「証券優遇税制廃止してれば7800億円超の税収増」にダウト!?
2007年03月27日 12:30
【「給料が上がらないのは人件費を減らして利益を上げねばならないから」のカラクリにダウト!?】【携帯しか使えないと「下流」なの? 「下流携帯族」論にダウト!?】に続く、ダウトシリーズ第三弾(勝手にシリーズ化してる)。先日朝日新聞(asahi.com)に掲載された【証券優遇税制廃止の場合、年7800億円超の税収増】にずばり、ダウト!
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証券税制優遇措置とは、【政府税調は証券優遇税制の廃止を答申、日本証券業協会は延長を要望】などにもあるように、日本の株価が下落していた際に貯蓄から投資への流れを促進するためと景気対策のため、上場企業の有価証券売却益や配当益に対する課税額を通常の20%から10%に軽減した時限立法措置のこと。2007年度中に期限切れを迎えるはずだったが、景気の回復が今ひとつということで、激しい論議の中、結局1年延長して2008年度末に期限切れと改定された。
●朝日新聞いわく「金持ち優遇の証券税制優遇措置で7800億円の税収損」
今回asahi.comに掲載されたのは、次のような論旨。詳細はリンク元をたどってほしい。
・証券税制優遇措置が仮に2007年度末で終了していれば、2008年度末までの間に、
国税……配当2584億円分、売却益3691億円分
地方税……配当益646億円分、売却益923億円分
計7844億円分。この試算を財務、総務両省が行った。
・試算外の売却益確定申告分も含めれば、税収規模は1兆円前後。
・つまり当初の予定通りにしていれば、1兆円規模の税収増が見込めた。
・これは国、地方の税収の1%に相当する。
・証券優遇税制措置は金持ちに恩恵が集中しているとの指摘。
・だから「金持ち優遇を延長させたから国の財政が悪化して、市民が痛い目にあってるじゃないか」との主張。
とのことだった。「証券税制優遇措置の撤廃で少なくとも7800億円、1兆円の税収変化? そんなの初耳」というのが第一印象。インパクトとしては強烈極まりないため、総務省なり財務省が発表していれば、アンテナにひっかかっていたはずだからだ。
●「7800億円」のソースはどこ!?
ところが元記事を良く調べると、具体的にいつ、どのような形で総務省・財務省がこのようなレポートを出したのかが記載されていない。証券税制優遇措置についてはあれだけ騒がれていたのだから、このような数字が出ていれば、必ず両省がレポートを出しているはず。しかし見つからない。
レポートは見つからなかったが、代わりに見つかったのは、共産党の【しんぶん 赤旗】における記事。これによると同党の大門実紀史議員が参議院予算委員会で尾身幸次財務相に対し、証券税制優遇措置について問いただし、「一つの試算」として、尾身財務相が
証券優遇税制で国税の株式配当分で二千四百億円、株式譲渡益分で三千六百億円の合計六千億円の減税となることをはじめて明らかにしました。
とある。さらに「地方税分の千五百億円、別に減税となる申告課税分を含めると七千五百億円以上の減税です」と記事側では付け加えている。ソースはここであった。
●さらにソースをたどる。動画でチェック
ただ、これではまだはっきりしない。そこで【吉田茂・元首相の「バカヤロー」発言も! 国会でのやりとりを一発検索「国会会議録検索システム」】でも紹介した、議事録検索を用いてみる。が、なぜか3月13日と3月15日のものは収録されているものの、肝心の14日の議事録が見当たらない。
これでは納得がいかない。果たしてこのような発言がなされたのか確かめる必要はある。そこで【参議院インターネット審議中継】を用いて、当時のデータを捜してみた。
3月14日には本会議以外に予算委員会などがきちんと行われている。そこで、【データの一覧】から、該当する【大門実紀史議員の質疑応答部分(WMP)】部分を確認してみることにする。
ちなみにこういうやりとりの場合、あらかじめ「このような質問をしますよ」という情報を発言者は質問対象側に受け渡し、受ける側はそれに基づいて事前調査をし、当日にすぐに答えられるようにする。尾身財務相がすらすらと答弁できたのもこのおかげ。
尾身財務相「制度の改廃ではないため従来からの考え方に従い、その増減税収額を計上していない。一年延長せずに廃止した場合の増収額は、延長したことによる減収額になるのではないかとの質問だが、株式譲渡益については株価や取引高は予想できず、いつどの程度の額を売買するかは資産状況などを踏まえた個人の判断によるから、過去に改正を行った際においても影響額は見積もっていない。
ただ、地方税についてはある程度試算、地方税の源泉徴収分1500億円、が総務省によってできており、これを元に国税を機械的に試算したとすれば、国税の株式配当分で2400億円、株式譲渡益分で3000億円になるという計算ができる」
大門議員「試算としてはじめて数字が出た。国税で約6000億ということになると、地方税のを足して7500億円というのが一つの推計。国の推計としてはそれでよろしいか」
尾身財務相「私ども(財務省)としてはそういう計算、試算をしていないが、総務省の試算からそういう推計をすると、そういう数字になる」
大門議員「総務省の試算とそれを元にした財務省の試算。これには株式譲渡益の申告課税分が含まれていない。それを考慮すると7500億円以上になると思うが」
尾身財務相「先ほど申したようにこれはあくまでも諸種の影響を査証して計算した総務省の計算であり、機械的な試算であって、改正増減収とは異なるもの。特に株式の譲渡益については、将来の株価や株取引は予想できないということから、先ほど申したとおり、過去に改正を行った際においても、影響額は見積もっていない。理解してほしい」
大門議員「分かりました。我が党の試算では7500億円を超える試算をしているということです」
要は変動パラメータが多すぎて一概に増収減収といえない、総務省の元データを使い機械的な試算はしたが、状況による影響が大きすぎるので国としての推計とは裏づける形で言えないと尾身財務相側が主張したのに対し(しかも国税の株式譲渡益分は3600億円ではなく3000億円と発言している)、大門議員は「でも共産党の試算では7500億円と出ている」と主張し、この点での論議は終えている。
つまり、7800億円という数字はあくまでも「求められたから出したけど参考にならんよ」という前提で出したにも関わらず、今回の「証券優遇税制廃止してれば7800億円超の税収増」では、あたかも国が確定した上での発言のように表記されているわけだ。
●別の視点からながめてみると……?
尾身財務相が述べているように、株式譲渡益や配当とそれにかかる税金については、税制そのものの状況に対する変動パラメータが大きく、今回の試算に何の意味もないことは明らか。例えば仮に一年延長がなされなければ、今年のうちに利益確定をしようという動きが進み、一時的に出来高は増え、適応年である今年の税収は昨年と比べれば多少は増えるだろう。しかし来年以降出来高は相当量減ることが容易に想像でき、税率が元に戻っても期待していた税収増は見込めないのは明らか。
さらに、代替措置なども無ければ市場全体の投資意欲も減り、株価も下がることが予想される。そうなれば、証券税制云々だけの問題ではなくなる。
つまり単純に「一年税制優遇を延ばすと7000億円だの1兆円だの税収が減る、だから延期を止めればそれだけ増える」というのは、例えるのなら「一食あたりの食事の量を変えずに一日三食を二食に減らせば、ダイエットできるよ」と言っているのと同じである。実際にそんなことをすれば栄養のかたよりからかえって太る可能性もあるし、第一健康によくないのは日の目を見るより明らか。
というわけで、「証券税制優遇措置の一年延長を止めれば、7800億円から1兆円の税収増になる」というお話にはダウト、といわせてもらうことにしよう。
そして最後に、今件を調べていく過程で気になったこと。
朝日新聞が用いた表現「証券優遇税制」(当方では「証券税制優遇措置」と表記している)について【ニュース記事を検索】したところ、検索対象となるのは「朝日新聞」と「しんぶん赤旗」のみだった。これは何かの偶然だろうか。それにしてはこの一致度の高さには驚かされる。シンクロナイズドスイミングなら金メダルも夢じゃない。随分と仲のよい話ではある。
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