【更新】あの大先生がはるか昔に提唱!? 架空人物を対象にマーケティングする「ペルソナ戦略」
2007年04月07日 19:30
<[産経新聞]に気になるマーケティングの話が掲載されていた。ウェブサイトデザインをする際に、架空の対象者「ペルソナ」を想定し、その人物が好むものを創り上げていくという「ペルソナデザイン」という手法だ。アメリカではすでに主流の手法で、日本でも最近認知されだしているとのこと。
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●一人は大勢を代表し、その一人に的を絞る。それが「ペルソナ戦略」
詳細は元記事を参照してほしいが、要は「架空の顧客モデル”ペルソナ”を作り出し、その顧客がもっとも喜ぶ商品(ウェブサイト)を作る。するとピントがボケずにスマートな商品が形成されるため、多くの人に受け入れられる」というものだ。『ペルソナ戦略 ―マーケティング、製品開発、デザインを顧客志向にする』という本で紹介された事例では、【大和ハウス工業(1925)】がこの手法を用いてウェブマーケティングなどをしたところ、サイト会員数は5倍に、販売棟数も順調な伸びを示しているという。
もちろん「ペルソナ」が明後日の方向に行っては意味がない。そのため、「ペルソナ」作りにはじっくりと手間をかけるとのこと。そりゃそうだ。戸建販売企業のマーケティングに用いる「ペルソナ」に、すでに一戸建て住宅を持っている人を設定しては意味がない(いや、そこをあえて設定して「買い替え」や「別荘」「リハウス」をアプローチする企業戦略を見出すという手もあるか)。
顧客を平均化した具体像を「ペルソナ」として創り上げ、多くの人を対象としうる大まかな範囲を特定個数で絞り込んで具象化する。その対象へのアプローチは一つに対してだから、アピールの仕方も簡単。「十人十色」という言葉があるくらいだし、百人ならばそのさらに十倍。その百人に営業をするよりは、やはり一人に営業をした方が楽なものだ。その一人が「百人、それ以上を代表」しているのなら、これほど便利なことはない。
非常に興味深く、参考になる思考方法といえるだろう。
●すでにあの人が「ペルソナ戦略」を体系化していた……?!
と、元記事を読みながら感心していくうちに、あることが頭にひっかかった。元記事では「1999年にアメリカで理論としてまとめられた」とあるが「もっとずっと前に見たことないか、この話?」と。
色々調べてようやく分かったのが、漫画家藤子不二雄氏による短編作品「並平家の一日」だ。現在では『藤子・F・不二雄SF短編PERFECT版(5)』で読むことができる。
この作品の主人公一家は苗字を「並平」という。世帯主は45歳の会社員で中流意識を持つサラリーマン。妻と長女・長男を持つ四人家族。本人たちはぼんやりと「自分たちは中流なんだな」と思っているが、実は彼らが思っている以上に、彼ら一家こそが、日本のすべての家庭の中でもっとも平均的な傾向を持っていた。そこに気が付き目をつけたある機関が、彼らに匿名で、あるいは偶然を装い色々な「プレゼント」という名の新開発商品などを提供し、世間一般の反応を知ろうとする。彼らは何の疑いもなく、ただプレゼントを喜んで受け取り、あるいはその内容にがっかりする……
「ペルソナ戦略」はあくまでも架空の「平均的顧客像」を想定するわけだが、この「並平家の一日」では(物語上で)存在する「ペルソナ戦略の対象」を元にマーケティングが行われている。彼らに届けられた商品が好評なら市場でも大ヒットするだろうし、どこそこが使いにくいと不平をもらしていれば、そのポイントを修正することで多くのクレームが事前に回避できる。もちろん彼らはその機関にすみずみまで観察されていることを知らない。知ってしまったら「市場調査」という点で、すべてがお釈迦になるからだ。
実際にはこんな都合の良い一家など存在しない。が、「平均化した対象にマーケティングを行い、多くの人への市場調査への代用とする」という考えは、「ペルソナ戦略」そのものといえるだろう。
この「並平家の一日」、何度と無く再販・再編集されているが、初出は昭和53年8月10日([参考:藤子不二雄ギャラリー])。奇しくも当方(不破)の誕生日(年は違うが)。1978年だから「ペルソナ戦略」が体系化される20年以上も前のことになる。
まさに「恐るべし、藤子不二雄先生」というところだろう。
(最終更新:2013/09/11)
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