仮説と現実、既知の事実……楽天三木谷会長が示すネット業界「9つの”仮説”」

2007年05月19日 12:00

株式イメージ[楽天(4755)]は5月17日に決算発表会を行ったが、その中で同社社長兼会長の三木谷浩史氏は、日本国内のインターネット・メディア業界が今後迎える状況について、仮説と銘打ち、「9つの仮説」を示した(『参考:@IT』)。三木谷氏はこの仮説を「若干時間がかかるかもしれないが必ずこうなる」と強調したという。

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三木谷氏が示した「9つの仮説」は次の通り。

1.日本ではFTTHが急速に普及し、放送と通信の垣根は著しく低下する(テレビがネットにつながるのが当然に)
2.消費者のロングテール化が進み、パーソナライズされたコンテンツの需要が高まる
3.消費者の多様化が進展し、広告のロングテール化の必要性が高まる
4.コミュニケーションがよりエンターテインメント化し、一方向のディストリビューションのみでは価値が大きく低下する
5.ネット広告収入とTV広告収入との差が縮小する
6.広告に対するクライアントのROI※評価が厳密になる
7.日本のコンテンツは世界で通用する
8.著作権についての考え方が大きく変わる
9.TV+ネット(PC)+携帯を総合的に活用することで、より有効なメディアビジネスが展開できる

※ROI:Return On Investment。投下した資本がどれだけの利益を生んでいるのかを測る際に使われる基本的な指標


三木谷氏はこの「仮説」の元に、「コンテンツ・マーケットの確立」「マス向けコンテンツと(それぞれのニーズにあわせてターゲットを絞った)ロングテールコンテンツの両立」「ストリーミング、ダウンロードの徹底活用」「海外に対するコンテンツ配信」という今後の楽天の4戦略を導き出したと発表している。さらに「ロングテールコンテンツ」という言葉については「自分が創った言葉」と述べた。

「仮説」という形で語られた9項目であるが、どう考えてもすべてすでにおきていること、あるいは現在進行形で起きている事実に過ぎない。「現状認識」なり「環境分析」ならともかく、事実を「必ずこうなる」と強調して、まるで自らが予言した、あるいは導き出したように語るのは、その事実をまったく知らない人には効果があるのかもしれないが、既知の人に対しては「?」マークが頭に浮かぶどころか猜疑(さいぎ)心さえもたれてしまうのは言うまでも無い。

例えるのなら当方が「携帯電話は多くの人に受け入れられている」という事実を自前サイトのアクセス解析結果や各種報道資料から「説明」「解説」するのならともかく、「仮説」として表明した場合、その話を受け取った側はどう思うだろうか。

「自分の知っていることがすべての人にも知られているとは限らない」(だから語る相手の情報の習得レベルに応じて説明や解説を加える必要がある)という言葉はよく耳にする。決算説明会という環境においては、自社の戦略を多くの人に知ってもらうため、掘り下げた、わかりやすい説明をする必要があるだろう。

特に自社事業に関連することがらついては、多くの株主に理解してもらい、賛同してもらう必要があるため、かみ砕いた解説をしなければならない。ましてや耐久消費財のような分かりやすい商品ではなく、ネット事業という分野を主力事業としている楽天としては、それこそ「講釈師」や「伝道師」のように語る必要も生じるのかもしれない。

とはいえ、多くの人にとってすでに「既知の事実」を「自前の仮説であり、当社はこの仮説に基づいてダイナミックに事業を展開していく」と語る姿には、(楽天の株主でない以上他人事ではあるが)少々の小恥ずかしさを感じざるを得ない。


(最終更新:2013/09/02)

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