「黒字ドットコム」の今を探る……その2
2006年10月15日 12:30
かつてアメリカだけでなく日本でも「ドットコム企業」が一世を風靡し、我が世の春を謳歌した「ドットコム・バブル」時代。そのパラダイスはあっという間に風塵に帰し、今や歴史物語として語られるほど。その激動の時代の中でも耐え抜き、むしろ躍進した中小のIT企業サイトをピックアップした解説書が『黒字ドットコム―小資金で利益を出した米国中小サイト』。この「黒字ドットコム」に掲載されている「成功事例」について、6年経過した今はどうなっているのかを追調査しようというのが今記事の主旨。
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「余計なお世話では」という意見もあるが、その理由は【「黒字ドットコム」の今を探る……その1】でも述べたとおり。いまだに残っているのなら、低迷が続く新興市場銘柄の中からお宝銘柄を選択する際のヒントが得られるのではないか、そう考えたわけだ。……強引かもしれないけど。
さてそれでは早速始めることにしよう。
■バック・ビー・ニンブル(Back Be Nimble)
掲載時のURLは【http://www.backbenimble.com/】。サイト名の「背中がやわらかくなりますように」というたりからも分かるように、腰痛グッズを販売するオンラインショップのパイオニア的存在。設立は1994年。第一番目のサイトから「ポジション・ロストしました」などという、それこそサイト名に合わせて「腰砕け」な結果になるのではないかと心配したが、まったくの杞憂。掲載時から6年経った今でも元気に運営されていた。
現在のバック・ビー・ニンブル(Back Be Nimble)
このショップの成功ポイントは
・ニッチ市場への参入
・豊富な品揃えと分かりやすい商品説明
・サイトのユーザービリティへの考慮と顧客サポート
・システム運営上の安定性
にあるとのこと。これは中小規模のオンラインショップにおける成功方程式としてはごく当たり前、しかしなかなか守れないものといえる。
■シェフサンボーン(Chef Sanborn)
掲載時のURLは【http://www.nakedcheesecake.com/】。完全なサイト上のみの運営でチーズケーキを販売するショップ。シンプルな商品だけを提供する代わりに、その商品には妥協を許さないという「職人芸」的な展開。この店では注文を受け付けるだけで実際にチーズケーキを作り送るのは別の専用業者。ただしレシピなど製造方法はシェフサンボーン秘伝のものであり、ベーカリーのスキルも厳しい審査をクリアしたもので品質には問題が無い。
このショップの成功ポイントは
・オリジナルレシピへのこだわり
・低創業コスト
・レシピ提供と注文受付だけのため赤字にならないビジネスモデル
ということだった。それにしては紹介記事の最後に「2万5000ドルを投じてサイトを大幅に拡大、ドメインやサイト名も変更、チーズケーキの種類やオプションも増やす」という、ちょっとこれまでの方針とは異なる姿勢を見せていたので気になってはいたのだが……
2000年当時に変更予定としていた【http://www.nakedcheesecake.com/】をチェックしたところ、アクセスが出来なくなっていた。ドメインの所有者情報を見ると別人が保有しており頭に「?」マークが浮かぶ。そこで元々のサイト【http://www.chefsanborn.com/】の過去データを調べてみたところ、2001年1月までは確かに存在していたことが分かった。一方移転先のサイトは検索ロボットそのものを拒否していたようで過去データの取得ができず、分からない。
2001年1月段階でのシェフサンボーン(Chef Sanborn)のサイト。キャッシュデータのため一部欠損している部分があるのは御了承願いたい
アメリカの企業データベースを調べると、店そのものは今でも存在するもよう。ただ、他の類似業者に吸収されたとか店名を変えたという話は無いので、インターネット事業からは撤退したのでは……という推測ができる。
記事の上ではきわめて順調にビジネスが推移していて、意気軒昂としていたのにどうしてとい気がする。やはり2000年の大規模な方針転換がアダとなったのだろうか。
■フリッジドア・コム(Fridgedoor.com)
掲載時のURLは【http://www.fridgedoor.com】。冷蔵庫のドアに貼り付けて使う磁石の専門サイトという、きわめてコアでニッチなニーズに応える商用サイト。まさに世界中をまたにかけて販売できるインターネット通販サイトならではのビジネスモデル。他のコアな趣味趣向同様に、この「冷蔵庫磁石」の世界は奥深く、かつ市場が小さいために「巨人」たる会社もいない。「アマゾン・コムの磁石版になれるかも」というコメントが印象的。
現在のフリッジドア・コム(Fridgedoor.com)
このようなコアな市場は、たとえば冷蔵庫が世界中から消え去ったり磁石の販売が制限されるという情勢変化が無い限り永続するし、ブームとその後の衰退に巻き込まれることもない。期待通り掲載時から6年経った今でも元気に運営されていた。
このショップの成功ポイントは
・ニッチでリーディングカンパニーのいない市場をターゲット
・豊富な品揃えと分かりやすい商品説明
・同じニーズを持つ顧客に多数の商品を提供(アマゾンの「こんな商品もおすすめです」みたいなもの)……趣味の世界では特に有効
・顧客サービスの充実による口コミの伝播
ということだ。当方は磁石収集を趣味にしているわけではないが、サイト上に並べられている磁石たちを見ると、なるほど確かにちょっと欲しくなってくる。お値段も1つあたり数ドル(猫のは2.99ドル……300円強)と手ごろなのもポイントだろう。
今回は取り急ぎ冊子の頭から3つの企業について「その後」調査をしてみたが、2社は健在、1社は行方不明という、微妙な結果となった。万物に共通する方程式など存在しないが、確率の高い「法則のようなもの」を見出すことはできるかもしれない。
(最終更新:2013/09/15)
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