JTの重役曰く「禁煙すると長生きするから医療費が増える」

2007年04月03日 12:30

たばこイメージ【がん保険に入りました】や日々の市場雑感でちらほらと触れているようにいくつか仕事上の資格を取得した関係で、最近これまで以上に経済や医療、保険関連へのアンテナを張り巡らす必要が生じてきた。そのためか、最近経済週刊誌の特集にちょくちょく目を通すようになり、購入冊子の経費が増え、頭の痛い今日この頃である(笑)。さて、直近で興味深かったのは【週刊東洋経済】の特集、「不都合な『たばこ』の真実 ガンの嘘」号。たばこの害を中心に、日本国内にまん延している「がん」に関する虚実と、たばこの問題点やがんとの関連性について、さまざまなデータと共にまとめあげたものだ。機会と要望があれば日をあらためてまとめるつもりだが、この記事の中で非常に気になる発言があった。半ば槍玉に挙げられた【JT(2914)】の役員による「禁煙すると長生きする、そうなると医療費が増えるじゃないか、政府の医療費削減の方針に反することになるんじゃない?」という主旨の発言。

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「禁煙すると長生きするけど医療費増えるでしょ?」

具体的には該当号(2007.3.24号)の58ページ、インタビュー記事「カネの出所がどこであっても研究内容で判断するべきだ」。本文で「たばこの問題を本来中立的に研究すべき立場の研究機関に、たばこを販売しているJTが資金を出すと中立性が失われる」という主旨の展開をしているのに対してのJT側の意見を載せたもの。答えているのはJTの常務執行役員の佐藤誠記氏。

文中では「たばこはリラックスなどの効用がある。肺がんなどの一因であることは分かっているがそれだけが原因ではない。たばこを規制すればそれで済む問題ではない」「たばこが有害なんておかしいという学者もたくさんいる」などとした上で、医療費とたばこの問題について次のように述べている。

ニコチンの依存性治療についてもおかしいと思うところがいろいろあります。そもそも依存性治療は何のために行うのでしょうか。どんどん上がる社会保障費を減らしたい、そのために予防に転換するのだと政府は言っています。だから、禁煙することによって病気を減らす、それによって医療費が減るでしょうという考えがベースですね。

しかし、本当に喫煙者率が減ると医療費は減るんでしょうか。私は医療費は増える可能性のほうが大きいと思います。たばこによる超過医療費は1兆3000億円と試算されていますが、では、もし禁煙して病気にかからなくなりました、長生きしましたとなったとします。そうだとすると、長生きした期間に当然何かの病気になりますよね。年金も当然かかりますよね。さっきの超過医療費の計算には、この潜在的節約分は入っていません。

すると、その分を入れて計算したらどうならかが問題になるわけです。米国の医療経済の専門家は短期的には医療費は増えるが、長期的にはむしろ増加すると言っています。


たばこイメージつまりまとめると、「政府は医療費減らすために禁煙しろというけれど、禁煙したら(肺がん率が減るので)長生きして医療費も年金も余計にかかる、だから節約にならないじゃないか、いやむしろ余計な出費になるよ」とし、暗に「禁煙しても余計に金かかるし良いことなんてない(。禁煙しなくていいから)」と主張している。

一応政府の目標である「社会保障費、医療費を減らす」という大前提を旗頭にかかげてはいるものの、「長生きしたら金が余計にかかるから良くない」という主張を、上場企業の重役役員が堂々と行うとは、まったくもって貴重な意見という表現をせざるを得ない。さらにこれがよりによって「たばこ」を製造販売する会社の役員なのだから恐れ入る。

確かに自社商品そのものの存在意義を否定するような意見には対抗したくなる、という気持ちは分からないでもない。とはいえ、「あなたの健康を損なう可能性があるのですいすぎに注意しましょう」とパッケージに注意書きをしていることなどからも分かるように、たばこの問題を自認しておきながら、お金と健康の問題をすり替え、消費者に「早死にしてね♪」とも受け取れるような主張を行うのはいかがなものだろう。

一言で表現すれば「お前がいうな」だろうか。

タミフルの件を思い起こさせるタバコ研究者への助成金

また同文中では(本文中に相対する形で)「研究機関へのカネの出所がJTだから問題というのはおかしい。JTの意向を聞いてその通りに研究する先生方がいるとは思えない。中身が悪ければ当然批判するが」と述べている。最近抗インフルエンザ薬タミフルの研究で、まったく同じパターンがあった記憶があるのだが、どうだろう。

研究グループが、片方の意見の中心である勢力にスポンサードされることは、その勢力がどう反論しようとも、第三者から見れば「加担しているのでは」と疑われても仕方がない。また研究グループの心境としても「ああは言っているけれど、もし都合の悪い研究結果を出したら何か別の理由をつけて研究費を減らされるかも」と、心境的な判断材料の一つになるのは間違いない。

例えばJTが「以後30年間毎年幾らの研究費を出します。内容に一切口は出しません」と書面に確約してそれを公開するのならともかく。都合の悪いことでも問題ないとし、「中身が悪ければ」批判する、とはいうが、その「悪い」という判断が公正明大中立かどうかは神のみぞ知る話である。

そもそも「ヒモ付き」とはそういうもの。お金を出していること自体、すでにそれが無言の「意見、圧力」となっている。善意であっても、だ。

このあたりは以前「ステルスマーケティング」でも論じられた、「関係の深いスポンサーによる援助がある話はフィルターがかかっているものとして見られてしまう」「だからこそ、お金の関係が分かった時の反発の強さは通常に倍するものとなる」あたりの雰囲気が感じられる。

あるいは、直上で例に挙げたタミフルの例とあわせて考えて、「意見、圧力」の意味がないように、「JTがタミフル関連の研究グループに、中外製薬がたばこ関連の研究グループにそれぞれ研究費の援助をする」というようなクロスオーバー的な研究費のサポートを行う仕組みを設けることができれば、世間一般の「疑惑の目」は解消されることだろう。もっとも、JTがタミフルの研究に資金を出すのも門外漢な話で、(社会貢献という意味はあっても)それはそれで株主から「ムダ金を使うな」とたしなめられるのがオチだろうが。


事実、がんが発症するリスクは長生きすると増える。これは理屈の上からも明らかで、理屈としては「宝くじを買い続ける回数が多いほど一等が当たる可能性が高くなる」のと同じ。間違ったことは何も言っていない。

とはいえ……。やはり「そのような主張は控えるべき立場の人の発言だよな」という雰囲気はあるのだが、いかがだろうか。


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