「給食費未払い問題」文部科学省発表のデータを精査してみる

2007年01月27日 19:00

給食イメージ先に【給食費未払いは全国で約10万人、22億円に・親の責任感やモラル低下が主要因】でもお伝えした給食費の未払い問題の報道で、調査を行った【文部科学省】側は「日付上」1月24日、今件に関する調査結果報告を公式サイト上に掲載した(【発表リリース】)。実質的な掲載は1月26日。

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今資料は資料上の日付である1月24日にマスコミや教育関係者向けに配布されたものの、文部科学省のサイトには当初掲載されていなかった。当方(不破)も確認したが1月25日の段階では「掲載していません。また、掲載する予定もありません」というものだった。しかし問い合わせが多数寄せられたのか、1月26日になって公開するに至っている。

報告書ではまず学校給食法第6条第2項で「学校給食の運用経費のうち、施設設備費や人件費以外の食材費等について保護者が負担すべきこと」と給食費の支払いが法的義務であると述べた上で、概要(通知)として、

・全国の小中学校の約44%で給食費未納問題。児童生徒数では約1%に未納問題。
・学校給食は栄養バランスなどの点だけでなく食生活や食習慣の情緒教育にもプラスになり、地域文化や産業への理解を深めるものなどきわめて有意義。保護者への認知を強めるべき。
・未納保護者に教員などの関係者の労力が割かれ、教育充実のための時間が損なわれる現状は問題。PTAなどの協力も必要。
・経済的問題から未払いとしている児童生徒にはさまざまな援助システムの利用をうながす。ただ、そのシステムを利用しているにも関わらずその金銭を別の出費に充てている保護者もいるので注意が必要。
・学校給食の未納問題で担任や校長など特定の教育担当者のみに負荷がかかる状況も見受けられる。特別編成チームなり学校全体でサポートすべき。


などと述べている。

さて、具体的な調査結果だが、一部について順を追って精査してみることにする。

給食費未納状態
給食費未納状態
未納生徒児童数と全体に占める割合
未納生徒児童数と全体に占める割合

小学校は6年間・中学校は3年間ということを前提に考えると、単純計算で小学校は中学校の倍の絶対値となるはずなのだが、実際にはそのような結果は出なかった。小学校より中学校の未納状態が高く、半数以上の学校で未納生徒児童がいるという結果になっている。近所に2校中学校があればうち1校は給食費を未納している児童生徒がいる計算。また、未納児童生徒の比率も中学校は小学校の1.6倍強の割合で高い。

続いて学校側の認識における、児童生徒たちの未納の主な原因。「その他」もあるが、経済的なものか保護者のモラルの低下によるものか判断出来なかったものがほとんどのため、実際には前者ニ選択肢とももう少し増える可能性がある。

学校給食費の未納に関する学校の認識
学校給食費の未納に関する学校の認識

小中学校いずれも約6割が「保護者としての責任感や規範意識が問題」ととらえている。具体例は報告書には記述されていないが、先の報道で「払える経済状況なのに払わない」「義務教育だから払わなくてもいいと主張し払おうとしない」と挙げられた保護者の実例もこちらに入るのだろう。一方で「経済的な理由で未納せざるを得ない」状況に置かれている児童生徒が約3割いることも大きな課題として論じられるべきである。

未納児童生徒数や数が以前と比べて増えたか減ったかという問いには全体として未納が2005年にあった学校では

・かなり増えた……13.0%
・やや増えた……36.0%
・変わらない……39.2%
・やや減った……8.9%
・かなり減った……2.9%


という結果が出ており、「やや増えた」「かなり増えた」をあわせた「以前より増えた」と回答した学校が半数近くに及び、「以前より減った」は1割程度に過ぎないことが分かる。これは全体的な傾向として未納が2005年度に起きた学校では「未納状態が悪化している」と見てよいだろう。

さらに、未納が増えた原因については

・保護者としての責任感や規範意識……69.6%
・保護者の経済的な問題……37.7%
※複数回答


となっており、「保護者のモラルが低下したため、未納状態も悪化している」と容易に推測できる内容のものになっている。複数回答ではあるが、保護者のモラルを問うている比率が未納の現状認識よりも1割ほど多いあたり、学校側の思いが見て取れる。

一方で、改善策についての具体例も報告書では語られている。かつて未納状態だったが現在無くなった学校における対応事例(=成功事例)として多い順に並べると

・督促の継続や強化
・保護者との個人面談や家庭訪問
・学校全体での取り組み
・就学援助申請の推奨
・就学援助費の学校長への直接交付
・現金出納等に徴収方法を変更
・教育委員会やPTA等との連携


が挙げられている。「無くなった」ではなく「減少した」学校の事例もリスト化されているが、順番が多少異なるだけで中身は同じである。ただ、減少例にはその他の事例として「学校給食の教育的意義を説明」というものがある一方「支払いを求める法的措置の実施」という最終手段の遂行をしたものもあった。

報告者では県別の未納率などもレポートされているが、地域別の問題はこの数字だけでは推論にすら至らない(「地域格差」云々以外にさまざまな事情があると思われる)のでここでは精査しないでおく。

ともあれ、給食費未納、つまり「未払い」が親の意図的なものによる「不払い」の割合が過半数を占めていること、学校側も色々と手を打ってはいるが、さまざまな問題がありすぐに解決できる類のものではないことなどが分かる。学校は基本的に「生徒児童を学問の面で教育し、情緒教育を行う場」であって、「保護者のモラルを説き、社会人としてもって当然の責任感や規範意識を身につかせる」場ではなく、またその権限も持ち合わせていないからである。とはいえ、このままでは不平等感が広まる(「逃げ得」がまかり通り)のも事実であり、何らかの手を打たねばならなくなるのも確かだろう。

本来であれば「大人」なら、言われなくとも分かるようなことが分からない。よく文章や説明書、解説記事において「自分が分かっていることがすべて相手も分かっているとは限らない」「基本的なことが実は一番難しい」ということを思い知らさせる場面に出くわす。今回の「保護者の責任感や規範意識の欠如」を見るにつけ、つくづくその言葉たちを再認識させられた気分だ。

ほんのちょっとずつだけ、もう少し皆が相手のことを思いやり、大人になるだけで、世の中はもっともっと良くなるものなのに。

※2月1日:指摘を受け精査した上で、二か所ほど表記を改めました。→訂正終了。

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(最終更新:2013/08/23)

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