日本人の「3人に2人が『がん』になる」「2人に1人が『がん』で亡くなる」・がんの2015年問題とは

2007年07月02日 06:30

医療イメージ部位は異なれど、最近芸能人や著名人が相次いでがんを原因として亡くなっている。当方も本業でがんの話をよく耳にするため、気にならざるを得ない。しばらく前にたばことがんの関係について何度か記事にしたのもそれが一因だが、先日相次いでがんに関する気になるフレーズを耳にした。一つが「日本人の2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで亡くなる時代」、もう一つが「がんの2015年問題」というものだ。良い機会なのでここで整理してみることにする。

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日本人の2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで亡くなる時代

このフレーズは、元々秋元康氏の著書で今秋映画化されるのに伴い連載が決まった漫画『象の背中』という作品で、第一回目の扉ページにキャッチコピーとして用いられている。ちなみにこの作品、肺がんで余命半年を宣告された48歳のごく普通のサラリーマンが、自分の死を正面から見据えて過ごす最後の「とき」を描いたもの(主演は役所公司と今井美樹だそうな)。

元々「日本人の2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで亡くなる」という話は誇張でもなんでもなく、事実以外の何ものでもない。詳しくは【厚生労働省】【国立がんセンター】の各データが詳しいが、例えば【参議院・厚生労働委員会調査室の3月2日付け資料(PDF)】によると、「日本人の2人に1人ががんに罹(かか)り、3人に1人ががんで死亡している」と明記されている。また、昨年の【厚生労働省資料(PDF)】でも、

・日本人男性の2人に1人、女性の3人に1人ががんになる
・日本人の3人に1人ががんで死亡
(男性19万6603人(全死因に対し33.6%)、女性12万9338人(全死因に対し25.9%))


と明記されている。ここで注意してほしいのは「全人口の1/3ががんで死亡する」という意味ではなく「死因のうち1/3ががんである」ということ。ちなみにトリビア的な話になるが、同資料によると2004年の時点でがん関連の医療費は国民全体の医療費の9.6%にあたる2兆3306億円だという。

また、国立がんセンターの資料にもあるように、40歳を越えた時点でがんの死亡率は上昇し始める。

年齢別がん死亡率(2004年、全部位)
年齢別がん死亡率(2004年、全部位)

日本では人口の減少と共に高齢化が進んでいる。年齢が高いほどがんにかかるリスクも(それだけ生き長らえているから)高くなり、体力の問題も合わせて死亡リスクも増える。よって、死亡率そのものは上昇傾向にある(このあたり、次の項目にも関連する)。これを年齢の構成率を調整した上で再計算した「年齢調整死亡率」で見ると、ほぼ横ばいの形になる。

「がんによる死亡率が増加している」という話はよく聞くが、医学で対処できないがんが急増したり、耐性が弱くなっているわけではない(人工添加物摂取の問題や環境汚染などで多少の悪化はあるかもしれないが……)。基本的には単に高齢化により、日本人全体としてリスクが高まっているから、というのが実情だ。

がんの2015年問題

「20XX年問題」というフレーズはよく耳にするが、がん関連でもっともよく聞かれるのがこの「がんの2015年問題」。現在は「日本人の2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで亡くなる」状況にあるというのはすでに説明した通りだが、これが2015年には

3人に2人ががんに罹(かか)り、2人に1人ががんで亡くなる


といった状況になるという。かかる率が16.6%増加し、亡くなる率が16.6%増えるというわけだ。

これは厚生労働省が2002年に発表した「がん生存者の社会的適応に関する研究」2002年報告書に記載されているもので、その一部は【がん生存者の社会的適応に関する研究】にて閲覧できる。また、原文を元にした学術書やレポートは多数製作されているので、そちらでも確認できるだろう。

例えば【2006年に作成された厚生労働省の「がん対策の推進に関する意見交換会」資料(PDF)】によれば、2015年でがん患者は倍増し、以降は2050年まで横ばいで推移する。

ただしこちらも先の項目のように、年齢構成を考慮していない数字であることに注意しなければならない。高齢化が進んでいるため、粗の「がんにかかる率」「がんによる死亡率」は増加しているが、年齢構成を調整した値としては「死亡率は減少」「かかる率は横ばい」傾向にある。


年齢調整についてもっと詳しく知りたい人は、【国立がんセンターの年次推移ページ】を参照してほしい。詳細なデータを確認できる。

ともあれ「がん」は細胞のイレギュラー的増殖というやっかいな病気であるため、他の大多数の病気と違って根本的な解決・根治法が見つかっていない。それだけに、長生きすればするほどかかる率・亡くなる率も高まるため「高齢化が進むと見た目で発病率・死亡率が増える」という現象が起きる。「がんの2015年問題」もまさにそこに端を発するもの。

もし「がんの発症率や死亡率がこんなに高いだなんて」と思っていた人がいたら、まずは安心してほしい。医学の進歩以上にがんという病気が悪性化しているわけではないのだから。

そして一息ついたら心配もしてほしい。年齢構成による調整は必要だが、現在において「日本人の2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで亡くなる」ということや、2015年には3人に2人ががんに罹(かか)り、2人に1人ががんで亡くなる」という状況にいたる推定が出ているのは事実に違いはない(繰り返しになるが意味を取り違えないように。現在なら「死亡原因のうち1/3ががんである」ということ)。

怪しげな民間療法はともかく、今ではがんにかかりにくい生活を過ごすためのアドバイスが山のように存在する。万一(……ではない)がんをわずらってしまうことになっても、早期発見が出来れば生存率はきわめて高い。そのための検査方法も多種多様に用意され環境も整備されている。

さらに治療方法も進歩し、いざとなれば最先端の医療技術を駆使してもらえるだろう。公的保険が利かない高度先進医療を気軽に選択できるよう、金銭的なサポートが受けられる多種多彩ながん保険も用意されている。

まずは事実と情報をしっかりと把握し、現実を見据え、その上で「備えあれば憂い無し」の手を打つ。それが今ひとりひとりができる、最善の対処策といえるだろう。


(最終更新:2013/09/08)

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