「黒字ドットコム」の今を探る……その3
2006年10月21日 19:30
かつて「ドットコム企業に非ずば人にあらず」とまでに我が物顔で世間を騒がせ周囲からは「平家物語みたいになるぞ」と突っ込まれ、大部分がその通りになった「ドットコム・バブル」時代。盛者必衰の理(ことわり)をあらわすとおり当時の盛衰は今や歴史物語として語られるほど。その激動の時代の中でも耐え抜き、むしろ躍進した中小のIT企業サイトをピックアップした解説書が『黒字ドットコム―小資金で利益を出した米国中小サイト』。この「黒字ドットコム」に掲載されている「成功事例」について、6年経過した今はどうなっているのかを追調査しているのが今コラムの主旨で、実際の調査は今回で二回目。
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「余計なお世話では」という意見もあるが、その理由は【「黒字ドットコム」の今を探る……その1】でも述べたとおり。いまだに企業・サイトとして残っているのなら、低迷が続く新興市場銘柄の中からお宝銘柄を選択する際のヒントが得られるのではないか、少なくともビジネスのヒントが得られるのではないだろうか、そう考えたわけだ。……まぁ、正直この辺の言い回しは毎回ほとんど流用できるので助かっている(笑)。
さてそれでは早速始めることにしよう。
■ガブコン(GovCon)
掲載時のURLは【http://www.govcon.com/】。日本ではちょっと想像がつかないのだが、冊子の記述いわく「連邦政府の請負納入業者向け情報サービス」「政府請負納入業者の受注をサポートするために、連邦政府の入札情報が載った日刊新聞や、連邦政府の規制など政府請負納入業者にとって必要な情報を無料で提供」しているというサイト。記事掲載時にすでに登録会員数は10万人を突破している。ビジネスモデルはずばり広告ベース。単に情報提供を行うだけでなく、業者どうしのマッチングサービスや情報誌のオンライン以外での閲覧を有料化したり、登録会員のデータベースに課金するなどし、収入を得ている。いわば「政府向け案件の総合情報・コミュニティサイト」的な立場。
ビジネスの柱となる情報が「政府提供の公用のもの」と「会員同士で生成されるデータ」という、「タダ」「自然増殖」といった(手間はかかるが)元手がほとんど要らないところから来ているのがポイント。
記事掲載の段階で大手に買収されて、その大手サイトの一部門となったとある。巻末に「買収されて以降、以前のような魅力が無くなった」というのが気になってはいたが……
現在のガブコン(GovCon)
何の問題も無く、当時のビジネスをそのまま継続していた。「面白みが無い」というのがよく理解できない……というよりはそもそも元のサイトをチェックしたことがなく、現在のサイトと比べてどうなのかが正直分からない。よって詳しいコメントはできないが、5年以上も同じビジネスを継続しているだけでも成功、といえよう。
このサイトの成功ポイントは
・市場の絞込みと早期参入による「ナンバーワン」の確保
・低コスト
・収入源の多様化
・複数サイト運営の経験の活用とリソースの共用
にあるとのこと。「あ、なるほど!」と思う人もいるはずだ。特に、公的機関の雑多な情報を整理して分かりやすくまとめ、政府も業者もハッピーになれるサービスを提供するあたりは「Win-Win」どころか「Win-Win-Win」的なものがあり、喜ばしい話。
■マチュアマート(MatureMart)
掲載時のURLは[ http://www.maturemart.com/ ]。高齢者向けアイディア便利商品の販売。関節炎用補具にはじまり台所商品、自動車のドアオープナー、印字の大きいトランプやゲーム、ボタンの大きいリモコンなど、「これは」と思えるようなものがありとあらゆるジャンルで取り揃えてある。
インターネットのごく初期の段階からネットビジネスに興味を持ち、1995年には早くもサイトを立ち上げたという。オンラインでの販売開始は1999年11月。記事掲載当時はネット売買と実店舗売買、カタログや電話注文売買など多彩なルートでの販売を行っていた。また今サイトでは代表者の祖母のローズ氏による「ローズおばあちゃん」のコラムが人気で、このコラム読みたさに同サイトを訪れる人も多かったとの話。
このショップの成功ポイントは
・供給不足の市場への参入
・大量ボリュームのデータベースの提供
・顧客ターゲットの「気持ち」を理解
・マルチチャンネルでの販売
・業務のアウトソーシングによる経費削減
だとのこと……だったのだが。
上記の文章でリンクが設定されていないことから何となくお分かりいただけただろうが、現在上記マチュアマートのURLの中身は18歳未満お断りな内容のサイトになっている。過去にさかのぼって調べてみると、
2001年3月:「Gold Violin」と提携。後に傘下になる。
(【関連リリース:Senior market draws the newest start-ups】)
2001年9月まで:サイトそのものは存在している。Gold Violinへのリンク設定。
2003年10月前後:同ドメインをドメインホールド会社が取得
(以後現在のサイトに至る)
という流れをとっている。「Gold Violin」の傘下になった直後は下部ディレクトリィに「http://www.goldviolin.com/maturemart」が用意され、支店のような扱いを受けていたようだが、現在ではそれも見つからない。試しに同社サイトの検索機能で「maturemart」をひいてみたが結果は「No products match your search criteria, please try again.(何もないよ、もう一度試してみてね)」とのつれない返事。
在りし日のマチュアマートと名物コラムの「ローズおばあちゃん」
前回のチーズケーキ屋と違い、実店舗のデータすら見つからなかったので、あるいは完全にGold Violin社に吸収されてしまったのか。今となっては把握のしようがない。冊子の最後には「まず国内市場の基盤を確固たるものにし、一年~一年半後に海外に進出する計画だ」と書かれてあっただけに、切なさを感じざるを得ない。
■ニルバナチョコレート(Belgium's Best Chocolates Inc.)
掲載時のURLは【http://www.nirvanachocolates.com】。詰め合わせのチョコだけでなく、色々なチョコをユーザが選んで詰め合わせを創り、購入できるサービスを提供している。ギフトとして、手書きのメッセージを添えることも可能だ。華氏74度(摂氏23.3度)以上の地域に発送する場合に向けて、溶けないようにする包装も用意されている。
同サイトは単なる通販サイトとしてではなく、「チョコレートの殿堂」的な意味合いもあり、チョコレートの詳細や栄養分表、ベルギーチョコの紹介、歴史、保存方法、各種レシピなど、ありとあらゆる情報が掲載されている。宣伝には口コミとアフィリエイト(代理店)システムを用いたという。
現在のニルバナチョコレート(Belgium's Best Chocolates Inc.)
チョコレート詰め合わせのカスタマイズ画面。右から選んで左のパッケージにセットしていく。1度クリックすると同じ種類のが2つまとめて詰められる。どんな種類を選んでも16個で22.95ドル、32個で36.95ドル
このショップの成功ポイントは
・チョコレートのカスタマイズ販売という独自アイディア
・本場ベルギーからの直輸入という同類他業者との区別化
・製造元からの直接仕入れによるコストダウン
・販売チャネルの多様化
ということだ。冊子ではこのショップのビジネスを「スモールビジネスだからこそできるもの、強み」と表現していたが、6年たった今でもまったくスタイルは変わらずに営業を続けているあたり(もちろんさまざまな機能は追加されているが)その言葉にいつわりはないのだろう。
今回も前回同様3つの企業について「その後」調査をしてみた。2社は健在、1社は行方不明という、前回同様微妙な結果。実は原本とは順番を多少入れ替えるところがあったのだが、それは「諸般の事情」として汲み取って欲しい。ともあれ、万物に共通する方程式など存在しないが、確率の高い「法則のようなもの」を見出すことはできるかもしれない。また、新興市場などの銘柄チョイスのヒントとしてだけではなく、ウェブ上のビジネス構築・考案の際のヒントも見出せるかもしれない。
■関連記事:
【「黒字ドットコム」の今を探る……その1】
【「黒字ドットコム」の今を探る……その2】
(最終更新:2013/09/15)
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