バイオエタノールの需要急増で食料不足懸念高まる・政府も再確認
2007年05月28日 06:30
政府は5月25日、2006年度の農業白書の内容を閣議決定しこれを公表した。それによると、元々食料の自給率が低かった日本にとって、昨今の世界的な人口増加に加え、バイオエタノールの需要拡大により穀物の獲得競争が高まり、将来的に世界的な食料不足が発生しうることを懸念している。同時にこれを防ぐため、日本国内における農業生産力を増やすことが重要だと白書内では述べている(【発表ページ】)。
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白書では大きく次の3つのポイントに分けて解説を行っている
・食料供給量、自給率の向上……生産量の増強や海外との貿易体制の強化。同時に安全な食品の重要性も
・農業と国産バイオエタノール生産の促進……後継者の確保や農業ベンチャーへのサポート、国内バイオエタノールへの尽力
・農村地域の活性化……「地産地消」など都市地域の農業へのアプローチの効果の高さや、農村地域の活性化に向けた連携への模索
●戦略物資となりうる「食料」
すでに何度と無く報じられているように、途上国などでの人口増加や気象変動、そしてバイオエタノールの生産拡大によって穀物需要が増加し、生産増加がそれに追いついていないことから、価格の上昇だけでなく今後は日本への輸出量そのものが減少し、日本の食料事情に影響が広がることを懸念している。
EPA(経済連携協定)やFTA(自由貿易協定)交渉などで食料の輸出入増加の機会が高まり、市場の開放は進んでいることを挙げ、今後食料の輸入は増える傾向にある、と白書では述べている。しかし同時に(オーストラリアで現在進行形のような干ばつなどで)生産量が減った場合、残された農作物はそれぞれの生産国の消費用として向けられるので、輸入に頼りすぎると不測の事態の際には食料の手当てがつかなくなってしまうとして「国策面からの」危険性を訴えている。
●自給率の低下の理由と飼料生産の増強への模索
一方、国内の食料生産事情だが、農家の成り手がいなかったり採算が取れずに農業そのものを放棄する(これらの土地は休耕地になる)傾向が昭和60年以降増加しており、農業就業者数や耕地面積、耕地利用率が縮小傾向にあるという。当然、農作物の生産力も低下し、これが国内自給率の低下に一層の拍車をかけている。
総人口と農業生産関係の数字の移り変わり
農業総生産額の推移
当然、食料自給率の低下にも歯止めが利かず、主要先進国の中では最低水準。穀物自給率にいたっては世界173か国の中で124番目に位置するとのこと。
各種パラメータにおける食料自給率の変移
自給率の低下には「食生活が変化して国内では生産量が少ない食品へのニーズが高まった」のも一因と説明しているが、同時に家畜のえさとなる飼料の生産力向上も重要と説明している。
●バイオエタノール生産ともリンクさせた休耕地の活用
白書では食料生産やバイオエタノール用の植物生産、飼料の確保のために休耕地を企業に貸し出すなどして飼料用や燃料用の稲などを育て、いざ食料輸入がままならない事態が生じた時には食用に転じるなど、「万一の事態に備えた仕組み」も提案している。
これまでのバイオエタノール関連や廃棄野菜の論議にもあるように、今回の白書でも「人員・人材不足」や「コスト問題」が大きなハードルとして存在しているのが分かる。
「土地はあれだけ余っているのだから、採算が取れれば多くの人が農作物の生産をするはずなのに」というのが白書で語られている政府側の目論見なのだろう。アメリカで多くの農家が「とうもろこしはバイオエタノールで需要が急増して高値で売れるから、転作して儲けよう」という動きに出ているのを見ると、日本ではわらくずなどを用いたバイオエタノールの精製技術を打ち出すことで似たような図式が生み出せるのかもしれない。
つまり「休耕地を中心とした指定個所で栽培した稲などからのみ原材料として買い取る」仕組みを導入し、政府がそれなりの上乗せをした価格で原材料として買い取り、バイオエタノールの精製に用いる。通常は燃料用の材料が確保できるし、緊急時には食料にも転用できると一挙両得な気がするのだが、どうだろうか。単に何も生み出さない休耕田などに補助金を出すよりは、よっぽど役に立つと思われるのだが。
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