再生紙にバイオエタノールに割りばしに……本当の「地球に優しい」を考える
2007年05月02日 19:30
先日各メディアで話題になったが、製紙業界の再編問題で投資家の間でもその名前が飛び交った【日本製紙(3893)】で4月24日、【実は古紙100%の再生紙が地球に優しくはない】という主旨のリリースを発表し、話題になった。このニュースを耳にし、似たような「見た目は環境に配慮してるけど、実際には違うのでは」という話がいくつも頭に連鎖的に思い浮かんだので、ここで簡単にまとめてみることにする。
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●「古紙100%」は実は環境の地球に”厳しい”
日本製紙のリリースによると、完全再生紙である古紙100%配合紙は「地球環境に配慮すると廃止するのが望ましい」という。これは「100%配合紙にすると不留まりが低下する(失敗作が多くなる)」「古紙100%配合紙は配合していない紙と比べると、製造過程で化石燃料(石油など)を使って生じる二酸化炭素の量が増える」の2点が理由。
日本製紙リリースより、古紙配合による二酸化炭素排出への影響。横軸が古紙配合率。古紙100%の場合、「化石燃料による」二酸化炭素排出量が多い。
「同じ二酸化炭素だから変わらないのでは」という意見もあろうが、「化石燃料」は基本的に使用したらそれきり(再生されるまでに数千万年から数億年かかる)。それに対し「非化石燃料」(例えば推力、地熱、バイオエタノールなど)は次々に再生されるので、「食い尽くしてしまう」ことがない。それに、不留まりによる廃棄率を考えれば、単純な二酸化炭素排出量の点でも「100%古紙が地球に優しい」とはいいきれなくなる。※
以上の点から、日本製紙では古紙配合比率を一律に決めるのではなく、用途に応じて適切な割合を決めて古紙パルプを使うことに決めたという。ちなみにこの「新スタイルの古紙」を同社では「グリーン・プロポーション再生紙シリーズ」と呼ぶのだという。
日本製紙の決定は「古紙の再利用をすれば地球環境に優しいと思っていたが、よく考えて計算すると一概にそうも言い切れない」という結論によるもの。見た目、思い込みで決めてしまうと、真実を見逃してしまいかねないという好例だろう。
※京都議定書でも化石燃料から発生する二酸化炭素の削減を求めている
●他にもある「優しいようで実は厳しい」ものたち
[1]バイオエタノール
【特設ページ】も設けているが、有機化合物から精製されるバイオエタノールやバイオ燃料が、今「環境に優しい」として注目を集めている。二酸化炭素を吸収し酸素を吐く光合成を行う、植物などを原料にしているので、この植物から出来た燃料を燃やして二酸化炭素が生じても、排出量を計算上ゼロに出来るという考え方からくるものだ(化石燃料などと比べて、ということ)。
ここで勘違いしないでほしいのは、「バイオエタノールを燃やせば二酸化炭素は出ない」わけではないということ。化石燃料から作られるガソリンなどと同様に、燃やせばもちろん二酸化炭素は出る。ただ、足し引きを考えた時に、バイオエタノールが有利、という話。
それに、先日販売が開始された「バイオ燃料(バイオガソリン)」のように、わざわざ遠くから燃料を大量に消費するタンカーで運んできた場合、二酸化炭素の足し引きをするとどう考えても「地球環境に優しい」とは思えない。今回の場合はデモンストレーション・啓蒙活動の意味合いが強いから仕方ないのだが。
またバイオエタノールについては思わぬ問題も生じている。原材料のとうもろこしの値段が急騰し、商業的に儲かると判断した農家が続々と他の農作物の苗付けをやめてとうもろこしの栽培に走り、とうもろこしだけでなく他の農作物の価格まで上昇する状況が生み出されている(【ジュースの値上げ、非遺伝子組み換え食品の調達難~バイオエタノールの功罪】)。「燃料か食糧か」、これはある経済紙のトップを飾ったコピーだが、あながち冗談にならない話となりつつある。食糧問題が深刻化すれば、地球環境など二の次とされる傾向が強まるのは必至で、結局のところ「地球環境に優しくない状況」が生み出されてしまう。
バイオガソリンもその肯定や生み出している状況までひっくるめて見ると、「地球環境に優しい」とは言い切れなくなってしまうのが現状だ。
[2]割りばし
だから割りばしは「地球に厳しい」!?
では割りばしとして使われなければ
その廃材はどうなった?
これは逆の意味で「地球に優しい」話。割りばしは「木材を使い捨てで利用するからもったいない、地球に厳しい」という、ぱっと見の印象だけで判断し、非難をする人たちが多いせいか、肩身が狭い思いをさせられている。しかし実際には【ローソンで「ケータイお箸(はし)」利用促進運動開始】などでも説明したように、元々は「木工製品の廃材で作られた、むしろ「エコロジカルな商品」であった」。
量産化が必要になって海外に原材料を求めたところ、その海外で「割りばし専用の木材を求める」がために森林を伐採する羽目になった。しかし結局その木材自身が高騰して採算が取れなくなるというオマヌケなお話が現在進行中の状況。「割りばしは地球環境に悪影響を及ぼすから使ってはいけない」と一律で決め付けたのもおかしなことだ。廃物利用という考えを否定していたのだから。
しかし海外、特に中国産の「割りばし用木材」が高騰して使えなくなり、国内の廃材や余材による割りばしが(価格的に)採算が取れるようになれば、また割りばしへの認識も改まるのだろうか。
●まずは認識しよう、そしてじっくり考えよう。決して見た目に惑わされないように
古紙にしてもバイオエタノールにしても割りばしにしても、「地球に優しいことをしなければ」という思いから来たもの。問題提起をして物事を真剣に考えるのは決して悪いことではない。まずは気が付き、考えなければすべては始まらないからだ。
そしてその上で、ミスリーディングされない・しないよう十分配慮を重ねて考え、よりよい道を模索した上で実行する。もし間違いに気が付いたら直ちに修正する。「地球環境」という壮大な相手であっても、一人一人ができることから考えて実践する。その考えが一番大切なのだろう。
【マイボイスのアンケート調査】によると、地球の環境問題や温暖化について危機感を感じている人が「非常に」「それなりに」をあわせて9割近くを占めているという。また、具体的に「冷暖房の温度設定の変更」「電源や水道などの節約」「レジ袋や過剰包装への配慮」「クールビズ・ウォームビズを心がける」など、自分で可能な範囲でまず環境への優しさを実行するという人がかなりの数に登っている。すべての人がもっと真剣に考えて本質を見つめ、そして手の届く範囲で気をつけ、実践すれば、もっと地球環境もよくなっていくに違いない。
もちろん各分野の研究者や政治家などの専門家には、真剣な検証を重ね、一人一人の「実践」が間違った方向に進まないよう、正しい道しるべを示すべく、努力を続けてほしいものである。誰もが皆、見た目や第一印象に惑わされ、本質を見抜けないことの無いように……。
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