「雑草からバイオエタノール、ならアレも!?」……読者から投げられた「これってどうよ」とは?
2007年05月08日 19:35
左メニューの「特選記事」項目の一つにもあるように、当サイトでは有機化合物から精製されるエタノールによる燃料ことバイオエタノール(バイオ燃料、バイオガソリン)にも注目している。先日読者から、そのバイオエタノールに関する問い合わせがあった。いわく「畳(たたみ)の廃棄物をバイオエタノールの原材料として使えないか」というものだ
スポンサードリンク
管理人は自動車持ちで無ければ自動車関連・化学に関する仕事に従事しているわけでもない。ましてやその方面での博士号も持っていない。自慢ではないが高校では化学の成績があまりにもアレなせいで理系の大学受験を断念したほどだ(自爆)。だが不思議なことにバイオエタノールに関する情報収集には興味を引かれ、いつのまにやら【特設ページ】まで出来てしまった。これもひとえに「物好き」だからなのだろう。「さとうきびやもろこしから燃料が出来るなんて、面白いじゃない!」というのがホンネかもしれない。
「畳の廃棄物をバイオエタノールの材料に使えないか?」
それはさておき。読者からの質問は、【ホンダ(7267)、雑草を材料にバイオエタノールを製造する新技術を開発】の記事を読んで、とのことだった。掲載許可が出ているので、ほぼ全文をここに引用する。送ってきたのはハンドルネーム「たたみやさん」。
「雑草からバイオエタノール」と言う記事を見かけて、ピン!と来ました。
畳業界に身を置いている私としては、廃棄されるべき「藁製畳床」「畳表」「製作過程で出る藁クズ・ヒゲ(畳表の切り屑)」は原料として利用できないか?
全国規模で見れば、相当数の廃棄料があると思われます。
実際、廃棄法としては、細かく裁断して処理施設に引き取ってもらうか、ばらして畑に利用(大量に利用しない)と言う事になります。
山奥の畑などで燃やしてしまう方もおられると思うし。
畳店側も処分には手が掛かっているはずですし。。。
ネットで検索しても、どこに提案したらよいか分らんし。。。
これを読んだ博識の方、ど~思われます?
この記事を読んだ「博学」の方で「こうですよ」という意見や情報をお持ちの方は、是非とも当サイトまでご連絡を。以上、おしまい。
……ではあまりにも情けない。そこで当方も経験則と「検索力」で色々と調べてみた。
質問の概要は要するに「畳のごみは非常に邪魔。量も多いだろう。使い道がない。構成材料は雑草みたいなもの。だったらバイオエタノールの材料に最適では」というもの。
例えば水害などで住宅が水浸しになったあとの被災地を見ると、使えなくなってまとめて廃棄された畳の姿を良く見かける。あれなど代表的な「捨てられるだけの畳の廃棄物」といえよう。なるほど、確かにまとまった量の「い草」ではある。
環境省の資料で調べてみる……廃棄畳は毎年300万枚以上
畳の廃棄物問題は、「たたみやさん」が指摘しているように、実は過去から色々と物議をかもしていたようだ。【環境省による2003年度の調査報告書(廃棄畳に含まれる有害化学物質による環境影響等調査)(PDF)】によると、
・廃棄畳は飼料や堆肥によるリサイクルに使われるのが中心。
・しかしその飼料から有害物質が多数発見された。
・住宅解体現場ではほとんど廃棄物として処理される。
・わら以外の材料で出来た畳も、廃棄物にされる時には混合されたまま。
・廃棄畳はリサイクルされたりセメントの原燃料として使われる。
・【大建工業(7905)】におけるリサイクル率は82.4%
・公団における年間5000戸、今後10万戸以上の解体にともない、廃棄畳も大量に排出される。
・自治体では廃棄畳のほとんどは焼いて処分。化学製品を用いた畳は受け入れないところも多い。
・居住環境の変化から今後畳のニーズは減り、化学畳の生産が増加している関係で、い草使用の畳の利用率は減少する。
・今後15年の間に毎年300~500万枚の畳が廃棄処分されると推測。
・研究調査の結果、「適切な焼却処理をすれば」畳の燃焼による有害物質はほとんど問題がないと思われる。
などと報告されている。ここで特に注目したいのは次の三点。すなわち「住宅の買い替えで毎年300万枚以上の畳が廃棄処分される」「現在では燃やされたり飼料・堆肥によるリサイクルが中心」「植物原材料の畳は減る傾向」。
廃棄畳を原料とする飼料や堆肥のニーズがどれほどあるのか、費用対効果はどうなのかまではレポートには記載されていなかったが、仮にこの1割でもバイオエタノールの原材料として「雑草のように」使えれば、それなりのボリュームを定期的に供給できることになるだろう。
廃棄畳はバイオエタノールの原料として有望なのか……問題点を挙げてみる
少なくとも15年間は安定供給が望めるであろう「廃棄畳」をバイオエタノールの原料として使う。願ったりかなったりな気もするが、問題点もそれなりに存在する。
(1)技術はまだ研究段階
まず最初に、先の記事にもあるように[ホンダ(7267)]が開発したとされるRITE菌によるセルロースとの反応でバイオエタノールを得る技術は、まだ研究段階にあること。「今後実証実験を計画している」というリリース表記にもあるように、どこまで生産効率が高いのか、精製コストはどれくらいなのかという、科学研究レベルではなく商業レベルでの問題解決が残されている。
(2)廃棄畳には原料にならないものも多く含まれる
次に、環境省のレポート内でも語られていたが、最近の畳にはい草だけでなく断熱材や建材ボードも材料として使われるものが増えている。これらはもちろんバイオエタノールの原料として使えない(有機化合物ではない)ので、分解してより分ける必要がある(【参考:三角畳店】)。ごみの処理問題同様に、分別というのは非常に大きな障壁となる。下手なものが混ざっていると、精製機器そのものが傷んでしまうかもしれないからだ。さりとてより分けには手間とコストがかかる。このコストをどうするか、という問題も生じる。
(3)コストの問題
さらにコストといえば、輸送・精製コストがかかる。よほどのことが無い限り、採算ベースにあわないと事業はスタートしない。一枚の廃棄畳を回収してかかるコストや時間と、そこから出来るバイオエタノールの量を比較して、「割があうのかどうか」を考えた場合、工場が全国各地に点在する状況にない今の段階では、難しいといわざるを得ない。この「原料の輸送コスト」の問題は、野菜廃棄問題や先の【バイオガスの問題】にも登場する、エコロジーエネルギーには必ず登場する、やっかいな問題である。
他にも「今後供給量が減少することが確定しているのに、大規模な注力をする必要があるのか。むしろ【海藻(かいそう)でバイオ燃料問題が一挙に解決!? 東京海洋大や三菱総合研究所などが計画】のように積極的な生産増加を行える原料に力を注ぐべきでは」という意見が出てくるだろう※。もっともこれは「廃棄畳のみに対応するバイオエタノール精製工場」ではなく、「廃棄畳も精製できる工場」を創るなど、汎用性を高くすればある程度クリアできる問題かもしれない。
以前野菜の廃棄問題でも触れたが、トラック一台レベルの大きさにまで簡易的な精製プロセスを圧縮できれば、「バイオエタノール精製巡業:「環境省」組」などというツアーを組んで全国行脚も可能だろう。
当方のちっぽけな脳みそをフル回転させて考察した限りでは、廃棄畳によるバイオエタノールの精製というアイディアは、よほど精製変換率が高くない限り採算ベースに乗せることは難しそうだ。何らかの技術革新(それこそ先の「トラック巡業精製工場」のような)がなされなければ、利用はかなわないだろう。
しかし「あまり有効に活用されていないものを新技術にマッチングさせて新たな価値を見出そうと考える」という発想は非常に素晴らしい。妄想に近いアイディアでも100個投げかければ1つくらいは素晴らしい成果を生み出すかもしれない。そして少なくとも「まかぬタネは生えてこない」のである。
また、今件のように「難しいね」という結論が見出されたとしても、この結論までの過程は決してムダではなく、今後何か別の機会に活かされる可能性は十分にある。そのままの形はもちろん、別のアイディアのヒントになるかもしれない。
※ちなみにこの「海藻でバイオエタノールを」の件だが、学会の後に関係法人や研究所などに問い合わせたが「資料無し」「学会で発表したのでペーパーやネット上で公開するつもり無し」などけんもほろろな結果となり、続報をお伝えできない状態。非常に残念。
(最終更新:2013/09/08)
スポンサードリンク
ツイート