も少なくない。
孫子の兵法にいわく「もっとも上策なのは戦争をせずに勝つこと。つまり相手方に戦争をけしかけるような気持ちを持たせないこと(最善の勝利は戦わずして勝つこと:戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり)」という文言がある。買収を検討したファンドや投資家らに「多くの株主が満足している。これではいくらプレミアをつけても買収に成功しそうにもないな」と思わせる体制作りとサービスの提供こそが、任天堂の真の買収防衛策ではないのだろうか。
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