もう一つの大増税!? 税源移譲で変わる国民健康保険の額

2007年01月23日 12:30

先に【1月から所得税が減ってもぬか喜びはダメよ・「所得税マイナス」+「住民税プラス」+「定率減税廃止」=「増税」】で、国税と地方税の徴収比率が変わり、所得税は減るがその分地方税の住民税が増えプラスマイナスゼロ、定率減税分が無くなって結局増税になるという話を掲載した。その後【掲示板】で「国民健康保険が大幅にアップするのでは!?」という指摘をいただいた。

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指摘はハバネロさんからのもの。いわく、

「国民健康保険料は住民税基に出すから、保険料も倍増するということですか」
「不破雷蔵さんは世田谷ですよね、所得割り額は加入者全員の住民税額で計算するようですよ」


とのこと(ちなみに当方は東京都練馬区在住である)。先の記事を書いていた時に、なんとなく頭にひっかかるもの、つまり「住民税が上がるのなら他に何か影響があるんじゃなかろうか」があったのだが、それがまさにこれだった。その場では一度「住民税ではなく、所得を基本にするからそんなことはないと思いますよ」と答えたものの、よく調べるとどうも色々複雑な問題があるらしい。そこで詳しく調べなおし、役所にも問い合わせてみた。


国民健康保険料の計算式と「大幅アップ!?」の根拠

まずおさらい。日本では国民皆保険といってすべての人が必ずいずれかの(公的)医療保険に加入する仕組みになっている。そして医療保険はサラリーマンや公務員などが加入する「健康保険」と、自営業者などが加入する「国民健康保険」に分けられる。「健康保険」の場合はお給料(と賞与)の額に基づいて等級区分で分類されて算出され、勝手に天引きされる(給与明細に記述がある)。今回問題になるのは後者の「国民健康保険(国保)」の方だ。

国保保険料は次の計算式で算出される。

「医療分保険料(所得割)」(1)+「医療分保険料(均等割)」(2)

(1)=世帯加入者全員の住民税額×係数(1.82)
(2)=33300円×世帯加入者数

※いずれも【東京都練馬区】の場合、以下同
※最高限度額53万円


この計算式にある「住民税額」が、先の記事の住民税額そのものであることを考えると、単純に計算すれば

「住民税が上がる」→「国保保険料が上がる」
・先の記事の例「10万円の住民税が20万5300円になる」なら、年間19万1646円国保保険料が上がることになる。


という、エラい結果が出る。係数が約2なため、住民税の2倍近い国保保険料のアップが見込まれる、ということになってしまう。

住民税額によって税源移譲による増加率は異なるので一概にはいえないが、この計算が正しいとすれば自営業者や個人事業主、学生などは大規模な事実上の増税(国保保険料は厳密には保険料であって税金ではないが、事実上税金のようなもの)という結果が出るのだが……


「所得割」は住民税ベースから所得ベースへ

と、ここまでで一区切り。実際に「国保保険料が大幅アップするの!?」かについて調べたところ、次のようなことが判明した。まず一つには、「所得割」の部分の計算に「住民税」を用いる地方自治体は少数派であるということが挙げられる。

どういうことかというと次の通り。「住民税」を元に国保保険料を計算したのでは、税制改正のたびに住民税が直接保険料に反映し、世代間、世帯構成で保険料負担のバランスが変わるなど、個々の世帯への影響が大きいものとなってしまう。そこで「住民税」ではなく、総所得金額に応じて保険料を算定する「所得比例方式」が大多数の地方自治体で採用されているというものだ(【参考:福岡市の場合】)。今回のような税源移譲があっても、おおもとの所得が変わるわけではないので、国保保険料の計算も変化はないということになる。

ちなみに東京23区では「住民税方式」を採用しているが、これはむしろ少数派とのこと。現在住民税方式の地方自治体も少しずつ所得比例方式に移行しているようだ。


「住民税ありき」ではなく「自治体の医療費の総計」で国保保険料は決まる

もう一つ。「所得割」で「住民税方式」を採用している自治体でも、係数に相当する部分(上記例なら1.82)は毎年変更されるとのこと。そして国保保険料の計算は「住民税ありき」ではなく、「医療負担を平等に」との考えから決められる。つまり「住民の医療費の合計を概算」し「それを皆で平等に負担するべく」係数が定められ、その計算式の中で住民税が使われるに過ぎないという。だから「住民税の税収が増えたからその分、それに伴って増える保険料でウハウハ~」というのではなく、「住民税の税収は増えたけど医療費合計は変わらないから、係数を調整しなければ」という仕組みなのだそうな(練馬区国民年金課Tさん談)。

この係数は上記例の練馬区の場合、3月には議会に提示され決定するとのこと。今回の税源移譲で住民税が増えるのは間違いないから、その分係数は減らされ、「住民税の増税に寄る国保保険料の増加は無い」ようになるとのこと。もちろん個人によって誤差があるので、場合によっては保険料の増減は考えられる。

「もしかしたら住民税が増えただけでなく国保保険料もドカンと増えて、結局定率減税分どころか租税公課としては大幅アップじゃないか!」という懸念はとりあえず払しょくされたといえる。

とはいえ、「国保加入者」で「住民税方式」を適用している地域に住んでいる人にとって、今年以降の係数がどのように調整されるのか、決定するまで気が気でないという人も多いだろう。自治体の広報誌やサイトにしっかりと目を通しておき、いざ国保保険料の請求が来たときに「なんか違うな」と頭にはてなマークを浮かべないようにしたいものである。


■税源移譲と増税に関する一連の記事:
(6/22)【「住民税が2倍に増えた」「自営業者はツラい」の謎を探る(3)……他の税制の対応が追いついていない】
(6/22)【「住民税が2倍に増えた」「自営業者はツラい」の謎を探る(2)……定率減税廃止がかなめ!?】
(6/19)【「住民税が2倍に増えた」「自営業者はツラい」の謎を探る】
(6/13)【住民税倍増でクレーム殺到・税源移譲問題再考】
(3/23)【「税源移譲」「定率減税撤廃」3割が知らない】
(1/23)【もう一つの大増税!? 税源移譲で変わる国民健康保険の額】
(1/21)【1月から所得税が減ってもぬか喜びはダメよ・「所得税マイナス」+「住民税プラス」+「定率減税廃止」=「増税」】

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