「たばこは国家財政に貢献している」という話は本当か
2007年05月28日 06:30
「調査の連鎖反応」という表現が正しいのかどうかは不明だが、一つの事象に関する調べ物をしている過程で類似事項の別件の新事実が分かり、それを調査しているとさらに似たような別の小ネタが見つかる……という連鎖反応が、当方の「たばこ」関係の話でおきている。そのような理由から、今回も「たばこ関連ネタ」を。愛煙家によるたばこ肯定論の一つとして「たばこによる税収は国家財政を支えている」というものがある。これが果たして本当に正しいのかどうか、調べてみた。
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●2007年度の一般会計上の国たばこ税収入は9260億円、地方などと合わせると2兆円強
財務省の資料によると、2007年度一般会計予算におけるたばこ税の税収は9260億円を見込んでいる。これは歳入全体の1.1%に相当する(関連ページ)。ただしこれは「国たばこ税」に限定して、の話。地方たばこ税やたばこ特別税などもあわせると、たばこ税全体としてはこの2倍+αになる。大体2兆円強と概算できよう(【過去データはJTの関連ページを参照】)。
少なくとも租税面で、たばこは毎年2兆円強の「貢献」をしているという計算になる。
●たばこ産業による損失は……!?
それではたばこ産業による損失はどれくらいになるのか。想定される健康被害や医療費、所得損失、さらには清掃や寝たばこなどによる消防費用も概算しなければならないだろう。これについて調べたところ、国立がんセンターの後藤公彦氏が著書『環境経済学概論』内の「5.経済・不経済の判定事例」内で詳細な算出を行っていた。データが10年近く前のものなので、現在との差異が生じているのは承知の上で、あえてピックアップしてみることにしよう。
「環境経済学概論」によるとたばこ産業による経済メリットは合計で2兆8000億円と試算されている。うちわけは次の通り。
■たばこ産業経済メリット:2兆8000億円
・たばこ税……1兆9000億円
・たばこ産業内の賃金……1900億円
・たばこ産業内部留保……1600億円
・関連産業賃金……1700億円
・関連産業利益など……3300億円
これに対してたばこ産業により経済的デメリット、つまり社会コストは次のように試算されている。
■たばこ産業社会コスト:5兆6000億円
・医療費……3兆2000億円
・国民所得の損失……2兆円
・休業損失……2000億円
・消防、清掃費用……2000億円
メリット……2.8兆円
コスト……5.6兆円
∴差引2.8兆円の負担増
(1998年の試算)
コストには当時はさほど問題視されていなかったと思われる副流煙などの受動喫煙による医療費などは考慮されていない。だから実際にはもう少しかさ上げされることになる。
さらに「環境経済学概論」では面白い計算をしている。メリットからコストを引くと2.8兆円。つまりたばこ産業は年間2.8兆円もの損失を国家全体に与えていることになる。これを計算しやすいように約3兆円として、当時のたばこ売り上げ本数の3000億本で割ると1本あたり10円、経済的損失が発生していることに。この損失分を穴埋めして「メリット=デメリットとするには、たばこ1本あたり10円余計に徴税しなければならない」と述べている。1箱20本入りなら200円の増税。値上げによる販売本数の下落を考慮しないとしても、「現行ならば」1箱500円強。試算は10年近く前なのに、現在に当てはめてもリアルな数字に見える。
繰り返しになるが今回挙げた数字は10年近く前の試算なので、現状では多分の誤差が生じているに違いない。とはいえその誤差は、少なくともコスト減の方向には向いていないだろう。それを考えると、「たばこ産業は(国家)財政に大きく貢献している」という話もダウトっぽい、ということになる。
この数字をどう受け止めるかは各自の自由、それぞれの判断にお任せすることにしよう。
(最終更新:2013/09/08)
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