遊びでないシミュレーション性の強いゲーム「シリアスゲーム」たちがアメリカで脚光、低予算で訓練ができると人気

2006年09月19日 12:30

Incident Commanderイメージ【Fuji Sankei Business i】によると、アメリカで非娯楽用途のパソコンゲーム、特にシミュレーション系のゲームが脚光を浴びているという。ゲーム会社が政府機関などから要請を受けて開発するスタイルで、一括購入されるため、普通のゲームのように売れ行きに業績が左右される心配もなく、安定した収益が期待できる。ゲーム産業における新しいビジネスモデルとして期待されるとの声もある。

スポンサードリンク

元記事ではアメリカのゲーム開発大手である【BreakAway】社が開発した【Incident Commander】が取り上げられている。これは災害対策の予算不足に悩むアメリカの自治体が、ゲームでハリケーンなどの自然災害や有事の対応を訓練するために開発を依頼したもの。自然災害の発生やテロリストによる攻撃、人質事件などを擬似的に体験し、政府の指針の枠内で予算を組み、住民への物資補給や通信線確保などの緊急対応のノウハウを学べる。2001年からアメリカの司法省が開発を依頼し、今年8月末に完成した。

要はコンピュータや通信インフラが普及し、災害時の指揮系統もネットワークを通じてコンピュータ上から行えるようになった。ディスプレイ上に映し出されるものはデジタルデータ化されたものに過ぎない。ならばそれが本当の事件を反映しているものか、シミュレーションによるものかの区別はつきにくいという状況にあるのだから、指揮系統の場面におけるシミュレーターとしては創りやすく、訓練もしやすいということである。さらに(消防車やクレーン車などのような)実物を動員するのではないから、経費も安上がりで済む。

Incident Commanderゲーム画面
Incident Commanderゲーム画面

記事によると司法省は35万ドルを拠出しアメリカの自治体が無料で使えるようにし、一方で開発には150万ドルかかったという。このままではBreakAway社は大赤字になるが、何らかのからくりがあるのだろう。ともあれシミュレーターの無料公開は、中小の地方自治体には大きな需要があると期待されている。

実際にこのゲームの開発途中バージョンで訓練をしたイリノイ州の看護師が去年の8月、ハリケーン「カトリーナ」の来襲直後に混雑する病院でゲームのノウハウをうまく活用できたことが今ゲームを実用性のあるものとして注目を集める一因にもなった。

すでに多くのゲームプレイヤーが御存知の通り、「ゲームをシミュレーターとして現実の体験に活かす」という点では軍事部門が大きく先行している。3D描写によるリアルタイムガンシューティングタイプのアクションゲームでは、多くのタイトルが発売され、また教練用に利用されている。アメリカ陸軍が多額の軍事予算を投入して作った【America's Army - Special Forces】も無料公開され、現在600万人もの利用者がプレイしているという(これも開発はBreakAway社)。

日本ではこのようなシミュレーション性が強く、公的にも利用されうるもの、あるいはメッセージ性の強いゲーム(あるいは現実の社会問題や経済問題を取り扱い、シミュレーション性・教育性の高いゲームソフト)を「シリアスゲーム」と呼んでいる。

当方(不破)の手元にも資料として、アメリカ西海岸の大地震(ロサンジェルス大地震)をきっかけに作られた「地震災害の際に救急隊などを適切に派遣するためのリアルタイムシミュレーションゲーム」こと『The Big One』というタイトルがある。これはWindows3.1用のもので製造は1994年。当時としてはよく出来た内容だったが、日本ではこのようなエンターテインメント性の低いタイトルはあまりウケがよくなく商業的にも成功を収めることがないせいか、移植されることもなければ話題にのぼることもなかった(ちょっとだけ某誌で記事を書いた記憶もある)。

The Big Oneパッケージ
The Big Oneパッケージ

アートディンクが建設省(現在の【国土交通省】)の監修のもと、河川行政の大切さをプレイを通して理解するためのゲーム『リバティータウン』は、日本国内で作られた今回の記事のテーマにマッチした数少ない「シリアスゲーム」であるといえる(CD-ROM付の書籍のスタイルで発売された)。また、ゲーム性は強いが、『シムシティ』をはじめとする『シム』シリーズも、都市開発行政を学び訓練ができるゲーム。

ゲームそのものの市場の、エンターテインメントオンリーとしての市場の伸びに鈍化が見えてきたこと、そしてネットの普及やパソコンそのものの性能の向上でシミュレーション性を高めたソフトの開発が可能になったこともあわせ、「手軽に訓練ができるシミュレーター」としてのシリアスゲーム、シミュレーションゲームのニーズがゆっくりとではあるが、高まりつつあるあるのは間違いない。

日本の現状はといえば、残念ながらこの分野のゲームソフトは(「ゲーム」がまだまだ単なる「遊び」としか見受けられず、公的機関などでの訓練としては採用されにくいこと、文化的に軽んじられていること、ソフトが創られてもそれを解説紹介する人材が不足していることなどから)さほど大きなビジネスにはならず、ほとんどのメーカーが撤退してしまっている。

ニーズはあるのは間違いない。無いように見えても掘り起こせば無尽蔵にわき出てくるような状態だといえる。あとはいかに「ビジネスになるか」(採算がとれるか、儲けられるか)。この点さえクリアできれば、日本でもパソコン上における非娯楽性ゲーム、シリアスゲーム、訓練用シミュレーターソフトの市場は大きく伸びることだろう。優秀な出来のシミュレーターが開発されれば、訓練費の削減にもつながることだろう。

それを認識してもらった上で、官公庁にもっとこの分野での予算配分を増やしてもらうことを熱望したいところ。まずは防衛庁や経済産業省、環境庁あたりが適切な対象と思われるが、どうだろうか。


■関連記事:
【中東情勢を再現したシミュレーションゲーム、アメリカの大学院生らが開発し会社も設立】
【食糧援助体験ゲーム『FOOD FORCE』が3日間で10万件のダウンロード】
【コナミ、WFP作成の食料援助体験ゲーム『FOOD FORCE』日本語版作成】

(最終更新:2013/08/26)

Related Posts Plugin for WordPress, Blogger...

スポンサードリンク



 


 
(C)JGNN||このサイトについて|サイトマップ|お問い合わせ