住宅業界では一般的に、顧客と契約した時点ではなく、住宅が完成して引き渡した段階ではじめて売上などをその期の決算に計上する。このため、同セクターの多くの企業が上半期と下半期で売上が大きく異なる、つまり引渡しが発生する下半期に売上が集中するという現象が起きる。もちろん建設が期をまたげば、売上は(完成する)次の期に繰り越されることになる。

元記事の指摘によればミサワホーム九州では未完成の住宅に対し、「カーテンをつけて内部を隠す」「すでに入居者がいる別の住宅に監査法人を案内する」「完成した別の表札を差し替える」などの手段を用い、すでに完成しているように見せかけ、未完成の住宅を完成して顧客に引き渡したことにし、売上を前倒しして計上したという。

ミサワホーム九州が疑問視されている5年間で手がけた住宅は4000棟ほどで、今回発覚した「前倒し計上」は全体の1割ほど。単価は2000万～2500万円が中心で、4000×10％×2500万円≒100億円で、最大100億円の粉飾の可能性がある。

従来完成した段階ではじめて売上が計上されるのに、建設中の住宅を完成したものとして前倒しで売上が計上された。あくまでも前倒し計上であり、架空の売上計上ではないので、対象期間すべてにおける総売上は(建設途中のを別にすれば)変わらない(図面クリックで拡大図が表示されます)。

今報道に対しミサワホーム九州は自社から発表したものではないとした上で、「本来翌期に計上しなければならない売上を先行して計上するという不適切な会計処理があったことは事実である」とし、指摘された会計操作を認めている。また、今件については12月18日に記者会見を開いた上で調査結果の説明を行うとしている(【発表リリース、PDF】)。

今件は11月13日にミサワホーム九州とミサワホームホールディングス両社が11月13日に9月中間決算の発表を予定していたものの、ミサワホーム九州がみすず監査法人(元中央青山監査法人)の事前情報に基づく抜き打ち検査をした結果、粉飾の疑いが浮上した流れで発覚したもの。関わった社員からも「上司の指示で故意に決算をごまかしてきた」という証言が得られたとのこと。このため中間決算発表は延期されていた(【発表リリース、PDF】)。

売上の前倒しという形での決算の偽装については、グループ全体が経営不振となり産業再生機構の支援を仰いでいる中、業績向上を迫られ、(ミサワホーム九州の)トップも含め、目標達成への強い思い入れが原因だとしている。

元記事でミサワホームホールディングスの中神正博代表取締役専務が述べているように、現在わかっている限りでは売上そのものを架空計上しているわけではない。しかし前倒しされた売上は「従来計上されるべき会計期では計上されない」がために、その期の売上を調達するためにまた前倒しをするという、まさに「借金を返すために借金をする」ような泥沼化におちいっているともいえる。

この5年の間には「産業再生機構による支援決定」(2004年)、「再建買取や銀行などの債権放棄」「[トヨタ自動車(7203)]などを引き受け先とする第三者割当増資」(共に2005年)などが行われている。前倒しがなされずに本来あるべき姿での財務計算が行われていれば、これらの判断が異なる結果になった可能性もあり、ことは重大といえよう。

単なる計算ミスではなく意図的な大規模な工作だったことや、5年間にも及ぶ長期に渡る調整が行われていたことなどから、各証券取引所の上場廃止基準(有価証券報告書の虚偽記載)などに抵触する可能性も否定できない。

月曜の正式発表でどこまで真相が語られるのか、また各証券取引所などの判断がどのように下されるのか、注意深く見守りたいところだ。